梅田望夫×岩田聡×糸井重里  適切な大きさの問題さえ生まれれば。  インターネット、オープンソース、 コンフォートゾーン、そのほか。


第4回 適切な大きさの問題さえ生まれれば、問題は自然と解決する。

梅田 あと、インターネットのおもしろいところは、
「自分のためにやっていたんだけど、
 結果として人のためになる」ということで。
糸井 ああ、それはありますね。
梅田 ええ。それがね、
インターネットにおける心の錬金術というか、
いろんなことのベースにある気がするんです。
岩田 おもしろいですね。
梅田 たとえば、自分の勉強のために
なにかのデータをたまたま公開していたとか、
自分の記録のために書いたことが
自動的に蓄積にされることによって
自然と価値が生まれて誰かのためになったとか。
それが違う形で作用しているのが、
オープンソースの世界ですよね。
糸井 ああ、つまり、誰かが
もととなるシステムをつくって公開すると、
みんながどんどん手を加えてくれるという。
梅田 そうです、そうです。
ぼくは、「Ruby」という
オープンソースのプログラムをつくった
まつもとゆきひろさんという人に
「オープンソースの秘密」について
うかがったことがあるんですけど、
彼がとても興味深いことを言ってたんです。
どういうことかというと、
彼にはまず、つくりたいものがあるんですね。
誰かのために、というのではなく、
「自分はこういうものがつくりたい」と思って
ひとりでダーッとつくっていく。
そうすると、自然に適切な大きさの
問題が生まれていくというんですね。
たとえば、自分のつくりたいことが、
この机いっぱいくらいの大きさだとすると、
「この机いっぱいの大きさのものをつくる」
と宣言してつくりはじめるんだけど、
人間ひとりのできることには限界があるから、
まあ、一部分だけしかできない、と。
そうすると、あいつが言ってたのに
できてないところがここにあるぞ、とか、
つくったというけど欠陥があるぞ、とか、
毎日毎日動きを続けていると、
適切な大きさの問題が
つぎからつぎに生まれるんだそうです。
で、それさえ生まれれば、
インターネット上にはそれを解決する人が現れる。
新聞にクロスワードパズルが載っていたら
それを解く人がいるように、
それをみんなが解いていくんだと。
糸井 はーーーー!
岩田 そこに山があれば登るように。
糸井 おもしろい。その感じ、よくわかる。
梅田 おもしろいでしょう?
つまり、そこには、まつもとさんといっしょに
「なにかをやってやろう」という気持ちさえない。
それをつくったらユーザーのためになるぞ、
という動機もない。
自分のステイタスのためでもないし、
まつもとさんと仲よくなりたいわけでもない。
岩田 なにかの意味のためにやるんじゃない。
単に、自分が解決したい問題がそこにあったと。
梅田 そこにあったと。そこにあるから解くと。
糸井 いや、よくわかります。
梅田 暇潰しなのか、腕試しなのか。
で、彼はそういう人のことを、
「辻プログラマー」と呼んでたんですけど。
糸井 辻占いの「辻」ですね。
梅田 そうですね。
バグがあった場合はそれを斬ってくれることから
「辻斬り」の意味もあると思います。
糸井 そうか、そうか。
岩田 問題があると、解決せずにはいられない。
いや、私は、もしも違う人生を歩んでいたら
「辻プログラマー」になってると思いますよ。
糸井 ああ、似てますね、
いま岩田さんがやっていることとも。
つまり、問題がそこにあると‥‥。
岩田 当事者として考え、解決しようとする。
梅田 うん。辻プログラマーの人たちの動機も
それだけだと言うんですよ、まつもとさんは。
ひいては、オープンソースの世界のメカニズムは、
利他性とか、そういうものではないんだと。
糸井 その理論はものすごくフレッシュですね。
いま、ちょっと感動した(笑)。
梅田さん、それを聞いたときは驚きましたか?
梅田 驚きました。
ぼくも十数年オープンソースのことを
研究してきましたから。
岩田 その理論は私もはじめて聞きました。
それを知ったのは最近ですか。
梅田 最近ですね。数ヵ月前に対談をして、
そこで彼がそう言ったんですね。
ぼくはもう、目からウロコで(笑)。
糸井 ぼくもいま、落ちました(笑)。
梅田 落ちますよねぇ。
「ぼく、新しいこと、言いましたかね?」
なんて、本人はおっしゃってたんですけど、
そういうアーティキュレーションの仕方を
ちゃんとしてくれた人っていないと思うんです。
オープンソースの世界にいる人たちにとっては、
当たり前のことらしいんですけど、
やっぱりぼくは聞いて目からウロコが落ちた。
糸井 ぼくも長いことそういうものに頼って
生きてきたと思うんですが、
いまの説明がいちばんぴったり来ますね。
で、ついでに、岩田さんの行動についても、
理由がわかったというか、腑に落ちましたね。
岩田 「問題があると解決せざるをえない」という。
それは、当たってますね。
糸井 うん。見事だ。
梅田 もちろん、オープンソースに関わる
全員がそういう人たちではないんです。
ある種の人々が、そういうことに
吸い寄せられるんです。
糸井 逆に、その問題を、
「解決したい」と思わせるように見せるという、
魅力的な提案の仕方というのはありますよね。
梅田 そうなんです。
だから、まつもとさんが言ってたのは、
とにかく動き続けること。
彼自身が動き続けていないと、
新しい問題が生まれないんだと。
だから、自分が止まっちゃうと、
みんな他のプロジェクトに行っちゃうんです。
岩田 そこに留まる理由がないですからね。
梅田 そうです、そうです。
糸井 いやぁ、ほんと、よくわかるわ。
だってさ、うちでもそうだもん。
岩田 うん、「ほぼ日」もそういう構造ですからね。
糸井 よくわかる。ほんとうに。
思えばそれって、友だちどうしの間では
いつも行われていることですよね。
つまり、ボールが1個、ありましたと。
バットもグローブもないけど、
ボールが1個あるんだったら
せっかくだから野球しようぜということになるし、
そういうムードになった瞬間に
もう、棒を拾いに行ってるやつが
いるじゃないですか。
で、ベースを書きはじめるやつがいたりね。
それはもう、1個のボールを持ってきた時点で、
広場の遊びとしては、できてるんですよね。
梅田 そういうことですよね。
また、物理的な制約が取っ払われている
インターネット上においては、
わらわらと集まってくるのは
日本人だけじゃないわけだし。
糸井 あーー、そうですねぇ。
名前さえ、言わなくてもいいし。
梅田 うん。いちばん大事な情報さえ
共有されていれば、それでいいわけですから。
とくに、プログラムの世界って、
あらかじめ言語の壁を越えてますからね。
だから逆に世界中の人が集まりやすいんですよね。
糸井 いや、おもしろいですねぇ、これは。
(続きます)


2008-11-18-TUE

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN