岩田 | 梅田さんが書かれていたなかで すごくおもしろいなと思ったのは、 あるときから、原則として、 「自分より年上の人には会わないことにした」 っていうことなんです。 ま、今日はちょっと違いますけどね。 |
糸井 | あ、ぼく、ちょっと年上ですね(笑)。 |
梅田 | (笑) |
岩田 | つまり、年上の人には会わない という線を引くことで、 誰かから依頼があったときでも、 断りやすくなるんです、と。 それで私は、梅田さんがこれから どういうことをしたいのかというのが すごくクリアーにわかったんですけど。 |
糸井 | うん、よくわかりますね。 |
梅田 | でも、糸井さんが 「ほぼ日」をつくったときって、 私のその気持ちにずいぶん近いんじゃないですか? |
糸井 | 近いです。 |
梅田 | ねぇ。 |
糸井 | もうそのままですね。 |
梅田 | 糸井さんが昔、コピーライターとして、 プロジェクトを起こして ものを広めていたときというのは、 ちょうど三十代のころに 五十代、六十代の経営者の人に向かって 話をしていたわけですよね。 |
糸井 | そうですね。 つまり、その人たちが気に入ってくれるから、 やりたいようにやらせてもらえるという構造で。 |
梅田 | ええ。 じつはぼくも三十代のころに コピーライターじゃないんですけど、 コンサルタントをしてましたから、 構造としては似てるんですよ。 20歳くらい上の人たちと つき合いながら会社をやっていくという。 で、あるときに、 そういうのはもういいやと思ったんです。 |
糸井 | すっごいよくわかる。 |
梅田 | ええ、すごく似ていると思います。 それまでの、大きな事業のために 動くことはもういいから、 新しいことをやろう、と。 お金はたしかに必要だけど、 お金のために事業をやるのも違うだろうと。 そこは、あるとき、42歳くらいのときかな、 バーンと変えました。 |
糸井 | そんな年ですよね。 ぼくも45歳くらいのときに端境期があって、 1回、仕事をストップさせてるんです。 で、釣りばっかりしてた(笑)。 おもしろいなぁと思うのは、 そのころも、岩田さんとは会ってたんだよね。 なんだろう、岩田さんと会うことは、 仕事だとは思ってなかったのかな(笑)。 |
岩田 | たぶん、仕事じゃなかったんですよ(笑)。 あのころは、私と話すことを、 おもしろがってらっしゃったんですよ。 |
糸井 | なんなんだろうねぇ(笑)。 |
岩田 | 梅田さんは、 若い人たち、若い会社に対しては、 どう思ってらっしゃるんですか。 ベンチャーと呼ばれるような若い会社とも おつき合いがあるでしょう? |
梅田 | ぼくが若い人たちによく言うのは、 ぬるま湯に慣れてしまうのはよくない、 ということですね。 やっぱり、いったんベンチャーと名乗って、 さらにそこに集まってきた人がいる以上は、 ステップアップしていってほしいんです。 ある若い会社が、スモールビジネスを回して、 潰れずに存続していくのは、 じつはそんなに難しいことじゃないんですよ。 それなりに文化的な貢献があって、 局所的に「おもしろいな」と思われながら、 なんとなく続いていく会社って、多いですから。 でも、気づくと同じステージのままで 10年、20年経っちゃった、 というふうになる可能性だってある。 それはベンチャーではないと思うんです。 |
糸井 | なるほど。 |
梅田 | なにか自分のやりたいことがあって、 その好きなことをやって過ごしていると それを喜んでくれるユーザーの方が集まってくる。 でも、ここで完結しているだけだと、 そのつぎへ進むのに、足りないんですね。 英語でいうと「コンフォートゾーン」 という言葉があるんです。 「Within the Comfort Zone」とかね、 要するに、自分が非常に居心地のいい場所にいる。 そこそこ利益が出て、 20人くらいの社員に給料も払えて、 ある種のユーザーからは喜ばれている。 だけど‥‥ということですね。 |
岩田 | それは「ぬるま湯」だと。 |
梅田 | そうですね。 そのコンフォートゾーンを超越した対極の存在として、 たとえば、Googleがいるわけです。 あるビジネスでうまくいったとしても、 そのお金を狂気のように使っていく、みたいなね。 で、結果的に、Googleの社員の毎日の生活が どういうふうになってるかというと、 やっぱり、ものすごく厳しいんですよ。 グローバルにみんなが働いていて、 本当に寝る時間がないって言ってる。 だから、コンフォートゾーンを 完全に超えちゃってるんですね。 人もどんどん入れ替わるけど、 会社は確固たるミッションを持って動いている。 まぁ、それはすごく極端な例ですが、 スモールビジネスのサイクルを回しているだけでは、 どうしてもできることは限られますよ。 だから、若い人たちと話すときは、 「どうやったらつぎに行けるんだろうね」 ということをいつも問いかけている。 シリコンバレー流の乱暴な手段でいうと、 無理してでも投資家からお金を集めちゃうんです。 で、期限を区切って、それを使う。 達成できなかったらどこかに吸収される。 シリコンバレーというのは、そうなんですね。 |
岩田 | まず、背伸びするというか。 |
梅田 | そうです。 ぼくもシリコンバレーに来て14年経ちましたけど、 あそこの荒っぽい文化としては、 全員をコンフォートゾーンじゃないところへ 強制的に追い込むんですよ。 そうすると突然変異が出るというメカニズムで。 |
糸井 | なるほどねぇ。 靴を脱がない人たちの文化だね。 |
梅田 | いま、そこにアイデアがあるんだったら、 お金を集めてきて、 そのアイデアにまずお金を使え、と。 ところが、日本の創業者っていうのは、 やっぱりいまの自分のアイデアが、 自分のすべてじゃないだろうって思うんです。 来年、もっといい考えが浮かぶかもしれないし、 再来年はもっとよくなるかもしれないから、 現状のままで推移していきたい という気持ちがあるわけですね。 だから、時間なんかに区切られるのはいやで、 自分で状況をコントロールしたいと。 それは、イコール、ぬるま湯の中に とどまるということでもあるんです。 |
糸井 | うーん、ぼくは、両方の気持ちがわかりますね。 |
梅田 | だから、このあたりは、難しいんです。 |
岩田 | 問題は、いつストレッチするかなんですよね。 天の時と噛み合ったら‥‥。 |
梅田 | 勝負なんですね。 |
岩田 | 勝負なんですけど、 天の時と噛み合わない時にストレッチすると、 たいてい、破滅が待っているので。 |
梅田 | そうなんですね。そうなんですよ。 |
糸井 | で、放っておけば、ぬるま湯にいますよ。 |
岩田 | ええ。そこが、だから、難しい。 (続きます) |