岩田 | 私ね、今日は、おふたりに お訊きしておきたいことがあるんですよ。 糸井さんと、梅田さんが、 いままであまりやってこなかったことで、 これからぜひやりたいと思っていることって なにかありますか? |
糸井 | やってなかったこと。やりたいこと。 うーん、あの、ご存じかもしれませんけど、 ぼくは「来た球を打つ」というタイプなんで。 |
岩田 | (笑) |
糸井 | 自分でも思いがけないところで 自分の力が発揮できることを おもしろがるという感じなので、 簡単に挙げづらいんですが‥‥。 まぁ、でも、やっぱりチームプレイでしょうね。 いまやってないわけじゃありませんけど、 もっと、チームでしかできないことを。 チームでなにができるかという可能性と、 自分がなにができるかという可能性は、 ぜんぜん違うものなので、 チームができることを オレがジャマしないようにしたい という気持ちはありますね。 奇しくも、さっき梅田さんがおっしゃった、 「社員を雇わないことにしました」というのと 真逆の方向になりますけど。 |
岩田 | あれですよね、 梅田さんが選んだその方向性って、 糸井さんも選びかねないというか。 糸井さんも、タイプとしては、 そういう考えの芽はお持ちですよね。 |
糸井 | そうです、そうです。 実際、ぼくの同世代の友だちたちは、 そっちの方向に行ったんです。 で、オレは、幸いというかなんというか、 集団として生きるボディを発見して それがおもしろくなっちゃったものですから、 ひとりの方向を選ばなかったんですね。 だから、思えば、大違いですよね。 もしも、若い頃、誰かに 「そこにいるためには稼がなきゃダメですよ」 なんて言われたら、 「べつにいいや、ここにいなくたって」 って言ったと思うんですけど、いまは 「絶対ここにいてみせる」って思いますから。 そんなこと、絶対、思わなかったよ。 |
岩田 | いや、私ね、 はじめてお会いしたころのことを思い出すと、 あの糸井さんが、何十人の会社の 社長業を務めているというのは、 やっぱり驚きですよ。 |
糸井 | いまや40人のまとめ役ですよ。 |
岩田 | ねぇ(笑)。 だって、面倒なことはたくさんあるし、 やりたいことと直結しないことも 山ほど発生するのに‥‥。 あ、ほら、社長業は、 ちょっと私、先輩なのでね(笑)。 |
糸井 | 御苦労さまです(笑)。 |
岩田 | あの糸井さんが、その道を選んでいるのが、 すごくおもしろいなと思うんです。 |
糸井 | 社長がやりたいと思って はじめたわけじゃないんですけどね。 いわゆる「経営」という感覚もないし、 あえていうなら、 ウネウネした知らない生き物に乗っている感じ。 だから、動物の飼育とか、乗馬とか、 そういうものに似ているかもしれない。 なにがやりたいかじゃなくて、 ありようのほうにおもしろみを感じるんです。 |
梅田 | あ、それはぼくも同じですよ。 |
糸井 | そうですか。 |
梅田 | うん、ありようですね。 結果として、なにを成し遂げたいとかいうよりは、 そのプロセスのユニークさ。 誰も知らないような時間の流れ方とか、 そういうのを希求する気持ちというのが、 いつもありますね。 |
岩田 | そんな梅田さんが、 これからやってみたいことって、なんでしょう。 |
梅田 | ぼくは、変な言い方をすると、 ちょっと、いままでね、 生真面目に生き過ぎてるんですね。 といっても、会社を大きくするためだけに 力を注いできたというわけじゃないんですけど、 一個一個の仕事に、過剰に真面目に、 完璧主義でやってきたきらいがあるんです。 だから、最近は、ちょっと肩の力を抜いて、 仕事と離れたことをやっていこうと思っていて。 具体的には、あの、ぼくは将棋が好きでね。 |
岩田 | へぇ(笑)。 |
梅田 | 子どものころは大好きだったんですけど、 二十歳のころから40歳のときまで、 一切やらなかったんです。 |
糸井 | それは、我慢してたんですか。 |
梅田 | うん。そういうタイプなんですよ。 |
岩田 | なにかのために、なにかを我慢する。 |
梅田 | そう。だからそういう感じでずっとやってきて。 ちょっとそこを変えたいなというので、 最近は棋士の人たちと、 お会いしたりしているんです。 なんというか、もう、ぼくは、 あの人たちが大好きなんですね(笑)。 |
岩田 | (笑) |
糸井 | よくわかりますよ(笑)。 純粋なんですよね、棋士の人たちって。 |
梅田 | そうなんです。 先日も、彼らと何時間も いっしょに過ごしたんですけど、 ぼくにとっては、久しぶりに、遊んでいるというか、 こう、心から、本当に、 心から遊んでいるという感じで。 |
糸井 | いいですね。 |
梅田 | ぼくは、アメリカへ行ってから、 日本で休暇を過ごすことって、 いままで一回もなかったんですよ。 ところが今度1週間、 将棋のタイトル戦の観戦に行くんです。 ついでに、観戦しながらリアルタイムで書く ネット観戦記なんかも引き受けちゃったりして。 しかも、その観戦記を書く準備を、 朝から晩まで何日もかけてやってしまったり‥‥。 |
岩田 | 休暇じゃないじゃないですか(笑)。 |
梅田 | そうなんですけど(笑)。 少しずつそういうことを繰り返しながら、 なにも考えずにフラッと遊びに行けるような 自分になりたいなと。 だから、いちばん最初に、 「時間」について話したときに、 自分にとって意味のある、 「いい時間」を過ごしたいと言ったのは そういうこともあったんです。 |
糸井 | なるほど。よくわかりました。 きっと、遊べるようになりますよ。 梅田さん、真面目だから。 |
岩田 | (笑) |
梅田 | でも、糸井さんも、真面目ですよね、やっぱり。 |
糸井 | そうなんです。 |
梅田 | なんか、非常にシンパシーを感じるんです(笑)。 |
糸井 | いまの梅田さんの話の延長線上に、 ぼくも十年生きてるんです。 |
岩田 | ありがとうございました。 おふたりの、これからの方向性が 垣間見られてよかったです。 |
糸井 | いや、今日は、おもしろかったです。 この3人でこうして、しゃべれてよかった。 |
梅田 | いえいえ、こちらこそ。 |
岩田 | 仲介者として まったく心配はしてませんでしたけど、 おもしろかったです。 どうも、ありがとうございました。 |
糸井 | ありがとうございました。 |