梅田 | あと、インターネットのおもしろいところは、 「自分のためにやっていたんだけど、 結果として人のためになる」ということで。 |
糸井 | ああ、それはありますね。 |
梅田 | ええ。それがね、 インターネットにおける心の錬金術というか、 いろんなことのベースにある気がするんです。 |
岩田 | おもしろいですね。 |
梅田 | たとえば、自分の勉強のために なにかのデータをたまたま公開していたとか、 自分の記録のために書いたことが 自動的に蓄積にされることによって 自然と価値が生まれて誰かのためになったとか。 それが違う形で作用しているのが、 オープンソースの世界ですよね。 |
糸井 | ああ、つまり、誰かが もととなるシステムをつくって公開すると、 みんながどんどん手を加えてくれるという。 |
梅田 | そうです、そうです。 ぼくは、「Ruby」という オープンソースのプログラムをつくった まつもとゆきひろさんという人に 「オープンソースの秘密」について うかがったことがあるんですけど、 彼がとても興味深いことを言ってたんです。 どういうことかというと、 彼にはまず、つくりたいものがあるんですね。 誰かのために、というのではなく、 「自分はこういうものがつくりたい」と思って ひとりでダーッとつくっていく。 そうすると、自然に適切な大きさの 問題が生まれていくというんですね。 たとえば、自分のつくりたいことが、 この机いっぱいくらいの大きさだとすると、 「この机いっぱいの大きさのものをつくる」 と宣言してつくりはじめるんだけど、 人間ひとりのできることには限界があるから、 まあ、一部分だけしかできない、と。 そうすると、あいつが言ってたのに できてないところがここにあるぞ、とか、 つくったというけど欠陥があるぞ、とか、 毎日毎日動きを続けていると、 適切な大きさの問題が つぎからつぎに生まれるんだそうです。 で、それさえ生まれれば、 インターネット上にはそれを解決する人が現れる。 新聞にクロスワードパズルが載っていたら それを解く人がいるように、 それをみんなが解いていくんだと。 |
糸井 | はーーーー! |
岩田 | そこに山があれば登るように。 |
糸井 | おもしろい。その感じ、よくわかる。 |
梅田 | おもしろいでしょう? つまり、そこには、まつもとさんといっしょに 「なにかをやってやろう」という気持ちさえない。 それをつくったらユーザーのためになるぞ、 という動機もない。 自分のステイタスのためでもないし、 まつもとさんと仲よくなりたいわけでもない。 |
岩田 | なにかの意味のためにやるんじゃない。 単に、自分が解決したい問題がそこにあったと。 |
梅田 | そこにあったと。そこにあるから解くと。 |
糸井 | いや、よくわかります。 |
梅田 | 暇潰しなのか、腕試しなのか。 で、彼はそういう人のことを、 「辻プログラマー」と呼んでたんですけど。 |
糸井 | 辻占いの「辻」ですね。 |
梅田 | そうですね。 バグがあった場合はそれを斬ってくれることから 「辻斬り」の意味もあると思います。 |
糸井 | そうか、そうか。 |
岩田 | 問題があると、解決せずにはいられない。 いや、私は、もしも違う人生を歩んでいたら 「辻プログラマー」になってると思いますよ。 |
糸井 | ああ、似てますね、 いま岩田さんがやっていることとも。 つまり、問題がそこにあると‥‥。 |
岩田 | 当事者として考え、解決しようとする。 |
梅田 | うん。辻プログラマーの人たちの動機も それだけだと言うんですよ、まつもとさんは。 ひいては、オープンソースの世界のメカニズムは、 利他性とか、そういうものではないんだと。 |
糸井 | その理論はものすごくフレッシュですね。 いま、ちょっと感動した(笑)。 梅田さん、それを聞いたときは驚きましたか? |
梅田 | 驚きました。 ぼくも十数年オープンソースのことを 研究してきましたから。 |
岩田 | その理論は私もはじめて聞きました。 それを知ったのは最近ですか。 |
梅田 | 最近ですね。数ヵ月前に対談をして、 そこで彼がそう言ったんですね。 ぼくはもう、目からウロコで(笑)。 |
糸井 | ぼくもいま、落ちました(笑)。 |
梅田 | 落ちますよねぇ。 「ぼく、新しいこと、言いましたかね?」 なんて、本人はおっしゃってたんですけど、 そういうアーティキュレーションの仕方を ちゃんとしてくれた人っていないと思うんです。 オープンソースの世界にいる人たちにとっては、 当たり前のことらしいんですけど、 やっぱりぼくは聞いて目からウロコが落ちた。 |
糸井 | ぼくも長いことそういうものに頼って 生きてきたと思うんですが、 いまの説明がいちばんぴったり来ますね。 で、ついでに、岩田さんの行動についても、 理由がわかったというか、腑に落ちましたね。 |
岩田 | 「問題があると解決せざるをえない」という。 それは、当たってますね。 |
糸井 | うん。見事だ。 |
梅田 | もちろん、オープンソースに関わる 全員がそういう人たちではないんです。 ある種の人々が、そういうことに 吸い寄せられるんです。 |
糸井 | 逆に、その問題を、 「解決したい」と思わせるように見せるという、 魅力的な提案の仕方というのはありますよね。 |
梅田 | そうなんです。 だから、まつもとさんが言ってたのは、 とにかく動き続けること。 彼自身が動き続けていないと、 新しい問題が生まれないんだと。 だから、自分が止まっちゃうと、 みんな他のプロジェクトに行っちゃうんです。 |
岩田 | そこに留まる理由がないですからね。 |
梅田 | そうです、そうです。 |
糸井 | いやぁ、ほんと、よくわかるわ。 だってさ、うちでもそうだもん。 |
岩田 | うん、「ほぼ日」もそういう構造ですからね。 |
糸井 | よくわかる。ほんとうに。 思えばそれって、友だちどうしの間では いつも行われていることですよね。 つまり、ボールが1個、ありましたと。 バットもグローブもないけど、 ボールが1個あるんだったら せっかくだから野球しようぜということになるし、 そういうムードになった瞬間に もう、棒を拾いに行ってるやつが いるじゃないですか。 で、ベースを書きはじめるやつがいたりね。 それはもう、1個のボールを持ってきた時点で、 広場の遊びとしては、できてるんですよね。 |
梅田 | そういうことですよね。 また、物理的な制約が取っ払われている インターネット上においては、 わらわらと集まってくるのは 日本人だけじゃないわけだし。 |
糸井 | あーー、そうですねぇ。 名前さえ、言わなくてもいいし。 |
梅田 | うん。いちばん大事な情報さえ 共有されていれば、それでいいわけですから。 とくに、プログラムの世界って、 あらかじめ言語の壁を越えてますからね。 だから逆に世界中の人が集まりやすいんですよね。 |
糸井 | いや、おもしろいですねぇ、これは。 |
(続きます) |