永田 |
第46回を観おわりました! |
糸井 |
お疲れさまでしたー。 |
西本 |
‥‥だから言ったじゃないですか。 |
永田 |
いきなりなんですか。 |
西本 |
先週、ぼくがあんなに
主張したじゃないですか。 |
糸井 |
だから、なんの話ですか。 |
西本 |
古田新太さんですよ。先週の放送で、
錦の御旗とともに薩摩の鼓笛隊が
ピーヒャラ進んできた場面。
「あそこで、小太鼓を叩いていたのは、
古田新太さんじゃないか!」と。 |
糸井 |
ああ、言ってましたね。
ぼくが「違うだろ」と一蹴して。 |
永田 |
発言自体は、ぼくが編集で
ばっさりカットしました。 |
西本 |
ええ。まさに、
「西本ないがしろ」という状態でした。 |
永田 |
ところが。 |
西本 |
読者のみなさんからも
報告があったじゃないですか。
いわんこっちゃない! |
糸井 |
オープニングに古田さんの名前は
出てなかったんですよね? |
西本 |
ええ。 |
永田 |
ていうかさあ、にしもっちゃんさあ、
あのときは、言うには言ったけど、
すぐ引っ込めたじゃん。
「あれ、古田新太さんじゃないですか?」
って言って、
「でも、オープニングに名前なかったよ」
っておれらが言ったら、
「そっすか。そっすね」って。 |
西本 |
空気を読んで引っ込めたんですよ。
そのあたりはぼくの奥ゆかしさですよ。 |
永田 |
ちなみにあれはほんとに
古田新太さんだったんですか? |
西本 |
まちがいありませんよ。
ぼくは古田新太さんのオールナイトニッポン
聞いてたくらいですから。
第1回目にかかった曲はモトリークルーの
『キックスタートマイハート』でしたよ。 |
糸井 |
先週、それくらいの勢いで言えよ。 |
西本 |
空気を読んだんですよ。
そのあたりはぼくの奥ゆかしさですよ。 |
永田 |
おんなじこと言うな。 |
糸井 |
しかしなあ、もしそうだとしたら、
ああいう出かたは、理想的だよな。 |
西本 |
え? |
永田 |
え? |
糸井 |
いや、ほら、出演しつつも、
気づく人しか気づかないで、
オープニングに名前も出ずに、
「あ、たまたま出ることになったんですよ」
みたいなのってさ、
出演のしかたとして理想的じゃない? |
ふたり |
まだそんなこと言ってるのか! |
糸井 |
つまり、物事への関わりかたとして、
そういうのが
いちばんおもしろいじゃないですか。
たとえば第二次世界大戦でさ、
フォン・ブラウン博士がさ、
V6ロケットを打ち上げたってときの
写真があるとするじゃないか。 |
永田 |
いったいなんの話ですか。 |
糸井 |
まあ、聞きなさい。
そういう古ぼけた写真があるとして、だ。
その群衆のなかに
どうも見覚えのあるシルエットがあると。
で、注意深く気づいた人が、
「これ、糸井さんじゃないですか?」と。 |
永田 |
わははははははは。 |
西本 |
「糸井さん、いてはったんですか?」と。 |
糸井 |
そそそそそ。
「えっ、糸井さん、当時、
研究所の人だったんですか?」と。
「いやあ。たまたまいただなんだけどさぁ」
みたいなことを言えたりするのが、
人生、いちばんおもしろいじゃないですか。 |
永田 |
そういうふうに、
オレは歴史とかかわっていきたいと。 |
糸井 |
そのとおりです。 |
西本 |
そういうことを考えながら、この人は、
グランド・ファンク・レールロードの
雨の後楽園球場に立ち会い、
人が2階から落ちてきた
レッド・ツェッペリンの
武道館に立ち会ってきたわけですよ。 |
糸井 |
ま、残念ながらそれらは
記録に残ってはいませんが。 |
永田 |
それでいうと、
T.REXの話がおもしろかったですよ。 |
糸井 |
え、なんだっけ? |
永田 |
糸井さんがT.REXの来日公演にも
行ったことがあるって聞いて、驚いて、
「どうでしたか、T.REXは?!」
って訊いたら、糸井さん、ふつうに、
「意外と空いてた」って。 |
糸井 |
(笑) |
西本 |
そんな感想、ないよなあ(笑)。 |
糸井 |
だって、ほんとに
客席が埋まってなかったんだよ。
あとね、たしかあのとき、武道館が揺れた。 |
永田 |
盛り上がって? |
糸井 |
じゃなくて、ほんとに揺れたの。
たしか、地震があったんだ。 |
西本 |
そんな感想、ないよなあ(笑)。 |
糸井 |
まあ、とにかく、そのような、
さり気なく、何気ない
歴史との関わりかたが理想的であると。
まっ、古田新太さんは俳優だから、
立ち会ったわけじゃなく、
ちゃんと出演していたわけですけどね。 |
西本 |
小太鼓はちゃんと叩いてましたよ。
「練習したんだろうなあ」
って思いましたもん。 |
糸井 |
ってことは、その役はオレには無理だな‥‥。 |
ふたり |
まだ言ってる! |
糸井 |
というか、毎回言ってますけど、
こんな無駄話を続けていていいんですか。 |
永田 |
軌道修正、ありがとうございます。
雑談が主とはいえ、
本編の分量より多くはしたくないものです。 |
西本 |
同感です。 |
糸井 |
で、今回はどうでしたか? |
永田 |
ぼくですか。今回は、
ぼくはとっても好きですね。 |
西本 |
あなたは毎回、好きって
言ってるじゃないですか。 |
糸井 |
そうですよね。
ちょっと好きすぎますよね。 |
永田 |
あれ、そんな2対1あり? |
糸井 |
あなたは過去を捨てすぎますよ。 |
西本 |
『びっくり日本新記録』じゃないんだから。 |
ふたり |
それ、どういう意味? |
西本 |
記録が更新されすぎってことです。 |
永田 |
わかりづらいわ。 |
西本 |
とにかく、あんたは、好きすぎるよ。 |
永田 |
上書き上書きの人生ですよ。 |
糸井 |
なんか、感じ悪いですよね。
新しい女ができたから
この女はいらないみたいな。 |
西本 |
いえてます、いえてます。 |
永田 |
いわれのない誹謗中傷とはこのことです。
「好きです」というだけで
ここまで言われるとは思わなかった。 |
糸井 |
なんかさ、グラビアアイドルの
乗り換えみたいな感じだよね。 |
西本 |
完全にグラビアアイドルの乗り換えですね。
永田さんにかかっちゃあ、
もう、小池栄子とかは見る影もないですよ。 |
糸井 |
MEGUMIもうかうかできないですよ。 |
永田 |
なんでグラビアアイドルの
話になってるんですか。 |
糸井 |
あなたもたまには
グラビアアイドルの話とか
したほうがいいですよ。 |
西本 |
じゃあ、もう、今日はいっそ、
3人でグラビアアイドルの話をしましょうか。 |
ふたり |
それはない。 |
西本 |
お、2対1、逆転。 |
永田 |
で、糸井さんは今回、どうだったんですか。 |
糸井 |
ぼくはねえ、今回は、なんか、
頭が痛かったですよ。 |
西本 |
風邪ですか。 |
永田 |
風邪ですか。 |
糸井 |
そうじゃなくてさ。
こう、敗走する新選組が、
どうすればよかったんだろうと考えると、
もう、零細企業を経営しているように、
頭が痛くなってくるわけなんですよ。 |
永田 |
新選組の行く末を案じて
頭が痛くなってくると。 |
糸井 |
うん。今回も、近藤や、佐々木サマや、
カマショーや勝海舟が
いろんなことを言ってますよね。
で、どっからこの負け戦の下り坂が
はじまったんだろう、
どうすればよかったんだろうって
考えていると、もう、頭が痛い。 |
永田 |
糸井さん、それ、
スタジオパークで堺さんが言ってたことと
いっしょじゃないですか。 |
糸井 |
え? |
永田 |
この企画の、そもそもの発端ですよ。
糸井さんがある日スタジオパークを観たら、
堺さんが出ていて、
「その若い役者が、役を超えて、
『新選組はどうしたらよかったんだろう、
どうやったら負けずに済んだんだろう』
って言ってて、感動したんだ」
って言ってたじゃないですか。 |
糸井 |
ああ! そうだ! |
西本 |
そうでしたそうでした。
それでぼくらも『新選組!』に
つき合うことにしたんですよ。 |
永田 |
あのときは、ぼくらに
「演じてる人がそんなふうに感じるドラマ、
ちょっと観たくないか?」
って言ってたんですよね。 |
西本 |
それがとうとう、演者の域に。 |
糸井 |
というか、新選組のほうに完全に
気持ちが入っちゃってるってことですね。
いやー、まいったな。そうかー。 |
永田 |
でも、観てる人には、
多かれ少なかれその気持ちがありますよね。 |
西本 |
史実は動かないのに。 |
糸井 |
動かないんだけどねえ。
でも、そういうふうに観ると、
鳥羽伏見の戦いにしても、
歴史上の記号のようには
とらえられないですよね。 |
永田 |
ある種、スポーツのあとに、
試合を振り返るような肉体性が。 |
糸井 |
出てきちゃうんだよ。
たとえばね、鳥羽伏見で思ったのは、
多くの人は、この戦を、
リアリティーのあるものとしてとらえることが
できなかったんだろうなっていうこと。 |
永田 |
というと? |
糸井 |
当ったり前の話なんだけど、
この時代って、とんでもなく
情報量が少ないわけですよ。
テレビ中継もないんですよ。
だから戦争で「ドンドン! ワーッ!」って
やっている真っ最中でも、多くの人は、
農業にいそしんでたりしたわけだよ。
「モ〜〜〜(牛のマネ)」とか、
「コッコッコッ、コケー!(鶏のマネ)」
みたいな毎日を送っていたわけだよ。 |
永田 |
「えさでもやっかな〜」みたいな。 |
西本 |
「午後から雨んなるなー」みたいな。 |
糸井 |
「なんでも戦らしいねえ〜」 |
永田 |
「山の向こうに煙が見えたらしいよ〜」 |
西本 |
「こっちにきたらかなわないから
刈り入れをしといたほうがいいかな〜」 |
糸井 |
「なんでも長州とかがおかしな服を着て、
戦ってるみたいだよー」 |
西本 |
「とんがり帽子だったよー」 |
永田 |
いつまで続けるんですか、これ。 |
糸井 |
まあ、そういうようなことじゃないですか。
それは、戦っている人にとっても
同じことがいえるんですよ。
まるっきり情報のないなかで、
あの戦は行われててるんですよ。
だから、以前にぼくが注目したことですけど、
捨助が、見廻組に取り入るときに、
「オレはみんなの顔を知ってるぜ」
と言ってましたよね。
「坂本龍馬の顔を知ってるぜ!」と。 |
永田 |
あれはスキルなんですね。
あの時代では、はっきりと、武器。 |
糸井 |
もう、すごいですよね。
テレビがなくて、すべては
いわば人づての情報ということじゃないですか。
その時代の戦略ってどうたてるのよ。 |
西本 |
メディアがないということですね。 |
永田 |
ああ、それで腑に落ちるのは、
錦の御旗ってメディアなんですね。
あれをメディアとして使ったわけですね。 |
糸井 |
そうなんです! |
永田 |
たとえばあの時代にニュースがあって、
「あの御旗はインチキらしいよ」
ということがみんなに広まったら
ぜんぜん意味がなかったわけで。 |
糸井 |
「あれって、岩倉卿が部屋に飾ろうとして
つくらせたものらしいよ」ってなことが、
幕末アサヒ芸能とかに書かれてたりしたら、
戦略なんてすぐ変わっちゃうわけです。
その横で「意外と巨乳だったお菊さん」
みたいな記事があったりしてね。 |
西本 |
「永倉、移籍か? 新選組再編問題」とか。 |
永田 |
「病床の沖田を撮った!」とか。 |
糸井 |
「意外と巨乳だったお考さん」とか。 |
ふたり |
ずるいわ、それ(笑)。 |
糸井 |
ともかくね、そういう、
幕末週刊誌も中吊りもないなかで
あの人たちは戦争をやってるんですよ。
いわば、ぺらぺらの平面でしか
とらえられない時代の戦争ですからね、
そんなときに勝てるように
現場を指揮できる人っていうのは、
もう、サッカー選手ですよ。 |
永田 |
ファンタジスタだ。 |
糸井 |
ファンタジスタ、ファンタジスタ。
だってさあ、
自分の目の範囲以外で見えることって
ほとんどないわけじゃないですか。
あるとしたら、地形をつかむとか、
軍勢の情報を聞くくらいでしょう?
わけても、この時代は
武器が革新的に新しくなっているし、
三百年大きな戦はないわけですから、
想像すらうまくできないと思うんですよ。
まえにも言いましたが、近藤だって
ほんとの戦争はしたことがないんですから。
それで、大阪城から判断はできないですよ。
やっぱり、徳川慶喜が
慌てふためくのも当たり前ですよね。 |
永田 |
勝海舟はどうですか。 |
糸井 |
勝海舟は、結果的に
近藤と同じことを言ってましたよね。
「錦の御旗を奪い返す」という案を。
けど、勝海舟が近藤と明らかに違うのは、
海軍の力を知っているということですよ。
勝海舟が唯一、海軍のことを
計算に入れることができたわけで、
その意味では、近藤と同じことを言っていても
根拠の強さがまったく違いますよね。 |
西本 |
はっはぁ、なるほど。
近藤はどっちかというと、
信じてるだけですもんね。
「勝てるか?」と訊かれて、
「勝たねばなりません」
としか言えなかったし。 |
糸井 |
あれじゃ慶喜は説得できないんです。
勝海舟の判断にしたって、
絶対じゃないですから。
海軍をつかって挟み撃ちにするといっても、
そうやったときに薩摩が
どっちに逃げていくか、なんてことは
わかりようがないですから。
だから誰も知らないんですよ。この戦。
けっきょくのところ、局地戦で勝って、
京都御所のあたりを
薩摩が押えたということでしょ。
西郷どんもほんとは不安で
しょうがないでしょうね。 |
永田 |
だからこそ、慶喜が逃げたというのが、
旧幕府軍にとってはデカイんでしょうね。
信じて戦っていくしかないのに、
信じる先がなくなっちゃうわけだから。 |
糸井 |
そうですね。
薩摩にとっていちばん怖いのは、
江戸から援軍があるかもしれない
というウワサがあるなかで、
地元の大名たちが
「御旗を怖がって薩摩に加勢したら、
あとで慶喜にひどい目に
遭わせられるかもしれない」
と思うことだろうからね。 |
西本 |
佐々木サマが最後に言っていたのも、
「江戸から加勢がくる」ということでしたし。 |
糸井 |
うん。だからね、あそこで
佐々木サマが言ったように、
大阪城でひと月がんばってたらとかね、
考え出すと、頭痛いんですよー。 |
西本 |
それは頭痛いわ。 |
糸井 |
こういうドラマの観かたを
したいわけじゃないんだけどね。
どうしても考えちゃうんだ。
ま、そういう回でしたよ、ぼくにとって。 |
永田 |
佐々木サマといえば、
ずいぶん早い時間に亡くなりましたね。 |
西本 |
ハタノアトでしたよ。 |
永田 |
どうでもいい話ですけどね、
うちのレコーダーは、
時計が少し遅れてるんです。
ほんの数秒なんですけどね。
だからいつも、最初の旗が出る場面は
録画できてないんですよ。
で、日曜の夜に、観ようと思って再生したら、
いきなり佐々木サマが
「ダダダダッ!」と撃たれてて。
観た瞬間に、
「うわっ、録画失敗した!」
と思いました。 |
西本 |
あ、野球延長かなんかで(笑)。 |
永田 |
そうそう。最後の場面だけ
録画しちゃったんだ、って。 |
西本 |
野球、やってないから。 |
永田 |
慌てましたわ。 |
糸井 |
にしもっちゃんはどうでしたか? |
西本 |
ぼくにとっては、今回はもう、土方です。
こういっちゃなんですけど、
ぼくのなかでは新選組はもう、
終わっちゃってる組織なんですよ。
だから、いっそ、鳥羽伏見から始まる
『土方物語』を観てみたいと
思うくらいなんですよ。 |
糸井 |
観たいねー。 |
永田 |
この回あたりがが序章なんだ。 |
西本 |
ええ。榎本と出会ったシーンが
イントロになって、つぎの場面では
榎本に教えてもらって店で
洋服の採寸をしているような『土方物語』。 |
永田 |
『土方歳三!』だ。 |
西本 |
そうそう。そのくらい、土方を観てました。 |
糸井 |
今回はまた、土方の本質というか、
「歳ちゃん」ぶりがよかったね。
目的が薄れているから、やんちゃでね。 |
西本 |
土方ファンとしてはたのしめました。 |
糸井 |
あの、モノマネはどうなんですか。 |
西本 |
似てたのか、ということですか。 |
糸井 |
ま、なんでもいいんですけど。 |
永田 |
あそこ、じつは、
たいへんなのは沖田ですよね。 |
糸井 |
どういうことですか。 |
永田 |
モノマネをやるよりも、
目の前でモノマネをやられたほうが
たいへんだということですよ。 |
西本 |
あ、わかりますわ。 |
糸井 |
え、どういうことですか。 |
永田 |
ダジャレを言う人よりも
目の前でダジャレを言われたほうの
身になれ! ということですよ。 |
西本 |
痛いほどわかります。 |
糸井 |
‥‥‥‥。 |
永田 |
つまり、土方の熱演にも拍手ですけど、
「笑わせないでくださいよ、
咳がとまらなくなる」があって、
はじめて観る者は落ち着くわけですから。 |
糸井 |
「沖田が起きた」。 |
永田 |
だ・か・ら! |
糸井 |
言うほうも言うほうで
けっこうたいへんなんだぞ! |
永田 |
そんな逆ギレがありますか! |
西本 |
まあまあ。 |
糸井 |
ま、土方の話に戻りますけどね。 |
永田 |
はいはい。 |
糸井 |
あの状況で京都に残ると
本気で言ってるあたりが土方の
無鉄砲なところですよね。
旗印があるときはめっぽう強いんだけど、
なくなった瞬間にああなってしまう。
「新選組をつくったのはあんただ」
という斎藤の泣かせるセリフがありましたが、
つくった土方がああいう男だということは
新選組という組織がとんでもなく
もろいということがわかりますよね。 |
永田 |
そのもろさというのは、
やっぱり新選組の根本を支えていたのは、
「剣が強い」ということ
だったんだなと思いました。
ひいては、鉄砲が広まるまでっていうのは、
「剣が強い」ということは
ものすごいパワーだったわけですね。 |
糸井 |
そうですね。その話でいうと、
にしもっちゃんが先週、
「刀の時代は終わりましたね」
と言いましたよね。 |
西本 |
はい。 |
糸井 |
あれを聞いて、じつはぼくは、
「あれ? またその話してるわ」
と思ったんです。
つまり、ぼくのなかでは、
とっくに刀の時代は終わっていたんだけど、
にしもっちゃんが腑に落ちたのは、
先週だったわけ。
で、今週、あらためて土方が
「刀と槍の時代は終わった」
って言ってるでしょ。
なんていうかな、
「刀の時代が終わった」と思うタイミングって
何段階かあると思うんですよ。
で、にしもっちゃんが言った時期というのが
いちばん現実的なんだろうなと思ったわけ。 |
永田 |
たしか、最初に糸井さんが
「刀の時代が終わった」って言ったのは、
寺田屋から龍馬が鉄砲撃ちながら
逃げるところですよ。 |
糸井 |
そうそう。それはまちがってないとは思うけど、
あの時点で、現場でそう言っても、
まったく効力はなかったと思うんだよ。
そう感じたことよりも、
鳥羽伏見で現実として鉄砲と直面して、
「あ、離れたところから撃たれたらかなわん」
と土方は感じて、ようやく現場の感覚として
「刀の時代は終わった」って思うわけだよね。 |
永田 |
あれ以前にも土方は
外国の兵法とか、大砲の訓練とかを
取り入れていたけれども。 |
糸井 |
現実的に「刀の時代が終わった」とは
思ってなかったということなんだよ。
で、ね、なんでこんなややこしいことを
言っているかというと、
うちの会社での役回りを考えたら、
おもしろいなあと思ったわけ。 |
西本 |
ああ、ああ。 |
糸井 |
実際、うちの会社では西本が
外との交渉ごとなんかをやってるわけで、
そこでの役割でいうと、
先週のタイミングで腑に落ちて
判断するという動きかたをしてくれると、
いちばんうまくいくわけ。 |
永田 |
なるほど(笑)。 |
糸井 |
オレのタイミングで現場が動くと
「そうなんですかね。へえ〜」って言われて
終わっちゃうんですよ。 |
西本 |
「おもしろい話、聞いたな」くらいで。 |
糸井 |
うん。だから、変な結論だけど、
うちの会社はおもしろいなと思った(笑)。 |
西本 |
なるほど。 |
永田 |
伝わりづらい話かもしれませんが。 |
糸井 |
申しわけありません。
でも、まあ、組織にいる人は、
ちょっと、共感できるんじゃないかな。 |
西本 |
ある意味、『新選組!』に見る組織論。 |
糸井 |
そんなようなことまで考えちゃってね、
もう、頭が疲れて疲れて。 |
西本 |
そりゃ、考えすぎですよ。 |
糸井 |
大きな流れのなかで、
隊の羽振りも悪くなっていくと、
死人がどんどん小さく扱われていくしね。 |
西本 |
山崎。 |
糸井 |
あの人が死ぬのは悲しいねえ。
最後の最後に
「人からの頼みを断る」っていうのも、
いいドラマだよねえ。 |
永田 |
山崎って有能な専門職でしたから、
そこのこだわりを描きつつ
舞台を去らせたっていうのが
うまいなあと思いました。
「顔をやられてしまった」っていうことと、
「見知らぬ土地へ行く」っていうことで、
監察方としての不安を本人が抱いて。 |
糸井 |
ああ、「生きる張り」が失われていったんだね。
そうじゃなければ
もっとがんばったかもしれないけど‥‥。
なんだかもう、今回は
いろんなことがあったんだよね。 |
西本 |
「道の回」スペシャルでしたね。 |
糸井 |
そりゃ頭も痛くなりますよ。
いろんなことが慌ただしくて。
だから、今回の話をひと言でいうと、
年末を感じる! 歳末を感じる! |
永田 |
「歳末」(笑)。 |
西本 |
たしかに今回は生き残っている関係者に
ひと通りスポットをあてるような回でした。 |
永田 |
そこでようやく、ぼくの「好きな理由」を
話すことができるんですけど、
今回のお話をぼくが好きなのは、
その「慌ただしい歳末」を
すっごく丹念につむいでいる
というところなんですよ。 |
糸井 |
それはすごくよくわかりますよ。
永田くんはそういう、
「事務系のやりくり」みたいなところが
うまくいっているのって
ものすごく好きですよね。 |
永田 |
大好きです。だから、
糸井さんの話を聞いて思ったんですけど、
ぼくはたぶん、歴史には興味がないんですね。
それよりも、このドラマが残り数回で、
どういう放物線を描いて
どう着地するのかというところに
すごくわくわくしているんです。
だから、今回の、人物ひとりひとりに
きっちりと落とし前をつけて
挨拶していくようなところがうれしいんです。 |
西本 |
きっちりできてるわ、っていうところですね。
八木家の人々とかね。 |
永田 |
そう。八木家の人たちが出てこないまま
新選組が江戸に行ったって、
お話は成立するんですよ。
逆に、八木家や寺侍やお登勢を
限られた時間のなかで
わざわざ出してくるのって、
もう、とんでもなく
めんどくさいはずなんですよ。
それをきちんとやってくれることが、なんか、
「おお、裏地まできっちり縫ってあるなあ」
みたいな感じがして好きなんです。 |
西本 |
さすが、試着王ですね。 |
糸井 |
この人は試着しないと
服を買わないそうですからね。 |
永田 |
試着せずに買う、
ふたりのほうが信じられないですよ。 |
西本 |
きっと、鏡から遠く離れて
見たりするんですよ。 |
糸井 |
横を向いてみたりね。
店の外から見るとどうかなとか言って
表に出てみたりね。 |
永田 |
それじゃ万引きじゃないですか。 |
西本 |
洋服屋もたまったもんじゃないですよ。 |
糸井 |
困った客ですね。 |
永田 |
無視して話を続けますけど、
そういうめんどうな構成にしてるのに、
テンポが落ちてないんです。
いろんな人を出しながらも停滞しない。
山崎が斬られたあとの
テンポの上がりかたとか、
すごいなあと思いましたよ。
「オレが寺田屋に口きいてやる」
って捨助が言って、その直後はもう、
斎藤がふすまの向こうで身構えてて
お登勢が「おひきとりやす!」って言ってる。
寺田屋への移動とか、
お登勢とのやり取りとか、
薩摩が踏み込んできたところとか、
そういうのをすっ飛ばして、
「おひきとりやす!」ですから。 |
糸井 |
なるほど。あなたらしい着目点だね(笑)。 |
西本 |
八木家ファンの永田さんとしては、
例のふたりの復活もうれしいところでしょ。
あの別れの場面は、どうですか。 |
永田 |
必要以上に、涙ぐんだりとか、
抱擁があったりとかの
別れじゃなくてよかったですね。
もう完全に終わっているというか、
「それどころじゃないんだ」ということを
ふたりが理解してる感じがして。 |
西本 |
あの男装はどうですか? |
永田 |
終わりは、始まりに戻るという演出で、
きれいだったんじゃないですかね。
お登勢も登場のときと同じセリフでしたし。 |
糸井 |
玄関から入って、玄関から出るということだね。 |
永田 |
はい。 |
西本 |
‥‥やりすぎじゃないですか? 男装は。 |
糸井 |
(笑) |
永田 |
それが言いたかったんだな(笑)。 |
西本 |
意地悪言うわけじゃないですが、
‥‥なんで男装なの? |
永田 |
ま、基本は「玄関理論」ですが、
あえて意味を汲み取るとしたら、
町娘が往来で、一般の人に嫌われてる
新選組に対して「おおきに!」とは
言いにくいじゃないですか。 |
糸井 |
あ、変装の意味もあると。 |
永田 |
あと、あれは大阪ですからね。
京都から大阪まで行ったということですよ。
あの治安の悪い時期に。 |
西本 |
一人で行くのはあぶないと。 |
永田 |
じゃないですかね。
あとは、沖田の「‥‥古い友人だ」という
セリフにつながるという面もありますし。 |
西本 |
わかりました!
見事なファンっぷりです。 |
永田 |
恐れ入ります。 |
糸井 |
カマショー好きのぼくとしては、
勝海舟とカマショーのデカイ声の出し合いが
今回のハイライトのひとつですね。
両方、小さい人なのに、迫力があったね。 |
西本 |
あそこはよかったですねえ。 |
永田 |
勝海舟の、
「ふだん怒鳴らない人が高ぶって叫んで
声がひっくり返っちゃう感じ」というのが
説得力ありましたよね。
あ、ほんとに怒っているんだなって思った。 |
西本 |
ぼくはいままで
本は読んだことがありましたけど
恥ずかしながら、野田秀樹さんが
演技しているのを観たのははじめてなんです。 |
永田 |
ぼくもそうです。 |
西本 |
すごいですねえ、野田秀樹さん。
小さい声も、ぜんぶ通るんですね。 |
永田 |
ふにゃふにゃ嫌みを言うあたりも、
リアリティーありつつユーモラスで。
あと、あそこはカマショーもよかったですね。
「どうすればよかったのじゃ!」って。 |
糸井 |
カマショーは、
人の頂点に立ちつづけて来た人特有の、
「生き延びることへの本能的な執着」が、
あの人の感じのなかに出てて、いいんだよね。 |
西本 |
徳川慶喜って、
典型的な「わからずや」として
ドラマのなかに存在してますよね。
でも、部下目線で観ると、
あの人は動かしやすい人なんですよ。 |
糸井 |
えっ、そうなんですか! |
永田 |
徳川慶喜は動かしやすいと! |
西本 |
はい。ああいう人、けっこう得意です。 |
糸井 |
たのもしい。 |
永田 |
かっこいい。 |
西本 |
ああいう人に
正論をぶつけちゃだめなんですよ。
あなたの持ち味を最大限に活かすには、
というスタンスから
「いっそこうしたらいい」
という乱暴な意見を言うと
「おいおい、待て待て」と言ってきて、
ちょうどいいくらいに収まりますよ。
選択肢の幅を相手に
持たせてあげることが大事なんです。 |
糸井 |
徳川慶喜を意のままにあやつる男。 |
永田 |
ぼくはとてもダメだなー。 |
西本 |
それは正論をぶつけるからですよ。 |
永田 |
うん。正論ぶつけて帰っちゃうね。 |
糸井 |
ぼくも帰っちゃいますね。 |
西本 |
ぼくは、帰らずにそばにいて、
なんなら、ひと月くらい、
あの人を大阪城にいさせますよ。 |
永田 |
たのもしい! 歴史を変える男! |
糸井 |
そうなると、徳川は勝ってたのかねえ。 |
西本 |
そればっかりは、わかんないですよね。 |
糸井 |
ああ、もう。こういうことを
考えはじめるから‥‥。 |
永田 |
頭が痛くなるんですよ。 |
糸井 |
わかってるんだけどね。
考えない? そういうこと。 |
永田 |
新選組の行く末ですか?
考えなくはないですけど、
糸井さんのレベルでは考えたことないですね。
というか、糸井さんはどんどん、
歴史のほうに行ってますね。
ぼくはやっぱりドラマを観てるんだな。
極端にいうと、新選組じゃなくても
いいのかもしれない。 |
糸井 |
それは、ある意味、
うらやましい観かたですね。 |
西本 |
ぼくもどちらかというと、
永田さんに近いけど、
土方については糸井さん寄りの観かたですね。 |
糸井 |
なるほどね。 |
永田 |
ぼくが行く末を案じる気持ちになったのは、
唯一、あそこですね。近藤が家に帰ったとき。
二人がしみじみ抱き合っているようなところで
たまこちゃんが周斎の位牌に
「チーン」とやっている場面。
「ああ、この生活は続かないんだな」
と思うと、つらいかったですね。 |
糸井 |
あそこね。思うよね。
関係ないけど、あの「チーン」だけどさ、
近藤が叩いたときは、残響音が
ものすごく長く残ってたんですよ。
「こりゃ、いいお鈴(りん)ですね」
とほめたくなるくらい。
近藤家の仏壇にあれがまだあるなら
一度叩いてみたいものだなと思ったくらい
いい鈴(りん)でしたよ。
でも、たまこちゃんが叩いたら、
ちっとも響いてませんでしたけどね。
親父の叩いたお鈴は
いつまでも鳴る、
ほんとにいい「チーン」だったね。 |
永田 |
なんなんですか。 |
西本 |
あ、おふたりは野際陽子さんのシーンは
泣かなかったんですか?
「お勤めご苦労さま」というシーンは。 |
糸井 |
ぼくは頭が痛かったので、
さほどでもなかったですね。 |
永田 |
ぼくは正直、グッときました!
今回、じつはぼくは3カ所ほど、
グッときてます! |
糸井 |
当てましょう!
まずひとつ目は、
松平容保公の弟がかわいそうすぎて
泣きそうになった! |
永田 |
違う! |
西本 |
沖田総司が西麻布生まれだと聞いて、
びっくりして泣きそうになった! |
永田 |
違う! |
西本 |
あそこ、多くの視聴者の頭のなかに
とんねるずの『雨の西麻布』が
流れたと思うんですけどね。 |
永田 |
古い! |
糸井 |
クサナギくんがワインをラッパ飲みしてて
泣きそうになった! |
永田 |
違う! |
西本 |
わかった! 星セントさんが
けっこう痩せていて、泣きそうになった! |
永田 |
もうええわ。
まず、「新選組はあんたがつくったんだ」
という斎藤のセリフ。
あと、「帰る!」と言ったときの捨助の顔。
それから、母上に「お勤めご苦労様」
と言われたあと、近藤の顔が、
それまでずっと「局長の顔」だったのが、
「多摩の顔」に一瞬崩れるところ。
以上の3点が、
今回の「永田グッときたポイント」です! |
糸井 |
じつに平凡だな。 |
西本 |
ひとつくらい、変わったのを
混ぜておいてほしかったですね。 |
永田 |
そんなわけにいくか。 |
糸井 |
今週はまあ、そんなところですかね。 |
西本 |
待った! DVDの話をしておきましょう。
「ほぼ日でほんとに売るんですか」という
メールが山ほど来てますよ。 |
永田 |
ほんとに売るんですか? |
西本 |
ほんとに売るつもりです!
『新選組!』DVDセットに
ほぼ日ならではの特典をつけた形で
販売することを本格的に検討してます!
その宣言だけをしておきましょう。 |
糸井 |
それがないと、
ほぼ日で売る意味がないですからね。
ほかとはひと味もふた味も違う
売り方にしたいですね。
やっぱりね、このDVDにはね、
どれほど画期的に売れたのかということに
加担したいですよね。
ぼくらがこれほどたのしんでいる
『新選組!』が、「視聴率が悪い」とか、
「若い」とか言われたままの状況で
埋もれてしまうというのは
ろくでもないことだと思いますよ。
冗談じゃないですよ。 |
永田 |
なるほど。 |
糸井 |
もちろん、『新選組!』を好きな人って、
全国にたくさんいると思いますよ。
このページも大勢に読まれてるし、
メールもたくさん来てるしね。
でもね、それってあくまで
「熱いファンがいる」というだけで、
ニュースとして伝わってませんからね。
だから、もう2年もすれば、
この『新選組!』という大河ドラマは、
はじまったころにメディアに流れた
「視聴率が低い」「若い」「アイドル主演」
っていうような、上っ面の記号だけで
語られちゃうようになるんですよ。
とんでもないことですよ。
だから、「『新選組!』DVDで大爆発!」
くらいの現象になってもらわなきゃ。 |
永田 |
そんで、観てなかった人が、
「なんだ、あれはやっぱ
おもしろかったのか」と。 |
糸井 |
そうですよ。認識を新たにしてもらわなきゃ。 |
西本 |
詳細は、決まりしだい、お伝えいたします! |