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前川 |
自分で歌を歌ってるときには──、
まず、目の前に
お客さまがいらっしゃいますね。 |
糸井 |
はい。 |
前川 |
例えば、100人のお客さまがいらっしゃる。
ステージでおもしろおかしいこと
やってたりしても、
ひとりだけ笑ってないことがあります。
その「ひとりの人」のことが
ぼくは気になるんですよ。
そして、99人の方のことは、
目に入らなくなってしまいます。
それは、自分の性格の問題です。 |
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糸井 |
繊細なんですよね。 |
前川 |
やっかいなんですよ。 |
糸井 |
不眠症になっちゃうはずですよ。 |
前川 |
いつもそういったことばっかり考えてますから、
ステージに立って
お客さまがいない夢を見たりします。
「ああー、オレも終わるんだなぁ」 |
糸井 |
夢で、そこまで。 |
前川 |
そういうこともあって、
歌ってるときというのは、
ぼくは、気持ちの中では、
歌にのめり込んでません。 |
糸井 |
だけど、それをこっちは
ラフに聴いちゃうからか、
バーンと心に響いちゃうんです。 |
前川 |
不思議ですよね。
ぼくの中で、嫌なのは、
悲しい歌なんですよ。
みなさん、聴いてて悲しいでしょ?
ぼくは嫌いです。
例えば、1000人ぐらいのお客さまがいて、
その中でとても悲しい人って
10人、20人くらいだと思います。
みんな、たのしみたいから来てるのに、
自分と関係ないそんな歌聴かされる。
そうすると、
あくびする人もいるんですよ。
ぼく、そういうの見つけるの、
好きなんですよ。 |
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糸井 |
困った人だなぁ(笑)。 |
前川 |
あ、トイレ行った、とか。 |
一同 |
(笑) |
前川 |
長かったなぁ。
小じゃなかったのかな?
と思ったり。 |
一同 |
(笑) |
前川 |
あの人、席に落ち着いたなぁ、
あと、何曲だったかなぁ、
あと、2、3曲で終わりだ
あと、2、3曲で終わり、
そんなことばっかり。 |
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糸井 |
はははは。 |
前川 |
もちろん、歌は
一所懸命に歌いますけども、
お客さまは、全部が全部、
おなじ気持ちではない。 |
糸井 |
うん、うんうん。 |
前川 |
1/3くらいの人が
チケットをタダでもらったり、
連れてきてもらったり
してるんだろうなぁ、って。 |
糸井 |
そうなんですよね。 |
前川 |
ぼくはね、どこか、
そういう見方をするんです。
なぜなら、そういった方たちというのが
いちばん厳しいからなんですよ。
タダで来てるとか、
トイレ行って帰ってきたとか、
そういう方。 |
糸井 |
なるほど、そうか‥‥。 |
前川 |
ファンの方だったら、
絶対に席は立ちません。
ファンのみなさまは、
失敗したりしても、
許してくださるところがありますし、
挽回できる「次」があります。
だけど、「どうでもいい」と思ってる方たちは、
「前川ヘタだったよ」
「あー、おもしろくなかった」
このひと言でおしまいです。
これがいちばん怖いです。 |
糸井 |
怖いですね、たしかに。 |
前川 |
だから、どうしても
そっちのほうへ目が行ってしまいます。
「なんで笑ってくれないんだろう」 |
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糸井 |
そっちに対して神経質になると、
だんだん怖くなりますよね。 |
前川 |
はい。
そうすると、
たのしんで歌うほうへ
意識がいかなくなっていきます。
自分の歌って、
こういうふうにいい歌なんですよ、
自信を持ってたのしく歌おう、
もう、そういったことが見えなくなります。 |
糸井 |
それはもしかしたら、前川さん、
このあと、また変わるかもしれない
気持ちですね。 |
前川 |
はい、そうかもしれません。 |
糸井 |
そっちが見えちゃう、ということについては
ぼくも知ってる感覚です。
けれども、100人のうちのひとりを
気にするということは、
99人を置き去りにしちゃうことでもある。
だから、その「ひとり」はいいや、
と思うように、
ぼくもいま、一所懸命、
自分を変えてるところです。 |
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前川 |
ああ、なるほど。 |
糸井 |
そうじゃないと、学校の教室で、
「誰だ、今日休んでるのは!」と怒る
先生みたいになっちゃいます。
休んでない生徒が教室にいるはずなのに、
休んでるやつのおかげで、
みんなが怒られる、
あれをついやっちゃいそうだなと思ってます。
だから、ぼくは、
もうふたまわりぐらいバカになって、
そういうことに気づかない自分を
できるだけ、生もうと思ってます。 |
前川 |
いや‥‥ほんと、ぼくも
そういう自分に
なりたいなと思いますよ。 |
糸井 |
それは、練習するしかないんですよね。 |
前川 |
そうですね。 |
糸井 |
天からもらってそれができる人
というのも、
きっといるんだと思うんです。 |
前川 |
いらっしゃいますね。 |
糸井 |
コンサートで、
会場にマイク向けたら、
歌詞をみんなが憶えてて
歌ってくれるって信じてる人もいるでしょう。 |
前川 |
よくありますよね。 |
糸井 |
そういう人たちはいるんですよ。
「私が笑顔を作れば
お客さんもよろこんでくれる」
「みんな待っててくれてありがとう、
ぼくはうれしいです!」
それを素直に思ったり言えたりする人は、
それはそれで、
変わりもんなんだと思います。 |
前川 |
はい。たぶん。
ぼくなんかは
「すいません、今日は来ていただいて」
からはじまりますから。 |
糸井 |
ぼくも、それにはなれません。
なれないけども、
あの素直な強さを
みんながOKと思うんだったら、
もうちょっとぼくは変われると思います。 |
前川 |
変わりますよね‥‥絶対に。 |
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(つづきます) |