三谷 | そもそも、家を作るとき、 「こういうふうなのがいいな」と思っていたものが あったんですね。 でも著名なかたに頼もうとは 思ってはいかなったから、 近くの建築家に頼んでいたんですよ。 ところが、出来上がってきた 図面を見てたりするとね、 「なんか違うな」って。 でも僕は図面なんて読めない。 そうしたら、軽井沢のほうで、 木工をやってる人がいて、 その人が、ある建築事務所を 紹介してくださったんです。 |
ほぼ日 | はいはいはい。 |
三谷 | それで、図面だけ、見てもらうことになりました。 |
ほぼ日 | 「今、こんなふうになっちゃてるんだけど」。 |
三谷 | そう、「これで僕の思ってる家に なってますか?」って。 僕は住みたい家っていうのを箇条書きにして、 とにかく聞いてもらおうと。 簡単な小屋みたいな絵を描いたりして、 持っていったんですよね。 そうして会ったのが中村好文さんで、 図面と見比べて 「ぜんぜん違うよ」って言われた。 そして、ちょうど中村さんが 独立する時期だったから、 「ぼくがやろうか」ってなったんですよ。 それは僕が思ってる、 木造の小屋みたいな家と 彼が作りたい家が、 とても接点があったんでしょうね。 それはすごくいい偶然の出会いでした。 振り返ってもなかなか そういう出会いはないと思うんです。 クラフトフェアがはじまって、 先の見えない不安と 熱い気持ちを持っていた頃、 中村さんをはじめ、 いろんな人と知り合ったわけです。 |
ほぼ日 | 一気に繋がってるんですね。 |
三谷 | 独立したばかりの中村さんもまだ30代。 |
ほぼ日 | なるほど。 そして「菜の花」で最初の個展。 そこから今に至る道は、 順調に、ものも、お客さまも、 だんだん増えてきたっていうふうに 考えていいんですか? |
三谷 | そうですよね。桜のオイル仕上げに 漆器が加わり、神代楡やチークといった 樹種が加わったり、少しずつでしょうね。 ただ器は2000年に入ってから ちょっと変わった感じがします。 |
ほぼ日 | 2000年に入って? |
三谷 | お客さんの質が変わったっていうか、 年齢層が変わったっていうか。 若くなりました。 それまではやっぱり『家庭画報』とか 『ミセス』とか、 そういった雑誌の購読者層。 自分たちと同じ世代かちょっと上のかたが お客さまでした。 それが、2000年に入って── 2002、3年かなぁ? 急に若い人がいらっしゃったんです。 |
ほぼ日 | 何かきっかけはあったんですか。 |
三谷 | ちょうど僕がね、 『住む。』で連載を 始めたころなんです。 雑誌になにか書くって、 こんなに違うのかなって思ったぐらいに 一気に変わったんですよね。 で、それは後で聞くと、 ギャラリー全体がそうだった、 っていうんですよ。 大橋歩さんの『アルネ』が出てきて。 『住む。』が出てきてっていうのは、 全部2002、3年なんだけど、 その頃、ギャラリーも昔の客層から 新しい客層に変わったそうなんです。 作家によってはね、 その変化を受け入れられる作家と、 受け入れられなかった作家がいたように思います。 器屋さん(ギャラリー)も ちょっとそこで分かれていった。 |
ほぼ日 | オーナーの考え方によっては それは嫌だと思うかもしれませんしね。 |
三谷 | だから、変えていこうとしたところは また違う客層になっていった。 |
ほぼ日 | 三谷さんの器を、若い人が買うようになった。 それはつまり、自分よりも年が下で、 生活に対して少し何か よくしたいって気持ちのある人たちですね。 |
三谷 | そうですよね。 |
ほぼ日 | お金を握り締めて。 自分にもおぼえがあります。 |
三谷 | そうそう。 お金はもちろんないんですよね。 だから、本当にスプーン1本、 みたいな感じですよね。 |
ほぼ日 | それでも高いですよね、若い人には? |
三谷 | そう。当時、スプーン1本 1,000円でも高いんですよ。 でも、それでもスプーンだったら買える。 だから、そういう面で、スプーンっていうのは 結構僕にとって大きかったんじゃないかな。 器だとやっぱりまぁ、8,000円、9,000円、 10,000円になっちゃうじゃないですか。 そうすると、なかなか買えない。 でも、スプーン1本だったら買えるし、 そこから始めて、 木のものを身近に持つっていうことに、 スプーンが、すごく大きな仕事をしたと思うな。 |
ほぼ日 | 僕(シェフ)も スプーンを薦められたんです、最初。 「三谷龍二さんを知ってる? いま個展をやっているから、 スプーン1本買いなよ。 使えばよさがわかるから」 って、わりと身近な、 信頼している人に言われたんですよ。 同じような意味で、 大橋歩さんは三谷さんの フォークをとても誉めていらっしゃった。 |
三谷 | うん。 |
ほぼ日 | そんなふうにして若い人が 買うようになったんですね。 ギャラリーも、新しいのが どんどんできましたしね。 |
三谷 | それが、「ギャルリももぐさ」さんとか、 ああいう感じになっていくんですよね。 |
ほぼ日 | 作家の企画展メインで、 それを楽しみに訪れる人が 増えていくっていう。 |
三谷 | 2000年頃から、店が増えたと同時に、 作家も増えたんですよね。 クラフトフェアも、 20回目(2005年)頃から 変わったんですよ。 |
ほぼ日 | 時代の変化に 歩調を合わせるように。 |
三谷 | 本当に毎年毎年100組ぐらいずつ 増えていきました。 今は1,450組ぐらいの応募者です。 それで250ぐらいに絞るんですが。 2003年ごろにはまだね、800ぐらいでした。 その2003年超えてからは、 出品者も30代が増えたんです。 若い作家が増え、 それを扱うギャラリーも増えた。 それはもう繋がってますよね。 |
ほぼ日 | 今、陶芸のほうでは、30代ぐらいの、 学校を出られてすぐに独立されたような方たちが バーッと出てきています。 |
三谷 | で、その内容も、いかにも作品、 っていう感じのものではなく、 やっぱり本当に使いやすいものとか、 生活に馴染むものですよね。 それも大きく変わったことですよね。 |
(つづきます) |