糸井と  永田の  思い立ったら、雑談。    満を持して禁煙を語る編
未曾有の値上げに世の愛煙家たちが ざわめく2010年10月、 禁煙3年目である永田は「あ。」と思った。 そして、禁煙8年目に突入した 糸井重里のところへ行って、こう言った。 「ぼくらが7年前にやろうとしてできなかった 禁煙についての話が、いまなら、 ひょいっとできるんじゃないですか?」 あ、それはいい、と糸井は返した。 そんなわけで、久々に突貫系雑談コンテンツを。 はっきり言ってヘビースモーカーだった糸井重里が いかにして禁煙に成功したのか? そして糸井は、そこからなにを得たのか? そんなようなことを軸にしつつ、 吸ってた時期も、吸ってない時期もあるふたりが 語れる範囲で、禁煙を語ります。 専門でもないし、啓蒙もしませんが、 少しくらいは禁煙に役立つ自信がありますよ。
糸井重里のはだかの禁煙日記。440円
いいタイミングですよね、語るには。
 
 
はい、ちょうどいい。
さっとツイッターで流したところ、
そうとう反応もあったし。
いま、話すべきなんでしょうね。
 
 
わかりやすいきっかけは、やはり値上げです。
10月1日にがつんと大きな値上げが。
100円とか上がったんでしょう?
いま、いくらなんですか、だいたい。
 
 
糸井さんの吸っていたピースライトは
1箱440円になってます。
へぇ、440円。そうですか。
 
 
ちなみにぼくの吸っていたキャスターは
410円になってました。
吸い始めたときは、たしか220円とかでしたから
ほとんど倍になってます。
月日は流れ行くね。
やっぱり百代の過客だね。
月日は百代のカカクにして、
価格は値上げですね。
 
 
今日は1対1の雑談なので
心置きなくそういうダジャレを無視できます。
まぁ、ともかく。
 
 
満を持して。
うん、満を持して。
 
 
糸井さんが禁煙したころから
「これはコンテンツにしなきゃ!」と
言い合ってましたからね。
まさに、満を持してですね。
 
 
ちなみに糸井さんの禁煙がスタートしたのが
2003年の8月。
8月2日です。
 
 
ですから、ええと7年と2ヵ月。
8年目ですね。
もうさぁ、言ってもいいよね。
「イトイの禁煙は信用できない」
とは言われないでしょう。
自分からの声も含めてさ。
 
 
もう大丈夫だと思いますよ。
仮にね、7年経って吸ったからって
「禁煙を語る資格はない」
なんて言われないんじゃないかな。
まぁ、吸わないですけどね。
もったいないですから。
 
 
そう。
めんどくさいから、もう吸わない。
永田くんは、やめてからどのくらい?
 
 
ぼくは、2年9ヵ月。
今年の年末で丸3年になります。
あなたも大丈夫でしょう。
 
 
たぶん(笑)。
ですから、まあ、
やめたぼくらの立ち位置としては、
まず、タバコの両方の側を知っている。
知ってますねぇ!
もう、吸い尽くしましたね(笑)。
 
 
ははははは。
何本ぐらい吸ってましたか。
多いときは1日に80本ぐらい吸ってました。
 
 
80本。4箱。
だから、カートン買いですよね、当然。
で、カートンの残りが少なくなると、
「あ、もうタバコがない」と思ってましたから。
 
 
すごい(笑)。
ぼくは、ゲーム雑誌にいたときの取材で
糸井さんにはじめてお会いしたんですけど、
ゲーム雑誌は、基本、子どもも読むので、
タバコを吸ってるところは
なるだけ写らないようにするんです。
でも、糸井さんの取材のときの写真は、
なにしろタバコが写ってない写真がない(笑)。
なるほどね(笑)。
ずーっと吸ってましたからね。
職場でも、家でも。
 
 
そうですね。
授業サボって屋上でも吸ってましたし。
 
 
『トランジスタラジオ』。
♪じゅぎょぉおをさぁぼぉってぇぇ〜。
(忌野清志郎さんのマネ)
 
 
(無視して)
あのころを思い返してみて、どうです?
うーん、なんていうだろう、
吸ってたっていうことはたしかなんだけど、
「あのころはよかったなぁ」っていう
気持ちにはならないですね。
 
 
あ、そうですね。たしかに。
懐かしくない。
懐かしくはないです。
 
 
「吸いたい」は?
「吸いたい」は、あります。
たまにふっと思い出すのは、
「ここは煙草吸いどきだな」っていう気持ち。
 
 
そうそうそうそうそう!
まったくおなじです、それ(笑)。
ははははは。
「ここのタバコはうまいんだよな」
っていう場面が。
 
 
そうなんですよ。
日常習慣としてのタバコをやめたあとは
「タバコを吸うべきシチュエーション」が
ときどき訪れるんですよね。
そうそうそうそう。
ぼくの場合、わかりやすいのは、
「独身の日」みたいな状況ね。
つまり、家人も犬もいない日があって、
その日は自分ひとりなわけ。
それはね‥‥訪れるね。
 
 
ああ、訪れますねぇ。
ぼくは、たとえば、
大きなインタビューが終わった瞬間。
あーー(笑)。
 
 
「おつかれさまでした!」って
現場が終わった瞬間は‥‥訪れます。
訪れるねぇ(笑)。
あと、なんだろな、いくつかあるんだけど。
 
 
細かいところでは、
出張の新幹線のなかで駅弁を食べ終わって
あの、座席の机をパタンと戻して、
さて、デッキで一服‥‥。
あああ。
 
 
それから、真冬のラーメン屋。
武蔵とか、よく行くラーメン屋さんを
「ごちそうさま」って出た瞬間。
そういうのは、もう、しょうがないよね。
 
 
しょうがないです。
(タバコを吸ってる)夢は?
 
 
見ましたし、いまも見ます。
ぼくも、つい最近見ましたよ。
2ヵ月くらい前かな。
夢の中で、「やぁっちまったぁー!」。
 
 
やっちまったぁーってなりますよね(笑)。
そうそうそうそう。
最近見る夢は、だいたい吸ったあと。
そうそう、吸い殻を見て、
「ありゃー!」ってなるの。
 
 
あの、話しましたっけ?
ぼくが、タバコをやめた当初に見たおかしな夢。
いや。
 
 
やめてるときって、
体が、あの手この手で、夢の中の自分に
タバコを吸わせようとするじゃないですか。
でも、夢の中の自分って、
けっこう現実っぽく振る舞うから、
ふつうには吸わないんですよ。
夢の中でも必死に我慢しちゃう。
そうそうそう。
 
 
そんなときに見た夢なんですけど、
こう、あたり一面、霧で真っ白なんですよ。
もやーーーっとしてる。
で、そこに知り合いが何人かいて。
うん。
 
 
その霧をよく見ると、あちこちで、
パチパチ、パチパチって、
線香花火みたいな火花が起きてるんですよ。
で、そばにいた誰かが
「この霧はね、火に触れると
 キレイな火花を散らすんだよ」
って教えてくれる。
で、ぼくが「へー!」って驚くと、その人が
スッとタバコとライターを取り出して、
「やってみる?」って。
はははははは!
 
 
で、ぼくは、「あ、ありがとう」つって、
くわえてシュボって火つけて
パチパチってなる火花を見て
「ほんとだ‥‥‥‥うわぁあ!」って。
おもしろい(笑)。
あなたの体はさ、
あなたの性格をほんとによくわかってるね。
 
 
はははははは。
こんなときに吸いたくなるっていう
シチュエーションの話は、
ほんとはもっとあるんだろうなぁ。
 
 
ありますよね、きっと。
あと、やめたあとは、
「自分が吸う人だったら、
 ここは面倒くさかっただろうな」っていう
シチュエーションがたくさん目につくよね。
もう、わかりやすいところでいうと
飛行機の中とかね。
 
 
そうですね。
だってオレ、外国行くのいやだったもん。
 
 
やめたころの糸井さんの話で覚えてるのが、
よその会議室とか社長室で、
「オレにだけ灰皿が出てくるんだよ」って。
そう、あれはいやだったな。
ほんとは禁煙なんだよなっていう場所で、
自分にだけ灰皿が出たりする。
‥‥ああ、思い出すなぁ。
 
 
そう、けっきょく、そういう
現実的な問題の積み重ねなんですよね。
なんか「健康のために」とかいう
大きな動機ではなかなか難しいんだけど。
うん、うん、そうだね。
 
 
当時の糸井さんの話でよく覚えてるのが、
職場を禁煙にするかどうか、
みたいな話をしてるときに、
「きみらがつかってる灰皿を
 誰が洗ってるか知ってるか?」
って言ったんですよ。
「あれは、毎朝、モッキー(総務の元木)が
 洗ってるんだぞ」って。
あーー。
 
 
あれはグサッときましたね。
モッキー、タバコ嫌いに決まってるし。
それは、社長としては、いいセリフだねぇ。
 
 
はい(笑)。なんていうか、
「灰皿の吸い殻を捨てる」くらいのことは
自分たちでやってるつもりでいたんですけど、
「その灰皿をキレイに洗ってる人」までは
考えが及んでなかったんですよね。
だいたいそうなんだよ。
タバコにまつわるそのへんのことは、
吸わない人がキレイにしてるんだよ。
 
 
うん。
それは、タバコという汚いものを
駆逐しましょうということではなくってね。
 
 
ああ、そうですね。
そう、そこは、
最初に言っておいたほうがいいかもしれない。
あの、ややこしいようだったら、
編集で最後のほうに回してもいいけど、
とりあえず、しゃべりますね。
 
 
はい、どうぞ。
タバコについて、最近思ったことなんだけど、
タバコを吸うことがまるで犯罪であるかのように
扱われはじめてから、
いろんなことが変わったなぁって思ってるんです。
つまり、毅然とした意志で、
「正しくなろう」って人が、正しいことを思って、
それを実行していくのは可能なことだって、
思われすぎてるような気がするんです。
 
 
はい。
さまざま、悪いことはいっぱいあるんですよ、
人間の社会にね。
どんな時代においても、
「それはいけないだろう」
って言われるようなことから、
時代によっては「いけない」って言われてたけど、
いまは逆に大丈夫だったりね。
あるいは、いま、いけないとされてることで、
昔だったら自慢話になったようなことだとか、
もう、山ほどあるわけですよ。
 
 
うん。
そういう、さまざまな悪いことがあるなかで、
ぼくは、基本的には、
「鬼の首でも取ったかのように主張する正しい側」
には、立ちたくない。
 
 
はい。
それは、時代や状況が変われば、
どうなるかわかんないんだよっていう気持ちが
根本のところにあるからね。
だから、そこのところについて、
否定するわけじゃないけど、自分では、
あまり言いたくないって気持ちがある。
 
 
なるほど。
で、自分がタバコをやめることについても、
そこのところは、なるべく気をつけようと思った。
で、ただ、まぁ、なにが迷惑かってことについては、
だんだんわかってきますから、
それこそ、モッキーが洗う灰皿のように、
考えるべきところは考えようと。
ただ、もっと大きな枠の話として、
巷のタバコの煙とともに、
さまざまな人間の理不尽な行いが、
消えていったなぁっていう思いがあって、
いつごろからこうなったっけ、って感じることが
最近、けっこうあるんですね。
たとえば、なんだろうな、
いつごろからこんなふうにみんなが
いろんなことに目くじらをたてるように
なったんだろう、とかね。
文句を言われそうになったときのために
あらかじめ書いておくたくさんの警告文とかさ。
そういうことと、タバコがなくなったことは
時期的にも意味的にも重なってる気がする。
やっぱり、タバコがなくなることで、
世の中はよくなったんだろうし、
クリーンになったんだろうけど、
それと、いままでの人の歴史っていうのが、
ちょっとバランスを壊しつつあるように見える。
で、一方で「タバコは文化だ」っていう
言い方もあるんだけど、
文化だっていう正当化というか、かばい方も、
ちょっと違う気がするんですよね。
そのあたりは、どうも、ものが言いづらい。
だから、そこについて自分は、どういう考えで、
どういうふうに感じるべきかっていうのは、
もう、ほんとに知性で感じるしかないというか。
 
 
ああ、その話はたしかに
最初に言っておいたほうがいいですね。
そう思うんだよ。
 
 
だから、7年前、糸井さんが禁煙したとき、
ぼくら、本を出そうとしたじゃないですか。
求められてると思ったし、
おもしろい本になるに決まってると感じたし、
実際、よその出版社からいくつも
本にさせてくださいっていう話もあって。
でも、あの本を出すっていうことに
踏み切れなかった大きな原因が
いま糸井さんがおっしゃったことじゃないかと。
まさに、そこですね。
だから、いまになって、
やっぱり簡単には言いづらいことなんだ
っていうことが、ようやくわかるというか。
 
 
うん。
で、一方で、ちゃんと言えることもある。
それは誰にとってもよくない、みたいなことね。
さっきの、その灰皿を誰が洗ってると思ってるんだ、
っていうあたりとか、
タバコをみんなで吸ってる部屋にいたときに、
吸わない人の嫌煙権みたいなこと論じ合う前に、
その、タバコのにおいがついた服を
「うわー、これ、どうしよう」
って思ってる人のこととかね。
そういうふうに、ある種の想像力をつかって、
やっぱり、自分たちの現実的なことばに、
もう一回、翻訳すべきだと思うんです。
 
 
うん。
ひとりがひとつずつ、
きちんと腑分けして考えていく。
それが必要なんじゃないかなあ。
それを、まずは、言っておきたいですね。
 
 
それを前提として言っておくと、
のびのびと具体的なことがしゃべれますね、
タバコの両方の側を知っている立場としては。
そうそうそう。
 
(つづきます)
2010-10-12-TUE
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