伊勢丹新宿店メンズ館の1階で、
白いシャツを試着している
われわれ、廣瀬・武井・西本・田路です。
前回は西本がイタリア製の
「バルバ」というブランドのシャツを着て、
そのよさに目覚めてしまったところを紹介しました。

バイヤーの佐藤巧さんが言います。

「インポートのものは
 基本的にハンドメイドでやってるものが多いんですね。
 いちばんわかりやすいところだと
 袖が、ハンドメイドの後付けです。
 なぜならば、人間の体は平面的ではない。
 前傾姿勢ですよね。
 なのにシャツの脇から袖にかけて、
 ミシンでダーッと直線で縫うと、
 広げた時に平面状になってしまう。
 それは着心地っていう観点からすると
 けっしていいものではありません。
 ですから身頃を作って、袖を作って、
 後からそれをハンドメイドで縫い付けます。
 一直線で作られるのとは違って、
 身頃に対して袖が自然に前に出るように付けるんです。
 着用した時、腕の可動域を、
 自然な形で確保してあげられるっていうのが、
 “イタリアの作り”なんですね。
 ですので、素材のさらっとした着心地、
 っていうだけじゃなくて、
 この作りに本質があると思っています」

なるほど! それが、腕の短さを感じさせないことに
たぶんつながっているんですね。
そこでぼく(武井)は思いました。
腕のみじかい西本くんが、
そのみじかさがシャツ1枚で気にならなくなったんだから、
ぼくのなで肩も、気にならなくなるかもしれないと。

そうなのです。
ぼくはちょっと面倒な客だと思います。体型的に。
首が太い、身幅はあるがなで肩。
腹もやや出ております。
しかし佐藤さんは動じません。
さっと棚からシャツを出して言いました。

「ぜひ、こちらを試着なさってみてください」

それはサルヴァトーレ・ピッコロというブランドの、
やはりイタリアのシャツでした。

試着室から出てきたら、歓声があがりました。
またもやうるさくてすみません。

「わっ! なで肩、消えた?!」
「武井さん、わざとそうしてない?」
「後ろ姿もきれいですよ!」

いや、いつもと同じなで肩ですよ。
でもたしかに、鏡を見ると、
「気にならない」感じになってる‥‥。
な、なぜですか?!

「こちらも、さきほどの話と共通しておりまして、
 立体的につくられているというのがまずひとつ。
 そして、身頃と袖がつながっている部分、
 つまり肩のラインですね、
 ここを少し、わざと中に詰めているんです。
 極端に言えば、実際の肩幅よりも内側に、
 袖のつけねが入っているような作りです。
 そうすると、可動域が広がるとともに、
 体に沿う、きれいな作りになります。
 そんな腕の印象のおかげで、なで肩も、
 ご本人が気になさっているほどは、
 目立たなくなっているのだと思いますよ」

すごい。「ちょっとしたこと」なんでしょうが、
こんなシャツ、着たことがありませんでした。
なで肩のぼくはシャツって身頃の前の部分に
たすきがけみたいなしわが寄るものだと思ってました。

「とてもお似合いですね。
 首の太さも気になさっていましたが、
 こうやってネクタイを締めないでいるほうが、
 若干カジュアルな感じで、
 逆に気を遣っているような印象になって、
 おしゃれかなと思います。
 もし、もうほんとうにネクタイを締めないと
 決められるのであれば、
 もうワンサイズ下げてもいいですね」

さらに小さくてもいい? そりゃすごい。

「そうすると肩のラインがもう少し中に入ります。
 じつはけっこうこのシャツって万能で、
 男らしく恰好良く着る印象になりますよ」

▲その後、会社に着てきました。着ているうちに、サマになってきたかも?

ああ、まいりました。
イタリア製のシャツって初めてですが、
こんなに気持ちのいいものなんだ。
しかも、うごきやすいですよ、
ぴったりしているのに。

「アームホールの小ささも関係していると思います。
 日本のものですと、
 最大公約数を狙った生産になってるので、
 比較的どんな人でも腕が入るよう、
 楽に着られるようにっていうことから、
 ある程度、アームホールを大きめに作るんです。
 すると体型によってはよけいな緩みが出ちゃいます。
 イタリアのものはその緩みを嫌うんですね。
 だからアームホールが小さいんです。
 でも、先ほどの説明と同じで、ハンドメイドで
 袖をつけることで、実際の可動域は広いんです」

ああ、フィット感。すごい。知らなかった世界だ。
しかもぼくが「小さめ」のシャツを着るなんて。

「最近、シャツを選ばれる際に、
 若い方からご年配の方まで、
 すごく関心度が高まってきてるのは
 ボディフィット感です。
 ジャケットを脱いでのクールビズが流行して
 もう何年も経ってますから。
 昔は着ていて楽っていうことで選ばれてたり、
 夏でもジャケットを着て仕事するのが当たり前でした。
 シャツのシルエットなんて誰も気にしなかった。
 でも今やジャケットを脱いで通勤っていうのは
 もう当たり前ですから、
 おそらく会社内で若い女性とかにも
 言われるんでしょうね。
 ちょっとだぶついてるだとか、
 あるいはシルエットがすっきりしてきれいだとかって。
 そういうことで、フィッティングに対しての
 関心度が高まってきたんです、年齢を問わず。
 お腹の出てる方だとかも関係なく、
 シャツの生地に余分な量はいらないっていう方は、
 すごい多くです」

ということでぼくはこの
「サルヴァトーレ・ピッコロ」をえらびました。
しょうじき、予算をオーバーしてはいましたが、
この着心地は衝撃だったのです。

さあ、ここまで読んでいただいておわかりかと思いますが、
西本と武井の選んだシャツは「微妙な差」しかありません。
メーカーはちがいますが、基本姿勢が同じです。
男のシャツって、「デザイン」というよりも、
「動きやすさ」「機能」なんだなあということです。
たぶん、取り換えても似合うと思います。
体型がこんなにちがうのになあ。

(次回は廣瀬&田路編です)
2015-05-14-THU