糸井 | 「イヤイヤ仕事をしている人」が、 どんどん増えていくなかで、 「オレはべつにイヤじゃないよ」という人に 1回会うだけでも、うれしいですよね。 |
梅田 | そうですね。 |
糸井 | やっぱり、どんなに得意なことでも、 実際はイヤなんですよ、仕事って。 だから、岩田さんみたいな人はめずらしいんだよ。 |
岩田 | (笑) |
糸井 | こういう人もときどきいるっていうことで。 だって、人が喜ぶというゴールがあれば、 どんどん考えて助けちゃいますからね、 岩田さんという人は。 |
岩田 | このあいだは、とうとう糸井さんから 「それは、ある種の病(やまい)だ」 って言われたんです(笑)。 |
糸井 | その病のおかげでぼくらは助かっているし、 きっと岩田さんに返ってくる なにかもあるんだろうけど。 だから、「赤ひげ」っていう お医者さんがいたじゃないですか。 ああいう存在なんでしょうね。 |
岩田 | 「赤ひげ」かぁ(笑)。 |
梅田 | 「赤ひげ」はお医者さんですから、 訪れた人は助けようとすると思うんですけど、 岩田さんは、全員に対して、力を尽くすんですか? こう、目の前にどんなケースがあっても? |
岩田 | いや、正確にいうと、 目の前になにかの問題があったら、 「自分だったらどうするだろうな」というのを 真剣に考えずにはいられないんです。 助けるというよりは、 当事者として考えてしまう。 |
梅田 | ということは、複数の人がいたり、 複数の問題があったりしたら、 やっぱり、選ぶんでしょうか。 |
岩田 | そうですね。 最終的に、その人やその問題と、 どういう時間レンジでつき合っていくかは、 選ばざるを得ないですね。 そうしないとやることが無限に膨らんでいくから。 |
梅田 | そうなりますよね。 で、そのときに、やっぱり、 相手が好きだから関わるわけですよね? それとも、困っていてかわいそうだから? |
岩田 | いや‥‥違いますね‥‥。 好きだからでも、かわいそうだからでもなくて、 その人がうれしそうにするのが、 おもしろいからですね。 |
糸井 | うん、そうだと思う。 |
梅田 | はーー。そうすると、 目の前を通る人なら誰もいいわけですね。 その人がうれしそうにしてくれるなら。 |
岩田 | そうです。気持ちとしては。 |
糸井 | 理念としてはそうですよね。 きっと、実際には断ることも多いでしょうけど、 岩田さんの理念は、そうでしょう。 |
梅田 | 「赤ひげ」的なんだな、やっぱり。 でもね、やっぱりそこには スペクトラムの度合が出てきますよね。 一方の端が「誰でもいい」だとすると、 逆側の端には「愛する人だから」というのが。 |
岩田 | ええ。それは当然、 グラデーションがありますよね。 |
糸井 | 岩田さんが特殊なのは、優先順位なんですよ。 当人はどうだか知りませんけど、 自分の疲れを度外視しているように見えるんです。 ふつうの人は、自分には関係ないし、 疲れてるしっていうんで、 もうちょっと前にやめちゃうんだけど、 岩田さんは「相手がそこにいる」っていうだけで 優先順位を上げちゃうみたいなところがある。 それでぼくは「それは病気だ」って言うんです。 |
梅田 | それは、糸井さんから見ると尋常じゃないと。 |
糸井 | 尋常じゃないレベルです。 もちろん、岩田さんなりの優先順位があって 節度を保っているんでしょうけど。 |
岩田 | そうじゃないと、生きていけないですから(笑)。 |
糸井 | でも、見てると、あきらめないですよ。 なんていうか、ものごとをつくって進めていくときは、 こういう人が必要なのかもしれない。 たとえば、Googleの人たちが、 世界中の街を自動車で走って写真を撮って 地図に貼りつけているっていうのは、 ある種の病でしょう? |
梅田 | そうですね。 ふつうに利益というものを考える会社からすれば、 病気というか、あれは狂気です。 ほかにも、世界中の本をスキャンすると決めて、 全部で5千万冊ぐらいあるらしいんですけど、 全ページを来る日も来る日もスキャンしてたりする。 |
糸井 | いいなぁ(笑)。 |
梅田 | 正気の沙汰とは思えないんだけど、 Googleって、 「世界中の情報を整理し尽くす」 という理念において、それを続けるんですよ。 Googleアースの航空写真にしても、 半年で写真を取り替えるべきだということで、 Googleがチャーターした飛行機は 世界中を毎日飛んでるんです。 「あれは、いずれなにかを支配するためだ」 なんて言う人もいますけどね。 |
糸井 | いや、そういうレベルじゃないですね。 |
梅田 | そういうレベルじゃないんですよ。 |
岩田 | ふつうの人間や会社にできる行動ではないですね。 |
梅田 | そうなんです。 |
糸井 | でも、そういう「病な成分」は、 岩田さんのなかにもぼくは感じるんです。 思えば、現代に限らず、歴史の中には そういう人がいつもいるのかもしれないですよ。 Googleの人たちだって、情報を整理し尽くすことが みんなに役立つと思うからこそやってるわけだし。 |
梅田 | かなりいるのかもしれませんよね。 やっぱり人のためになにかするというのは、 気持ちのいいことでしょうから。 |
(続きます) |