三谷龍二さんの、これまでの「場所」。 三谷さんからのレポートを掲載する前に、 三谷さんがこれまでどんな「場所」にいたのかを お聞きしました。 全5回でお届けします。

その5 「10センチ」が始動します。
ほぼ日 三谷さんは木の器だけでなく
立体造形や、絵も描かれてますよね。
三谷 85年ぐらいから始めてるんです。
クラフトフェアのために
作ったんですけど、最初は。
ポスター作るっていうときに、
器じゃおもしろくないと思うし、
なんかどうしたらいいかと思ったときに、
工芸的なものを違う形で表現したいと思って、
「自転車に乗ってる人」を作ったんです。
その次に人体の立体とか
作り始めたんだけれども。
ほぼ日 そうして、いま、そのお仕事が
順調に回っているわけですよね。
そんないま「新しい場所」を持ちたいと
思う三谷さんのなかには、
たとえば何か窮屈になってきたっていうような
ことがあるんでしょうか。
それとも、全然別の流れがあって
場所を作りたいと思われたんですか。
三谷 場所はね、その場所が先にあったんです。
ほぼ日 おお?(笑)
三谷 たまたま出会っちゃったんです。
ほぼ日 三谷さんらしいというか‥‥。
三谷 そうなんです。僕はあんまりね、
「これがしたい」っていうのは
あんまり強くないんです。
というか、ないんです、いつも。
「これがしたい」んじゃなくて、
「与えられた課題に、
 自分だったらどう応えるか?」
そういう感じなんですよね。
なかなか先手じゃない、
後手のほうなんですよ。
ほぼ日 じゃあ、その「場所」を
見つけちゃったんですね。
三谷 そう。それは僕が5年ぐらい前に、
「工芸の五月」をやろうとしたときに、
その古い建物を使って、
遠くから来た作家さんに
その期間だけ何かやってもらおうと思って、
大家さんに貸してくださいという交渉に
行ったことがあるんですよ。
そのときは荷物がいっぱいだったから
「だめだよ」って言われて。
それを何回か繰り返していたら、
そのうちに向こうもなんとなく、
「貸してもいいよ」
ということになったわけです。
そこで「さぁ、どうしよう」と。
何に使おうかなって思うと、
よく工房に電話を頂くのは、
「今松本にいるんだけれども、
 器、見られませんか?」というもので。
僕にはそういう場所がないので、
「すみません、ご覧いただけないんですよ」
って言うしかなくて。
工房にお越しいただくわけにはいかないし、
だったら、場所ができれば、
自分のショップは、できるなと。
それが最初でした。
ほぼ日 なるほど!
三谷 とはいっても、ショップは本当に狭い感じに
なるとは思うんですけれども、
一応キッチンも作って、
食事会とか展示会も
やろうと思えばできるっていうような感じに
空間を作るつもりなんです。
「工芸の五月」で経験しているんですが、
食事会ってすごくむずかしいんです。
そういう設備がなかなかない。
設備と空間と、
雰囲気のある所がないんです。
そういう面でいつも困ってたんで、
場所を作っておけば、
何かできるかもしれない。
ほぼ日 ということは、ショップとしても機能しながら、
イベントや企画展のようなこともできる
そんな「場所」を考えてらっしゃるんですね。
最初は何を‥‥?
三谷 最初はね、
「10センチ展」をやろうと思ってるんです。
このお皿、10センチなんですけど。ね?
ほぼ日 あ、これが10センチ!
三谷 かわいいでしょう?
10センチの小皿とか小鉢とか。
何かが10センチっていう展覧会をね、
何人かの作家でやろうと思うんですよ。
10センチ、いろんな四角とか丸があって、
全部寸法が揃ってる。
いいじゃないですか。
ほぼ日 かわいい。それは見てみたい。
きっと揃えたくなりますね。
三谷 そういうことをやろうと思ってるんです。
ほぼ日 クラフトフェアにしても、工芸の五月にしても
こんどの「10センチ」という場所にしても、
三谷さんがやってらっしゃることって、
松本の町への経済効果というか、
人を呼ぶことになっていますよね。
三谷 結果的、ということでは、
そう言えるのかもしれません。
人がたくさん来てくださっていることで、
町おこしになってるのかもしれないんですけども、
それはあくまで結果の問題で、
それはあんまり考えてないというかな。
やっぱり自分たちが楽しいとか、
気持ちがいい、
そうありたいわけじゃないですか。
でも、「町おこし」だと考えると、
そうでないものも全部
受け入れなきゃいけなくなってくる。
僕は工芸でやろうとしてるのに、
工芸に関係がなくても人が来るんだからって、
にわか仕込みで
「町をギャラリーにしよう」とか、
「暖簾をみんなで下げましょう」となってきたら、
それ、うれしいのかな? と思う。
それって違うなっていう感じがあって。
ほぼ日 お祭りをしよう、という発想に
なっていくのかもしれないですね。
三谷 それで目的がわかんなくなっちゃって、
いつの間にかどこでもある町おこしになる。
結局、10年ぐらいで飽きて、
続かなくて終わっちゃう。
いい素材があったのに、
みすみす潰しちゃうことが多いんですよね。
それがもったいないなって思う。
松本だったら工芸っていうのが、
ちゃんと昔から繋がってるわけだから、
それをベースにしてやっていかないと、
ほんとにどこでもある町おこしになっちゃうと思う。
来た人もそれだと楽しめない。
やっぱり遠くから来て、
それなりに見たらおもしろかった、
って思ってほしいわけですよね。
それがいろんなものを受け入れすぎちゃうと、
かえってボヤッと輪郭がなっちゃう。
それで町おこしがあんまり好きではない、
っていうかな。
もちろんクラフトフェアみたいなイベントは、
重要だと思うんですけども、
それをきっかけにして、
やっぱりむしろ特別な日じゃなくて普段の日。
普段の日の松本のほうがやっぱりいいわけじゃない?
住民にとっては特に。
ほぼ日 うんうんうん。
三谷 ね? そこが、やっぱり、
イベントっていうのは人が多いしね、
いろんな企画が多すぎてね、疲れるでしょう。
ほぼ日 おもしろいですけれど、疲れます。
三谷 ね? ああいう疲れ方って、
僕あんまり好きじゃないんですよ。
普段ブラッと、気ままに行って、
でもおもしろい店がいくつかある、
みたいなのが一番いいんですよね。
ほぼ日 東京にいても同じです。
三谷 人ごみを思うとちょっとこう、足がね。
そういう意味で、普段の松本が
楽しめる町だといいなっていうのがあって。
それで、店っていうのはいいと思うんですよ。
ほぼ日 いいですね。
オープンの目標は来年の春ぐらいですか?
三谷 はい。冬はここは冷え切ってるんですよ。
町全体が。
11月超えたらパタッと止まっちゃうからね。
寒い所ではね、やっぱりお店は
春から始めないと、っていう感じがあって。
空間ができてから作家に依頼して、
っていうようなことを思うと、
半年ぐらい時間が必要ですしね。
ほぼ日 「10センチ」の中は
三谷さんがご自身で全部なさるんですか。
三谷 工事は工務店にお願いしますけれど、
店のデザインや、企画については。
あと、店は、ご不便をおかけして申し訳ないけれど、
週2日くらい開けるようなかたちで。
あっ、店番も無理だけど。
ほぼ日 まず設計から。その様子をこれから
「ほぼ日」で少しずつ届けてくださる。
三谷 そうですね。
ほぼ日 遡って、7月から。
三谷 うん、借りたのは7月1日なんで、
そこから始まります。
ほぼ日 そこから始まって、
何かトピックがあったら送っていただいて、
たぶん冬の間はあまり更新がない、
という可能性もあると思いますが、
春が来て完成したら、
その様子をお伝えしようと思います。
「ほぼ日」が「10センチ」の
ウェブ出張所みたいになると
いいなぁと思ってます。
三谷 ありがとうございます。
ほぼ日 よろしくお願いします!

(三谷さんへの取材はこれでおしまいです。
 次回からは三谷さんから届く
 「10センチ日記」がはじまります。
 それが本編です。どうぞお楽しみに!)

2010-09-23-THU
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