その8 ma・to・wa
つくるひと・恵谷太香子さん洗えるシルクで肌着をつくる。

きょうは「肌着」、
シャツのインナーのお話です。

昨年はメンズシャツのインナーとして
白いシャツの下に着ても透けない「SEEK」を
ご紹介しましたが(ちなみに、ことしもありますよ!)
レディスシャツのインナーのことまでは
考えることができずにいました。

この1年、「ほぼ日」で
リサーチをしてきたなかで出会ったひとが、
とてもいい肌着をつくっていることを知りました。
それは、シルク100%の肌着。
それも、家庭で、洗濯機で洗えるシルクで、
私たちがもつシルクの印象である
「つやつや・てかてか・つるつる」とはちがい、
とてもやわらかく、いつまでもさわっていたくなるような
ふわふわ感と弾力があるのです。

レディスはもちろん、当時試作段階だったメンズも試着し、
どちらからも「これはいいね!」という声が。
そこで、今回、このプロジェクトで販売をしてみよう、
ということになったのでした。

これをつくっているのは、
恵谷太香子(えたに・たかこ)さん。
美術大学を卒業後、ブライダルの
フォーマルドレスデザイナーを経て、
パリのオペラ座の衣装室に勤めたという経歴の持ち主です。
帰国後はランジェリー・アンダーウエアメーカーで
自社ブランドを立ち上げるとともに、
フランスのライセンスブランドを担当し、
独立してからは映画や舞台の衣装をつくりながら、
いろいろなブランドの立ち上げにかかわったり、
生活全般にかかわる商品の開発にたずさわったり。

▲こちらが恵谷さんです。

そんななか、恵谷さんが
日本の「オーガニック素材」の先端を走る
名古屋の豊島株式会社と組み、スタートさせたのが
シルクの肌着ブランド
「ma・to・wa」(マ・ト・ワ)です。
まだ広く知られているものではありませんが、
「ほぼ日」でぜひ扱いたいと思ったのでした。

着をはじめたのは、
オペラ座の衣装室にいた若い頃、
上司──いまはもう90歳になろうという
おじいちゃんになりましたが、
当時はおじさんだった上司がいたんです。
私はブライダルの世界から衣装の世界に行ったんですが、
そのかたから服づくりをの基礎を
あらためてたたき込んでもらいました。
私にとっては彼が「師匠」です。

まず最初は「衣装の解体」からなんです。
「ほどくところから、モノの造りはわかるんだ」
って言われて。
たしかにほどいていくと、その服がどうやって
つくられているのかがわかるんですね。
そしてほどいたものにアイロンをかけます。
すると、立体でつくられている服のカーブが、
どういうふうな構造になっているかがわかる。
すごくいい修業になりました。
20倍くらいのギャザーの入ったチュチュをほどいて
アイロンをかけるのって、たいへんでしたけれど。

仕事場は地下室、住まいは屋根裏部屋で共同生活、
そんな暮らしでしたけれど、とても楽しかった。
2年かかって、やっと、バレエ団の衣装を
つくるところまで行きました。

その師匠から言われたんです、
「ビスチェとかブラジャーとか、
 肌着を作れない人は何も作れないよ」って。
「それが基礎の基礎だ」と。
それで私はオペラ座から
肌着のメーカーに移ろうと考えたんですが、
まだまだ言葉もおぼつかない状況だったのと、
日本食が恋しくなってしまって、
フランスのメーカーに就職するのを諦めて、
日本に帰ることにしたんです。

日本では肌着をいちからつくることができるメーカーに
入ろうと思いました。
小っちゃい企業のほうが、生地からパターン、
デザイン、縫製、サンプル、展示会の準備まで
全部できるので、大手さんよりいいんじゃないかなと。
そうしたら、ブライダル時代のお客様のご縁で
いまで言うワンマイルウエアをつくりたいというところから
声をかけていただいたんです。
そこなら肌着もできると入社して、
そこでは糸の番手から、撚り、伸度などを
職人さんに習わせていただきました。

そこでデザイナーとして勤めるかたわら、
以前からのご縁で、歌手のかたから
紅白歌合戦やレコード大賞に出るからと
舞台衣装のの依頼をいただいたんです。
それもやっていきたいなと思ったので、
しばらくは会社勤めをしながら衣装づくりをやりました。

そこからは、ブランド立ち上げの相談を受けたり、
ホテルの「布」まわりのプロデュースをしたり、
いろいろなことをしてきたんですけれど、
基本的には「心地よいもの」をつくりたいというのが
私の信条なのは変わりませんでした。
私がつくるものは、ゴミを出したくないし、
害にもならないでほしい。
私のところに来る仕事は、
いまもオーガニック関係のものが多いんですが、
一番最初は1992年、まだオーガニックコットンが
日本に来ていない時に、
フランスのシ・ドスゥというブランドの仕事でした。
「ちょっと隠された下にある」という意味なんですが、
生まれたときから最期のときまで、
すべてのライフスタイルをオーガニックにしましょう、
というコンセプトのブランドでした。
ちょっと早すぎて、売れなかったんですけれど、
その時の企画書や資料は、今、すごく役に立っています。
今は、衣食住全般の傾向がそちらの方向にありますものね。

いま、自分のブランドでは、
60年代のヴィンテージ生地を使って
イージーオーダーで
ビスチェやファンデーションをつくったり、
傘や靴をつくったりしています。
それは自分たちで縫っているような
1点もののつくりかたなんですけれど、
それと並行して、名古屋の豊島さんといっしょに
立ち上げたのが、この「ma・to・wa」です。
2015年にスタートしました。
「永遠(とわ)に纏(まと)う」から発想した名前です。

「ma・to・wa」は、
まず素材を大切に考えています。
シルクは「セカンドスキン」と呼ばれるほど
人の肌になじみのよい素材です。
通気性、発散性、吸湿性、保湿性にすぐれているので
冬はあたたかく、夏は涼しく、
常にさらっとして、快適な状態を保ってくれるんです。
静電気を起こしにくく、紫外線から肌を守り‥‥と、
いいことが多いので、私はシルクが大好きなんです。
残念なことにシルクはいま
日本ではほとんどつくられていないので、
中国で良い原糸を探し、日本で加工をし、織り、
この製品づくりをしています。

ここで使っているシルクは、伸縮性があって、
洗濯機で洗うことができます。
洗濯表示としては「ネットに入れて」
となっていますけれど、なくても洗えるくらいです。
乾燥機はNGですが、さっと脱水して、
干せば1時間くらいで乾いてしまうんです。
98年に「旅をコンパクトにしよう」というテーマの
ブランドを立ち上げたことがあるんですが、
このシルクのインナーはまさしく旅行にも最適です。

▲くるくるっと丸めると、うんと小さくなります。しかも軽い!

一見、なんでもないタンクトップですが、
じつはパターンが立体になっています。
タンクトップというのは、
胸から肩のラインがとても重要で、
デコルテをきれいに見せるのが大事ですから、
天巾と前下がりのバランスを考えて、
シャツの第2ボタンくらいまで外して
チラッと見えてもメンズっぽくならず、
繊細な印象になるようにしました。
肌着の肩ひもはちょうど隠れるような太さで、
そして腕を前に出したときに動きやすくなるよう、
肩下がりも体のラインに添った傾斜をつけました。
そして脇縫いがありませんから、ストレスフリーですよ。
ストレッチ加工をしているわけではないんですが、
伸びますから、肌になじみます。

色は、トレンドのない、
サスティナブルなものを作りたいと思いつつ、
流行もありますので、ひとつはブルー系。
日本の伝統色から持ってきたネイビーを。
白いシャツの中から見えたときにきれいですよね。

そしてもうひとつはモカ、ヌードベージュですね。
400人近い日本の女性の肌の色を調べて、
上に白を着てもいちばん透けにくい色を選びました。

男性には、シャツの下で「透けない」ことが大事ですから、
モカで、Vネックのみです。
こちらも脇縫いがなく、パターンが立体ですから
とても着やすくなっています。
イタリア的に開けて着ても見えないように襟ぐりを深く、
肩には傾斜をつけて、なじむようになっています。

工場でつくっていますが、
ミシンの糸の調子から直して、
こまかいところまで徹底してつくっています。
たとえば2本針のところがプクッとかまぼこ状に
ならないようにしたりなど、そういう調整です。
タンクトップの胸の縫い目には
モビロンという透明ゴムを入れ、
肌に当たらないように包んで縫っています。
これがあると、強度があがり、
着たときに浮かないので、かがんでも安心です。
こういうつくりって、
工場では初めてのことだったようです。

やっと念願の「シルクの肌着」、それも
大勢のかたに届けられる製品ができてとても嬉しいです。
先日、パリの師匠のところに、
自分のコレクションのパターンがうまくいかなくて
相談に行ったんですよ。
そうしたらずいぶん怒られました。
「教えたはずだぞ! まだやってるのかこんなこと!」
って。でもこんどは自信をもって
「ma・to・wa」を見せに行かなくちゃと思っています。

恵谷さんありがとうございました。
ぼく(武井)は1年ちかく、
恵谷さんのつくるシルクのインナーのVネック
サンプルを着ていますが、たしかに、いいんです。
ぼくは汗かきで、夏も冬も汗冷えをすることが
いつか解決したい日常のちいさな悩みだったのですが、
このインナーにずいぶんすくわれました。

「ma・to・wa」にはいろいろなデザインの
インナーがあるのですが、
今回はレディスがタンクトップ2色、
メンズがVネックTシャツ1色を仕入れます。

あわせてメンズは昨年も好評だった
「SEEK」のVネックをならべますよ。
(昨年のコンテンツはこちらからどうぞ。)

(次回は、アイロンのかけかたの話です。)

2016-09-09-FRI