漫画の人たちの仕事で、 やっぱりすごいなと思うことがあるんです。 言葉だとなんとか擬似的に 表現できるかもしれないな、って思ったとき、 一番生で出せるのが、詩なんですね。 詩は論理的に整合性問われないですから。 一番柔らかくて生のが出せるんですけど、 漫画の場合には、 「この感じ」っていうのが出せる。 すごく下手な絵でギクシャクって描かれていたら、 表現にならないけれど。 |
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はい。漫画が好きなのは、 絵もあるところです。 |
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そうなんですよね。 | |
悲しい風景を描く。そうすると、 「今悲しいんです」って描かなくても、 気持ちがわかる。 だから映画に近いのかもしれませんね。 |
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さっきのオキタ先生がね、 こうしてかがんで目を見て話してくれた、 っていうのも、文章で書けるけど、 そこの「かがんだ」っていうことに 力点が行きすぎちゃう。 だけど、絵で描いた場合には 無意識が見るだけで、 気付かなくてもいいんですよね。 |
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で、後で戻って見ると‥‥。 | |
かがんでたんだ、って。 | |
私、後で気付いたんですけど、 あの先生がたぶん失敗を 気にやむ人だったんですよね。 だから自分に言い聞かせてる部分も あったんだなぁと思って。 だから、あんなにグッて 言ってくれたんだ、 似てるって思われたんじゃないかなぁ、 って、後で思いました。 |
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なるほど。そうかぁ。 そこまで書くのが文字の表現ですね。 今描いてらっしゃる漫画(『3月のライオン』)、 一流の将棋指しの人に主人公が会って、 “何か”を受けるっていうシーンを見て、 これ描いた人、今まで世の中に いなかったんじゃないかなって思いました。 ものすごいです、あれは。 どうして描けたんですか。 |
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私、30歳を越えて漫画家になったんですね。 とても遅かったんです。 そしてそれまで 普通に家で1人で仕事をしてきたのが、 このお仕事始めたら、 対談でいろんな方に会えるようになりました。 それで、たとえば今日会った人と 今日心が通わなかったら、 たぶん二度と会えなくなっちゃう。 だから、お話をよく聞いて、 せめて今日だけでも お話いっぱいできたらと思っているんです。 びっくりしてしまうような、 ずっとCD聴いてた音楽家の人に いきなり会えることになったりすると、 もちろんドキドキするんですが、 おもしろいことをいっぱい話してくださるので、 すごく集中して話すんですね。 あれを絵にしたら‥‥、 |
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ああなった? | |
はい。全部受け止めなきゃ、 相手が言ってることを瞬時に理解して、 自分も思ってることを言い返せたら うれしいし、それでも倒れないで 「私もこう思うんです」 って言えるといいなって。 「ドドドドッ」っていうのは、 話してる時、受け止めてる時って こんな感じだったなぁって。 |
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おそらくあれ、ペンで描いてる最中も 描けてる実感があったんじゃないでしょうか。 なんていうのかな、 ホームランの当たりが感じられたみたいな コマじゃないかなと思って。 |
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はいはい。あそこはやっぱり アシさんには頼めなくて、自分で描きました。 私が描かないとみんなに説明しても届かない。 スクリーントーンも自分で貼らないと。 |
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すごい絵ですよね。 | |
ありがとうございます。 あの主人公の男の子は、 「退いちゃだめだ」って言って、 「ちゃんと受け止めて、 自分も相手の役に立たなきゃ」 ってやってるところだったんです。 |
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あれまではあの子は 「そんなこと無頓着でもいいや」 ぐらいに来てたんだけど、 本当にその場に立ったら、 「受け止めなきゃ」 っていうのがわかるっていうのは、 すごい場面なんですよね。 |
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ありがとうございます。 将棋をよく知らないのに 描きだしてしまったので。 |
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不思議ですね。 | |
ちょっと今ドキドキしているんです。 準備期間含め結構あったんですよ。 『ハチクロ』の9巻ぐらいを出した頃から 将棋を習って、 3年ぐらいあれば絶対覚えられると思ってたら、 奥が深すぎて、 わからないまま連載を始めることになって。 で、今わからないのに 名人を描かなきゃいけなくなりまして、 「あら、どうしましょう」って。 何かに置き換えて描くしかないので。 |
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結局、実際にあったエピソードみたいなもの、 食材みたいなものがないと、 知らない世界を料理はできないですよね。 |
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はい。で、将棋は分からなくても、 私が今までお会いした、 私から見てA級棋士とか名人に当たる人を 入れ込んでいけばいいんだと思って。 |
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あぁ。いやぁ、その、なんていうんだろう、 気が弱いって本人何度はおっしゃるけど、 将棋でやろうってこと自体が(笑)。 |
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(笑) | |
終わるんだっていうのはわかるんですか? 自分の描いてる物語はここで終わりにするんだって。 |
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私、まだこれが2つ目の物語なんですけど、 その時自分が悩んでることをテーマにすると、 私、悩みのストッパーがないので、 答えが出るまで悩み続けるんですね。 よーく熟成されるから、 悩みをテーマにしておけば、 きっと普段悩んでることを描けばいい。 たぶん私の悩みが解決された時、 この男の子の悩みも解決されるんでしょう。 その時に一緒に終わろうねっていう。 |
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その頃に新しい悩みが出てくるんだね、じゃあ? | |
そうなんです。 連載って7年ぐらいかかるんですけど、 7年後に自分がたどり着きたい心境を ラストシーンに、一応設定してあるんです。 |
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おぉー、しびれるね、それは! | |
そこの境地に私がなんとか 7年後までに行かないとって、 やってるんです。 |
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羽海野さんの、その視線の先にあるものは、 ずっと、ぶれないものなんですか? |
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なかなか悩みの一番でっかいとこって そんなに変わらないので。 だから、この主人公と一緒に悩んで、 なるべく一緒にゴールしたいなぁと思って。 |
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おもしろいねぇ。なんだろう、 スポーツの選手としゃべってる みたいなところもありますね。 |
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あ、でもちょっと近いような気がします。 | |
近いですね。 | |
将棋の棋士の方たちも──。 | |
同じだろうね。 | |
オリンピック選手のようです。 漫画家と棋士はとても似ていると思ってます。 1冊の雑誌の中で10代と60代がいるところも、 1回プロになると、もう辞め時がなくて、 自分で辞め時を 決めなきゃいけないみたいなところも。 |
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2011-04-08-FRI |
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美大を舞台にした『ハチミツとクローバー』でデビュー。 高校生棋士を主人公にした長編第2作 『3月のライオン』で「マンガ大賞2011」を受賞。 同作は現在も白泉社「ヤングアニマル」誌で連載中。 |