糸井 | インターネット上では、 適切な大きさの問題さえ生まれれば、 そこに問題があるというだけで それを解決する人が現れる。 いや、この理論はいいですね。 |
梅田 | だから、この話を聞いたとき、 どうやったら適切なサイズの問題を つぎつぎに生み出すことができるんだろうか、 って思ったんですね。 つまり、適切なサイズの問題をつぎつぎに生み出し、 それの集まった総体を意図する方向に 向かうようにデザインできる人こそが、 これからのインターネットのリーダーというか、 未来のリーダーシップなんじゃないか というような予感がしたんです。 |
糸井 | そうですね。 だからやっぱり、その問題なり、総体なりに、 魅力というのはなきゃいけないんですよね。 わかりやすい例でいうと、 ぼくらも「ほぼ日」でアンケートって よくやるんですけど、 おもしろいアンケートには人が来るんですよ。 |
梅田 | うん、魅力は必要です。 あとは、隙があるというのも大事。 |
糸井 | ああ、そうですね。 あの、お客さんの立場で、 「なにが素敵か」ということが きちんとわかっている人は、 誰でもつくり手に回れるんです。 それが、なんていうか、 いま、ぼくが頼りにしている部分なんです。 その感性でつくられるものこそが いまは求められていると思うんですね。 それと、いまの「辻プログラマー」の話は すごくつながるというか、しっくり来ましたね。 |
梅田 | ああ、そうですか。 |
糸井 | はい。なんのためにやるのか、 利己的なことなのか、利他的なことなのか、 そういうことをはっきり決めなくたって、 自然とつくり手に回る人っているわけだし、 そういう目に見えない関係、 しっかりとした説明のできない関係を、 「愛」と呼ぶことだってできると思うんです。 |
梅田 | そういう言い方をする人もいますよね。 |
糸井 | あの、以前、カメを研究している、 学者の人の本を読んだことがあるんです。 その中にひとつ、大好きな話があってね。 その方が飼っているカメがいて、 休みの日かなんかに、 部屋を歩かせて、それを眺めていると、 自分のヒザに登ってくるんだそうです。 その学者さんはもうおじいちゃんなんですけど、 彼は、自分のヒザに乗ってくるカメのことを、 まるで孫のことを語るように、 愛情たっぷりに書くんです。 ところが、一方でその人は学者でもあるから、 「カメというのは変温動物で 温度がなければ生きていけないから、 人間の温度を目的にヒザの上に登るんだ」 というふうにも平気で書くんですよ。 つまり、ヒザに登ってくるカメのことを、 一方では「愛」といい、 一方ではただの「温度」だという。 それって、「辻プログラマー」の話とも 近いんじゃないかなと思って。 |
梅田 | そうですね。 自分のためにやっていることが、 一方から見ると利他性を帯びてくるという。 |
糸井 | その理屈で、いろんなことが 整理できるんじゃないかなぁ。 その場その場での人の自然な振る舞いが 誰かの助けになって、 大きなものを進めていくという。 |
岩田 | あの、私の経験からいうと、 あるプロジェクトがうまくいくときって、 理想的なリーダーがすべて先を読んで きれいに作業を割り振って分担して そのとおりにやったらできました、 という感じのときではないですね。 |
糸井 | ああー、そうですか。 |
岩田 | まぁ、とくに、ぼくらの仕事は、 人を驚かせたり感動させたりすることですから、 事前に理詰めで計画をたてることが 難しいというのもあるんですが。 一方で、どういう企画がうまくいくかというと、 最初の計画では決まってなかったことを、 「これ、ぼくがやっておきましょうか?」 というような感じで誰かが処理してくれるとき。 そういう人がたくさん現れるプロジェクトは だいたい、うまくいくんです。 |
糸井 | まさに、「辻解決者」みたいな人が。 |
岩田 |
そうですね。 逆に、そういう現象が起きないときは、 完成したとしても、 どこかに不協和音があって、ダメなんですよね。 |
糸井 | 「ただの完成品」が できちゃうだけですからね。 |
岩田 | ええ。で、Wiiをつくっているときなんかは、 「ここがちょっと問題だから、 やっておきましょうか」っていうことが いままでのハードの中で いちばん多かったような気がするんです。 きっと、そういうムードができてたんでしょうね。 |
糸井 | おもしろいですねぇ。 |
岩田 | あと、全体の方向性の話でいうと、 Wiiの開発チームでは、開発のごく初期のころから 「Wiiはこういう機械にしたいんだ」っていう話を ものすごくたくさんしてたんですよ。 だから、「こうありたい」という イメージはけっこう共有されていたと思うんです。 そのうえで、現実的な問題が起こりそうなときに、 誰かが発見して、自然と解決していくという感じで。 |
糸井 | それも、「思わず解決しちゃう」んだろうね。 オープンソースのデバッグとくらべると、 自社でつくってるWiiの問題を解決するっていうのは 純然たる仕事だとは思うんだけど。 |
岩田 | そうですね。 |
糸井 | それでも、総体がいい方向に向かっているときは、 「問題があると解決しちゃう」という いい反応が連鎖してるんだと思うなぁ。 |
梅田 | 「そこにクロスワードがあれば解くのと同じです」 とまつもとさんも言ってましたけど、 「問題を見つけると解決を考える」というのは、 本能に根ざした行動なのかもしれないですね。 |
糸井 | そうですね、ついやっちゃうという。 「いい」とか「悪い」とかの概念を入れずに 成り立つロジックだというのが ものすごくおもしろい。 |
梅田 | そうなんです。 そこに善悪の判断とか、 利己、利他みたいなものがない。 |
糸井 | 最近はその善悪という概念を 逆に使い道にしている人たちもいるじゃないですか。 なんというか、あっちよりこっちのほうが いいことをしてるぞ、って言い合うような。 そういうことよりも、この理屈のほうが よっぽどよくわかるなぁ。 いやぁ、なにしろ、インパクトありました。 |
梅田 | ぼくも、聞いたときには インパクトがありました。 |
糸井 | オープンソースに 長く関わった人ならではの発見というか、 長い歴史が言わせたひと言でしょうね。 |
梅田 | はい。 |
(続きます) |