糸井 |
ぼく、年始の企画で、
お墓参りにいこうと思ってるんですよ。 |
タモリ |
あ、お正月にお墓参り。
それはあんまりない風習ですね。 |
糸井 |
先祖のお墓に重役連中を集めて詣でる会社も、
あるらしいんですけどね。
なんか、東京都内にもずいぶんいいお墓が、
誰々さんのお墓とかがあるんで、
ぼくの場合は、せっかく正月だから、
「冥土への一里塚」ってことで、
有名人のお墓を訪ねる
正月をやってみようかなと思っているんです。 |
タモリ |
それ、数限りなくありますね。
歴史上の人物だったら、
遡って、平安とかでもいいんですか? |
糸井 |
行けるとこなら行ってやろうと思ってるんです。 |
タモリ |
ぼくは「TOKYO坂道美学会」っていうのを
『TOKYO1週間』に連載してるんですけども、
あちこちの坂を見てると、近くに墓ってありますね。
「この人の墓がこんなとこにあるのか」
とか、思いますねぇ。 |
糸井 |
なんか墓って、家ほどみんなに見られてないけど、
「その人」が入ってるんですよね。
ぼくは、青山墓地を散歩してるんですけど、
一角に外人墓地があるんです。 |
タモリ |
へぇー。 |
糸井 |
いろんな形してるんです。
結局日本人がトンカチトンカチ作った形なんで、
日本の中に馴染む外人墓地なんですけどね。
カタカナでね、何とかさんがここに眠る的に
書いてあるんだけど、
「その立派なお墓を作ってもらえるほどの
扱いを受けながら、
生まれた国じゃないところで死んでった外人って、
誰、おまえら?」って思うんですよ。
つまりタモリさんが、
アメリカにお墓があるっていったら、
たいへんじゃないですか。 |
タモリ |
うんうん。 |
糸井 |
そこでちゃんと丁重に大きいお墓が作られた。
それね、考えるだけでこう、
ゾワゾワっとするんですよ。 |
タモリ |
赤坂の三分坂(さんぶざか)って横に、
江戸時代のあの巨大な、誰だっけな? |
糸井 |
雷電為右衛門?
(江戸時代の力士) |
タモリ |
うん。雷電。雷電為右衛門の墓があるんですよ。 |
糸井 |
はぁー。 |
タモリ |
意外なところに、意外にありますね。 |
糸井 |
生きてるときだったら、
なかなか会えないような人に、
お墓だったら会えますからね。 |
タモリ |
ええ。 |
糸井 |
あの、ぼくの事務所の近所に
荻生徂徠の墓っていうのがあって。
そのお寺はですね、
わざわざ入り口のところに荻生徂徠の墓って
こう、なんていうの、
客引きのように出してるんですよ。 |
タモリ |
(笑) |
糸井 |
そんなにいわれちゃ、と思って
奥に入って探したんですけど、
どれだかわかんない。
荻生一派のお墓がズラーッとあるんですけど、
どれが徂徠かわからないんですよ。
意外にこう、うまく機能できてないですね。 |
タモリ |
あー。 |
糸井 |
墓って、ちょっと見たいじゃないですか、
こう、夏目漱石ぐらいの近年の人から。
だから正月に、ハッキリしてるものを
見とこうかなーと思ってるんですけどね。
まあ、雷電為右衛門とは、
あんまり縁がないんですけど(笑)。 |
タモリ |
雷電って、墓の近くを通って
初めて知ったんですけど、
あの人って、相撲は生涯で、
256勝10敗かなんかなんですよね。 |
糸井 |
(笑) |
タモリ |
信じられます? それ(笑)。 |
糸井 |
巨人症だったんでしょうね。
(197センチ、168キロだった) |
タモリ |
巨人症だったんですね。
幕府の反感買って、惨めな生涯だったらしいですからね。 |
糸井 |
雷電っていう、確かすっごく
おもしろい小説があるんですよ。
飯島和一さんの『雷電本紀』って言って。 |
タモリ |
不遇の人生を送って? |
糸井 |
らしいですね。
すごいおもしろい人だったみたいですね。 |
タモリ |
ええ。
派手な寄付をして、
それで、幕府の反感かなんかかった、
おもしろい人生だったですよ。
でも、考えてみると、年に一場所とか、
そんな時代でしょう。
なんとかの勧進相撲が、
深川のなんとか寺で行われた、そのときの記録とか。
ってことは、二百何勝っていうのは、
ものすごい間、何年間も戦ってるわけですよね。 |
糸井 |
あれ、短命な人なんじゃなかったでしたっけ? |
タモリ |
あの人、まあまあ生きてたらしいよ。 |
糸井 |
まあまあ生きてた(笑)。 |
タモリ |
ええ。それで、十何年戦ってないと、
当時、二百何十勝なんて、あり得ないですよ。 |
糸井 |
なんないですね。うん。 |
タモリ |
それで数敗ですからねぇ。 |
糸井 |
確か、大関のままですよね。
横綱じゃないんですよね。 |
タモリ |
横綱じゃないんですよ……。 |
糸井 |
たぶん、すっごく面白いですよ、雷電って。 |
タモリ |
墓の近くを通ったら、
略歴が書いてあって、まあ不遇で終わってんですよ。 |
糸井 |
だいたい歌舞伎に出てくる相撲取りなんて、
やくざの用心棒ばっかりですからね。
火消しと相撲取りは。 |
タモリ |
自分のところの、
土佐犬飼ってるみたいな感じで、
スポンサーがやってますからね。 |
糸井 |
そうですね、花魁にこう、
惚れられたなんていうのと
同じようなレベルなんでしょうね。 |
タモリ |
ええ。べつに相撲がなくてもいいんです。
ウチにこんなでかいのいるぞ、
っていうような(笑)。 |
糸井 |
前に橋本治が言ってたけど、昔の戦争で、
どこかから連れてきた人を前に引き立てて、
「こんな怖いのがいるぞ」って
やりながら戦争してた時代があったっていう。 |
タモリ |
それと同じですよね。 |
糸井 |
そうとう近い。 |
タモリ |
(笑)気の毒ですよ……。 |
|
(つづきます。) |