将棋の漫画っていうのをそんなに知らないけど、
これは新しいってすぐに思ったのは、
はなから敵が愛される人なの。
敵が愛人っていうか、
自分の好きな人なんですよね。
あの子。
はい。
「好きだ、好きだ、好きだ、好きだ」って
言ってるの。
で、プロってそうなんですよね。
格闘技の選手が言った言葉で、
やっぱり、「あぁ、うらやましいな」
と思ったんだけど、
あれこそもう殺し合いみたいなシーンだけど、
4回ぐらい相手の中に隙があるんだって。
で、それ以外はみんな素人から見たら
隙に見えるようなところでも、
全部、手が出せないんだって。
で、試合が終わった後に、
「俺とお前だけはわかってるよな」
って言って抱き合うんだって。
あぁー!
殺し合うような殴り合いしてても、
一番好きな相手なんですよ。
その宣言が最初から始まっちゃってるんで、
ずうっとそのトーンですよね。
将棋も、本当に一対一で、
向かい合って、本当にお互いの心を探り合うし。
小学校からの
長い付き合いの人が多いので、
全部わかってるし、
すごい濃い時間だなぁと思って。
そこは、物差しとしてはなんとか描ける世界で。
もう一個家族っていう
もっと描きにくいもので、
愛と憎悪ともう一つわからない物事を
三つ編みにしてるじゃないですか。
はい。
あっちはもうぼくらには
もうちょっとこう成り行き任せで
見るしかない。
将棋の漫画でも、
将棋をあんまり描いてないって
言われたりするんですけど。
そうですね(笑)。
私も漫画家なんですけど、
漫画描いてない時間もあって。
人生がここにあって、
仕事っていう闘いもあって、
両方ないと私じゃないから、
それを描きたいなぁと思って。
いくら将棋で勝ってても
家族とうまくいってなかったら、
どこかが痛む、みたいなこととか、
闘いの前に友達と喧嘩しちゃったっていうと、
気を取られるとか、
すごい強くなってみんなに慕ってもらえるのに
自信がないとか。全部入れ込んでいってるなぁと。
乗っけてるものは多いですよね。
主人公の「自分もお返ししなきゃ」っていう部分、
羽海野さんの心情を感じるんですよね。
プロ同士だったら、
一方的に甘い汁を吸わせてもらう環境は
絶対おかしいと思うので。
それそれそれ。
すごく大きな人に声をかけてもらっても、
自分は見込まれたから
声をかけてもらったわけであって、
私がもう1回返せるものがあると見込んだから、
声かけてくれたんであって。
じゃあ、何返そうって。
相手のために何かしたいと思う。
それがないと、
お仕事っていつか行き詰るなぁと。
この漫画の中に生きてる人は、
みんなそのことを、
大きい小さいかかわりなく持ってるんですよね。
互いにね。その札を巡って
「意地悪してやれ」みたいな動きをしたりね。
名前のついていない
「恋みたいなもの」が
この漫画のすごくおもしろいところだと思う。
なるべく、大きな話と小さなお話って
分けないで入れようと思っているんです。
小さなお話で世界ができているんで、
その小さなお話をなるべく真剣に描いて、
大きなお話も真剣に描こうって。
あんまり重さに違いがないようにしたくて。
それ、うまくいってる気がします。
その接合面みたいなことが、
さっきのA級の人から受け取った、
「ドドドド、ドドーッ」みたいなことですね。
はい。主人公が、
これを受け入れられる場所に
いれることがうれしいから、
退いちゃだめだっていう。
そして気後れしてると
貰うだけになっちゃうので、
気後れしないでなるべく全部貰って、
後で返してっていう。
感じない振りをしちゃだめだしね。
あれはこの主人公の素質を感じますね。
その直前まで、直前までの彼の居方、
つまり「生きるにはプロになるしかなかった」
っていうのって、
いやだけどやってる商売の典型で、
それこそ娼婦なんですよ。
そうですね。よく聞かれるのが、
「漫画好きですか?」。
答えようがないんですけど、
読者さんは私に
「大好きです」って言ってほしいんですね。
言ってほしいんですよね。
「大好きです」っていう言葉を期待して
みんな質問を投げかけてくれるんですけども、
口から出ないんですね。
それで、それを描きたいなと思って。
最後に、ちゃんと自分の気持ちに
折り合いがつくとこまで描いてあげたいなと。
そうやって、
「大好きです」って言えない悲しみと、
喜びも、だいぶ知ってしまってる。
そこに自分の見たことのない分量の
豊かさと悲しさが、
向こう側にはまだそんなに
あるのかよっていうものが、
「ダーーッ」って来て。
そうですね。
いっぱいいっぱいになってると
自分がてっぺんなんですけど、
てっぺんよりてっぺんは、いるので、
そっちを見るとちょっと落ち着くところもあって。
あ、そうか。
「まだまだでした」みたいな。
(つづきます)
2011-04-11-MON





美大を舞台にした『ハチミツとクローバー』でデビュー。
高校生棋士を主人公にした長編第2作
『3月のライオン』で「マンガ大賞2011」を受賞。
同作は現在も白泉社「ヤングアニマル」誌で連載中。