糸井 |
宮藤さんは、脚本を書くのは
はやいほうですか?
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宮藤 |
はやいってよく言われますけど、
だんだん遅くなってきてますね。
今はせっつかれたら
1週間に1話ぶんくらいは
書けるんですけど。
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糸井 |
1週間に1話書くっていうのは、
けっこうたいへんなことですよね。
ふつうは
何本かぶんのネタをためておいて
出すんですよね?
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宮藤 |
そうですね。
ぼくの場合は、すぐ出します。
いっこずついっこずつ。
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糸井 |
宮藤さんのつくるものって、
テーマはなに? って聞かれたら
困るようなことばっかりですよね。
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宮藤 |
そうなんですよね。
なんなんでしょうね。
「言いたいことがわかんない」
というようなことを
言われることがあるんですけど、
正直、あの、
言いたいこと、ないんですよ。
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糸井 |
くー。
そこがぼくのね、内臓にくるんですよ。
オレ、若いときからずーーっと
「お前には言いたいことはないのか」
って言われ続けてきたから。
言いたいことがあってね、
紙に書けるんだったら
習字で書いてますよね。
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宮藤 |
そうですよね。
習字で書いて壁に貼っときますよね。
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糸井 |
暫定的にはね、
その都度言いたいことはありますよね。
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宮藤 |
そのときそのときありますよね。
言いたいことはいちおうあるんだけども、
かならずしもその言葉には
永久的な責任はもてない、
というノリですね。
ただ、やりたいことは
かろうじてあるので
まだ続けられると思うんですけど。
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糸井 |
あとね、宮藤さんは
「恥ずかしさ」についても
すごく考えてる人だなと思うんですよ。
酔っぱらって若い子に説教するとか
野球見に行って、じぶんのこどもに
あのピッチャーがいかにだらしがないかなんてことを
とうとうと聞かせたりするようなことはしまいと
すごく気にしてるでしょ。
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宮藤 |
見ちゃいますよね、そういうの。
そういう恥ずかしいことは
いつでも、だれでも
やりかねないですから。
若い子に説教しちゃうとか、
気をつけないとやっちゃいますよね。
ドラマで描くことによって
ぼくはじぶんに
言い聞かせてるというか(笑)。
これはやっちゃいけないことだって
じぶんを律してるところが
あるかもしれないです。
じぶんがしたことで
後からじぶんにからかわれるのが
いちばん腹立ちますから。
ぼく、喫茶店に行くと
そこのマスターに
ぜんぶ見られてるような気がして、
『マンハッタンラブストーリー』
というドラマを書いたんです。
主人公である喫茶店のマスターは
店内では
ひと言もしゃべらないんですけど、
お客さんたちの交わす会話に
どんどん感情移入していく(笑)。 |
糸井 |
ふふふ。
で、宮藤さんの描くドラマの主人公は
いい具合に夢がちいさいんですよね。
どう言ったらいいんだろう、
主人公は、べつに世界も日本も
相手にしてなくて
今、じぶんの前にいる人たちが
いい方へ向かえばいいな、
ということだけを思って
行動していくんですよね。
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しり
あがり |
それ、すごいほめ言葉だなぁ。
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宮藤 |
たしかに夢、ちいさいですねぇ。
町内で完結してますからね。
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糸井 |
古典的な言い方でさ、
ドラマっていうのは
対立のなかから生まれるんだ、
という言い方がありますよね。
宮藤さんの作品を見ていても
それはあるんだけど
あれについてどう思います?
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宮藤 |
いやぁ、なきゃないでいいのにな、
って思いますよ。
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糸井 |
使えるときは使うっていう感じなのかな。
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宮藤 |
そうですね。
いちおう1時間の話を書くときは
40分くらいのところで
だれかとだれかがぶつかり合わないと
納得いかないでしょ、という、
うすい起承転結の意識はあります。
20ページから30ページくらい書いたときに
ここで、だれかがだれかにキレて、
てんてんてん‥‥、
みたいなことがいっこあれば
みんなドラマだって思ってくれるかな、とか。
平気でそういうのがないまま
書いちゃうときがあるんで。
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糸井 |
でしょうねぇ。
しりあがりさんも、
言いたいことがないといけないっていう
風潮に困ってた人ですよね。
『弥次喜多』はさらに、
描いているシチュエーションも
「おいおい!」っていうものでもあるし。
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しり
あがり |
ぼく、よく言われるんですけど、
ぼくの漫画には
話を進めるエンジンみたいなものが
ないんですって。
先を読みたくならないって。
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宮藤 |
えっ、それはだれに言われるんですか?
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しり
あがり |
‥‥編集者とか。
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宮藤 |
え! え!? 今も言われるんですか?
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しり
あがり |
言われますよぉ。
だってオレ、じぶんでも
途中で読むのやめちゃうくらいだもん。
(と言って、持っていた
『弥次喜多
in DEEP』を机に戻す)
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宮藤
・糸井 |
(爆笑)
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しり
あがり |
たしかに、
エンジンないなぁ、と思うんですけど。
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宮藤 |
でもエンジンってかならずしも
必要なものじゃないですよね。
松尾(スズキ)さん*の芝居も
けっこうそうですよ。
わりとたんたんとしてる。
(*編集部註:
宮藤さんの所属する劇団「大人計画」を立ち上げた人物。
劇団の作、演出、俳優をつとめる他、
映画監督、作家としても活躍中。
映画『真夜中の弥次さん喜多さん』では「ヒゲのおいらん」役
) |
糸井 |
「謎」があれば、エンジンじゃなくても、
たとえば、馬の目の前にぶらさがる
にんじんが見えてれば行けるんですよね。
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宮藤 |
そうなんでしょうね。
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しり
あがり |
今新たに
『真夜中のヒゲの弥次さん喜多さん』
という漫画を連載してるんですけど、
そこではそのエンジンを
練習しようと思って。
で、どうしてるかって言うと
かならず最初に人が殺されるの。
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宮藤 |
あはははははは。
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しり
あがり |
その謎を解くことにしようって。
でも、どうしても
うまくいかないんですよ、それが。
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宮藤 |
ものすっごい
無理してるのがわかりますね。
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しり
あがり |
むりやりミステリーにしてるんですよ。
だってぼく、そういうの
ぜんぜん好きじゃないんですもん。
えへへへ。
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糸井 |
‥‥でしょうねぇ。
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しり
あがり |
本当はちいさな伏線を
はるのが大好きなんですよ。
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宮藤 |
え、大好きなんですか?
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しり
あがり |
もう、伏線はりまくるの。
で、その伏線を、
散らかしたまんまにしちゃうんだけどさ。
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(つづきます)
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