ほぼ日 |
研究していってどう思った? |
ヤキコ |
小さい焼き肉屋さんは、人気があるよね。
あれは、相手にするお客さんの人数が少ないから、
本当においしい稀少価値のある肉が出せるし、
サービスにしても、
店主が1人で全部のお客さんを
見ようと思えば見られるよね。
やっぱり、その人の、
力や思いが入ってるものは強いんです。 |
ほぼ日 |
そうかー。
小さい焼き肉屋がおいしい理由って
そこにあるんだね。
店主さえ本気でやれば、結果がついてくるよね。 |
ヤキコ |
でも、うちみたいに、
客席が200席以上ある店では
それが簡単には実現しない。
おいしいものを10人前出すことと
200人前出すことの違いはやっぱりあって。
だったらどうしたらいいんだろうって考えた。
ものすごくおいしいものをいくら知ってても、
それを200人前出すことが物理的に無理なとき、
どうするか。
こだわりすぎることもできないけど、
こだわらないともっとだめ。
大きい店の魅力って何なのか、
200人が納得するレベルって何なのか、
徹底的に考えた。 |
ほぼ日 |
難しそう。 |
ヤキコ |
そこで出した答えが、「バランス」だということ。
味、接客、内装、盛り付け、価格など、
すべてのバランスが必要なのです!
そしてこのバランスは実に微妙で難しい。
バランスがとれていたとしても、
そのレベルが高くないと
お客さんには満足してもらえないし。 |
ほぼ日 |
うーん。確かにそうやろうね。
食べさせてもらったけど、
お肉はあい変わらずとびきりおいしいままで、
いちばん変わったのは、
接客スタッフと、この内装じゃない?
あ、メニューも全然ちがうし。 |
ヤキコ |
そうですね。
味のレベルの高さに、他のものをひきあげるために、
・内装リニューアルチーム
・メニューリニューアルチーム
・スタッフリニューアルチーム
にわかれて、プロジェクトを進めました。
まず内装は、夫のヤキオの人脈をたどって、
インテリアデザイナーの
森田恭通さん(※註2)にお願いしたんです。 |
ほぼ日 |
あ!あの「ケンズちゃんとダイニング」や
ランプの灯を使った内装でお馴染の!
【註2:森田恭通さん】
世界的にも有名な大阪出身の
超売れっ子インテリアデザイナー。
「内装はあの森田恭通」という文字が
女性誌のグルメ記事などによく登場する。
竹をつかった客席 |
ヤキコ |
この内装を喜んでくださるかたも
もちろんいらっしゃいますが、
やっぱり今までの常連さんは、
来られたらびっくりされますね。
「照明暗なったなあ!」って言われたり(笑)。 |
ほぼ日 |
それがねらいなのに。 |
ヤキコ |
そう。
実際、暗いほうが、お酒はよく出るんです。 |
ほぼ日 |
ああ!生鮮食品の逆だね。 |
ヤキコ |
今まで来てくださっていた
家族連れのお客さんに加えて、
20代〜30代くらいの女性が来てくれるような
お店にしたいって考えてたから、ね。
森田さんにお話ししたら、焼き肉だから、
「セクシー」と「アジア」をテーマにしましょう、
ということで、取り組んでくださいました。 |
ほぼ日 |
なるほど。肉を食べる行為はセクシーだと。
だから、カップル席があったりするんやね。
ライトでうまく客席が区切られている感じですね。
大切な人と仲良く並んで肉を焼ける席。 |
ヤキコ |
うん。あとは、土と火と竹っていうのを組みあわせて。
いかにも韓国って感じではなく、
アジアのイメージを
打ち出したほうがいいっていうことだったので。 |
ほぼ日 |
ほう。壁が、土やね!ざらざらしてる。
個人的には、つるつるした感じのお店って
あんまり食欲湧かないっていうイメージがあるけど、
この土壁は素敵。落ちつく。
オイルランプも揺れてるねえ。
|
ヤキコ |
この森田さんからのプレゼンが終わったとき、
森田さんに「いかがでしょうか?」って言われて、
会社の幹部の人たちは、
ぽかんとしていました。
意味が全然わからなかったみたい(笑)。
旧南大門の大広間。 |
ほぼ日 |
そうだよねえ。
今までは和風の大広間があったり、
照明もぴかぴかしてたのに、
それがいきなり「アジアンセクシー」やもん(笑)。 |
ヤキコ |
母は、きっぱり、
「そういう専門家には口出しせんと、
全部お任せしたほうがいいんや」
って言ってたので、そうしてもらいました。 |
ほぼ日 |
ほんと、おっしゃるとおりですねえ。 |
ヤキコ |
それまでは社内でも
色々と意見が行き交っていましたが
その一言でびしっとしました。 |
ほぼ日 |
さすが、ヤキコママ!
実際に若いお客さんは増えましたか? |
ヤキコ |
そうですね、
2〜3誌くらい雑誌に載ったこともあって
デートで来てくださったり、
女性同士でわいわい来られるかたが
格段に増えました。
もう既に、「ほぼ日を見ました」
と言ってくださったかたもいらっしゃいます!
こんなに早く来られるとはって、
店長もびっくりしていました。
この場を借りて、来てくださったかた、
本当にありがとうございます。 |
ほぼ日 |
わあ、こちらこそうれしいです。
「ほぼ日」読者は、おいしいものには目がない!
|
ほぼ日 |
雰囲気ももちろん大事ですけど、なんといっても、
気になるメニューの話が知りたい!
(メニューをパラパラと見る)
は!「旬」を最大限に活かした感じになってますね。 |
ヤキコ |
これは、もう本当に、
各メニューに各歴史があるんです。
日本で焼き肉屋をやっていくってことは、
やはり、韓国で焼き肉屋をやることと
違うんですね。 |
ほぼ日 |
ああ、確かに。
韓国と日本では、焼き肉の
肉の種類からして全然違うもんね。 |
ヤキコ |
それもあるし、
韓国の焼き肉屋は、季節感をものすごく
大切にしてるんです。
ナムル(※註3)をとってみても、日本では、
ほうれん草、もやし、ぜんまいが必ず出てきますが、
韓国では、その時の旬の野菜が必ず出てくる。
しかも、季節を折り込んだ美しい京料理もある
京都で焼き肉屋をやっているんだから、
うちでも、日本の四季を意識したいと思ったんです。
だから、名前も
「南大門」から「南大門 春夏秋冬」に。
【註:ナムル】
小皿に入ったちょっとした野菜の和え物や
おつまみのこと。韓国で焼き肉屋に行くと、
頼んでいないのに出されるサービスの品。 |
ほぼ日 |
はっはーん!この4文字にはそういう思いが。
確かに、焼き肉屋って季節感ないですね。 |
ヤキコ |
実際に、今までの店と違って、
野菜の注文がすごく増えました。
こちらの気持ちが伝わったのか、うれしいです。
だって、リニューアル前の調査で、
「焼き肉屋でよく注文するもの」
というアンケートをとったときも、
「ナムル」とか「野菜」っていう答えが
まったくなかったですからね。
野菜を使った前菜たち。 |
ほぼ日 |
そうそう、読者のかたから、
こんなメールをいただきましたよ。
きょうさっそくに、河原町の南大門に行ってきました。
HPの写真を見てちょっと「高級」かな?
というイメージもあったのですが、
行ってみると家族連れも多く、
スタッフの方々の笑顔もきさくで、
でも、きっちりと接客されていて、
くつろぎながら気分良くたらふくいただきました。
お肉のうまさはもとより、
わたしは野菜のおいしさに感動しました。
肉巻かずとも、
お味噌つけてばりばり食べるほどでした。 |
ヤキコ |
いやあ、本当にうれしいわ!涙出る。
メニューも、季節ごとに変えていきます。
今なら、春野菜ビピンパ(数量限定)、
春キャベツの浅づけキムチ、
春菊のヤンニョンセンチェ(※註4)、
などが季節限定のメニューですよ〜。
【註4:ヤンニョン】
薬に念じると書いて薬念(ヤンニョン)。
様々な調味料、香辛料を各家庭オリジナルの配合で
合わせます。食べ物は身体を癒す○であるという
医食同源の考え方からこの名称ができたといわれます。 |
ほぼ日 |
この「韓ドリンク」「韓chu-hi」って何?
ダジャレ? |
ヤキコ |
私がネーミングした(笑)。
「韓ドリンク」は韓国のお茶で、
それで割ったチューハイが「韓chu-hi」。
その中の五味子茶(オミジャ)は、
新陳代謝の促進にもいいよ。 |
ほぼ日 |
なーんか、肉を焼く以外にも
楽しみがいっぱいあるね〜!
たまりませ〜ん!
|
(つづきます)