ほぼ日刊イトイ新聞

この旅も、ことしで4年目。
「ほぼ日」と伊勢丹のみなさん、
シャツメーカーのHITOYOSHIのみなさん、
そして、白いシャツをつくっている
いろいろなブランドのかたがたといっしょに、
「いま、着たいシャツ」を探します。
ことしの取材を通して、
「いいシャツを買うってどういうことだろう」
「ながく着るってどんな意味があるんだろう」
そんなテーマにも、
すこしだけ触れられたような気がします。
また「なんとなく似合わないな」を解決する、
いいヒントも教わってきましたよ。
10回の連載、たっぷりおたのしみください!

その10
麻を着よう、ゆったり着よう、
男子諸君。

この連載も第10回、
よみものとしては今シーズンの最終回となります。
ラストはメンズシャツ!
やっと自分(武井)の持ち場が来たかんじです。
レディスのシャツとはまた「うんちく」がちがうのが
おもしろいところです。

メンズのオリジナルシャツは、前回同様、
HITOYOSHIの松岡さんと大坪さん、
そして伊勢丹新宿店の「ISETAN MEN'S」の
バイヤーである佐藤巧さんといっしょにつくっています。

4年前、このコンテンツがスタートしたときは、
男性のシャツは身体にぴったりめのサイズを選ぶ
「フィット」が主流でした。
衿のかたちも「カッタウェイ」
(という言葉を初めて知った)、
かなりワイドに広がった形が主流でした。

その頃のテーマは、
シャツ1枚でかっこよくなりたい、ということ。
ぼく(武井)は太っておりますが、
そういう体型でも思い切って
フィット系のシャツを着ると、
背筋がしゃきーんとして、いいものです。
この取材をとおして購入した
イタリア製のシャツは
いまでもすごく気に入ってます。

ただ、そういうフィット系のシャツって、
そのシャツを中心にして
同じ傾向のアイテムを組み合わせないと、
ファッションがちぐはぐになっちゃうんですね。
パンツ、ジャケット、髪形など、
全体的にコーディネートをしたくなる。
でもぼくはジャケット、スーツ系の手持ちが少なくて、
どっちかというとワークウェア系のカジュアルが多い。
なので、このコンテンツでも、
もうちょっとリラックス系というか、
ゆったり系もあったらいいなあと感じていました。

あれから月日がたち、女性のシャツは
(そもそも、そうだったのですが、より)
「ビッグシルエット」「リラックス」の方向になりました。
では男性のシャツはどうなんでしょう、佐藤さん。

「男性の服の流行は、
女性の2~3年あとを追いかけると言われているんです。
男性の、イタリア的なフィット系のシャツは、
流行うんぬんというよりも、
もはや定番化していると思います。
それがベーシックになった、ということですね。
そのいっぽうで、だんだん、
ゆったり系を着るかたも増えてきていますよ。
といっても、タックインして着るドレスシャツは
大きくなりすぎると、ウエストでもたつきますから、
背中のダーツ処理がサイドタックになったり、
昔のアメリカのシャツのように
センターボックスになったり、
そんなふうなゆったり感が出てきています。
パンツも、以前はタックなしが主流でしたが、
いまはワンプリーツ、ツープリーツ入りがトレンドですね」

また、メーカーであるHITOYOSHIでも、
こんな印象があるのだそうです。

「ドレスシャツの定番が
毎シーズンあるブランドでも、
その定番の考え方が変わってきていますね。
これまではボディは例年共通で、
衿を変える、という変化だったのが、
このごろ、ボディ自体に変化が出てきています。
より細くするブランドもありますし、
たっぷりめにするブランドもありますね」

なるほど、「どちらがいい」ということではなさそう。
だったら、ことしの「白いシャツをめぐる旅。」の
メンズシャツは、女性たちの気分を追いかけつつ、
ぼくらも「ゆったりめ」がいいような気がしますね。

探すとあんがいないシャツ。

リラックス系のシャツといえば、
「ほしいのに、あんがい、ない」ものがあります。
それは「かっこいい、麻のオープンカラーシャツ」。
たっぷりめで風が通ってすずしくて、
ボタンは留めても開けてもよくって、
たっぷりめのパンツか、
ショートパンツに合わせたりして。
麻で白だとやや透けますから、
肌着はベージュのものをつけるか、
まっしろなTシャツを着るのもよさそう。
いっそ色もののTシャツやタンクトップなんかも
たのしいかもしれない。
そんなふうにアレンジしたいなあと思っているのですが、
探しに行くと「あんがい、ない」のです。

そんな話をしておりましたら、
「だったら、麻のプルオーバーの長袖シャツも
いいんじゃないでしょうか?」
という意見が出ました。
おお、それはいいかも!

男子が夏に白の長袖シャツを着るのって
なかなかかっこいいと思うのです。
じっさい、夏に薄手の長袖を着ると、
直射日光下の暑さがやわらぎます。
あと、冷房直下でラク。
ぼくは飛行機に乗るときとか新幹線に乗るときは
夏でも長袖をえらぶようになりました。
(トシかなあ?)

ところが何度か試作を繰り返す中、
いちばん苦労したのがこのプルオーバーでした。
前立ての長さが短いと、
見た目はよくても、着脱がたいへん。
そこで思い切って前丈を長くして、
「カプリシャツのようなリゾート感と、
クラシックなイメージを入れましょうか」
ということに。
しかしこんどは「ちょっと長過ぎるかな?」と、
また短くしていって、
ボタンの間隔を調整しつつ、
あけてもセクシーになりすぎないように調整。
ボタン自体を厚め・大きめの貝素材にすることで
品質感もたもちました。
肩のラインは、レディスであれば
「リラックス系は肩をうんと落として」なのですが、
メンズはやはり、肩のきっちりさは出したいと、
健康的に見えるようなちょうどいいラインを探しました。

▲HITOYOSHI リネンのプルオーバーシャツ。

素材は昨年からひきつづき、
イタリアのアルビニ社の麻を使いました。
フランス・ブルターニュ地方で育てた最高品質の亜麻を
イタリアのベルガモ地方にはこび、加工、
生地として完成させたものです。
(アルビニ社の麻素材については
昨年の取材コンテンツをどうぞ!)
綿ではなく麻をえらんだのは、
夏のリラックスウエアにはそのほうがぴったり、
という理由です。

プルオーバーシャツには、
バイヤーの佐藤さんのプロデュースによる
こまやかな気配りがあります。

まずカフス。じつはこのつくりが、
立体‥‥は当たり前ですが、
円すい形に近い、先が細くなるつくりになっていて、
まくって着ることも多いでしょうが、
きちんと締めたときにきれいに見えるようになっています。

また、衿のかたち。
第1ボタンを外して着ることを考えて、
そのときにきれいに見えるように
衿先の開きと衿の長さを調整しています。

こういうことって、設計図を書いても、
じっさいにつくってみないことにはわからないのだそう。
そのため試作をくりかえすことになったのですが、
プロの料理人の最後の味付けみたいな部分が
シャツづくりでも、あるのです。

全体のシルエットは、
ダーツもプリーツもとらず、ボックスに。
表に出して着ることを前提に、
裾はまっすぐで、ちょっとみじかめに。
そしてサイドスリットを入れて
リラックス感を演出します。

▲HITOYOSHI リネンのオープンカラーシャツ。

オープンカラーシャツは、半袖。
昭和の時代はよく見たように思うのですが、
その「おじさんが着るシャツ」というイメージから、
ここ数年、市場からすがたを消していたそうです。

佐藤さんは言います。

「そもそも、おしゃれに着る半袖のシャツ、
という発想自体が、シャツをつくる側に、
あんまりなかったんだと思います」

そうでした、昨年、イタリアのアルビニ社の
エンリコさんに訊いたら、
半袖シャツはありえない! という反応でしたね。
でも日本は湿気も高く暑いからなあ。

「そうですよね。さらにトレンドとして、
ちょっとオーバーサイズの流れが入ってきて、
さらに、コロニアルスタイルや、
サファリスタイルのような、
いにしえの熱帯でヨーロッパ人がしていた
ファッションが再評価されていることもあり、
イタリアでも、オープンカラーの半袖で、
プリントの素材のものが出てきたりしているんですよ」

なんと! 意外なことにこれって最先端?
さらに、胸のポケットにご注目ください。
これ、あまり実用としては
使わない部分だろうということで、
うんと小さな横長のかたちをえらびました。
これが思った以上に効果的。
このシャツをチャーミングに見せている部分です。
横長のこのポケットのかたちも、
HITOYOSHIの松岡さんたちと、
伊勢丹の佐藤さんたちが
「もうちょっと角をまるくしたほうがかわいい」
など、こまかな調整をしたものです。
(横に倒したDの字みたいになりました。)

ところで、このコンテンツでは最初から語っている
男子のインナー問題ですが、
佐藤さんとHITOYOSHIの大坪さんは「着ない派」、
でも、その佐藤さんもこんなふうに言います。

「麻で、夏に着るシャツですから、
肌着をつけずに1枚で着ていただくのが、
シンプルでいいかなと思います。
ただ、オープンカラーシャツのボタンを外して、
羽織りものとして着るときは、
色付きのTシャツで遊んでもいいと思いますよ」

松岡さんは「いつもラウンド白Tを着る派」。
なるほど、それは安心、わかります。
詰まっている衿でも、ボートネックっぽくても、
どちらもよさそうですね。

ちなみにいまって「Vよりもラウンド」
なんだそうですが、ぼく(武井)は、
こういうシャツにVネックの白Tを合わせるのも好きです。
あるいは透けることを前提にボーダーTシャツを中に着る、
あるいは、いかにも1枚で着ているみたいに見える
ベージュの肌着を着ます。

パンツはいかがですか。
やっぱりショートパンツ?
これについては佐藤さんが明快な答えを。

「大きく2つあります。
まずショートパンツを
リゾートっぽく合わせていただく。
ヨーロッパっぽい、膝よりも少し丈が上の、
膝上丈を合わせていただいた方が、かっこいいかな。
長ズボンであれば、ちょっとゆったり、
昔でいう、学生服のボンタン。
わたりが太くて、裾に向かって少し
テーパードしていくものや、
テーパードもせずに、ストンとそのまま、
ワイドで下まで落ちるもの。
いずれにしても、ゆったりしたものとの
組み合わせの方が、相性がいいですよ」

なるほど。女性が着るのであれば
ワイドなチノパンなんかもよさそうですね。
ジャケットはどうでしょう? 「せっかくの麻ですから、
このままのほうがサマになると思いますよ」

靴は?(すみません、ぜんぶ訊いてる。)

「エスパドリーユか、サンダルかな。
あるいはソックスなしでスニーカー。
あるいは革ならローファー、
それも、ちょっと丸っこいかたちのもので、
タッセルがついていてもかわいいですね」

うむ、この夏はさっそくそれで行きます。 ということで、これで全ラインナップが出そろいました。
「ほぼ日ストア」と伊勢丹新宿店での販売スタートは
5/23(水)。その後、三越伊勢丹さんは、
各地でキャラバンを開催する予定です。
さらに6/7(木)から11(月)までの
恵比寿ガーデンプレイスの
「生活のたのしみ展」には、
このコンテンツの出張所ができますよ。
どうぞおたのしみに!



2018-05-21-MON