タモリ先生の午後。
こんな職員室があればいい。
前々から、タモリさんという人は
先生として最高なんじゃないかと思っていた。
生徒をあせらせない。
最低限の知恵と道具だけを与えるけれど、
そのまま気づかれなくても、気にもせずに笑ってる。
そのくせ、こども以上に好奇心が強くて、
なまけもので、みょうに小まめで、ちょとスケベ。
そういう先生に、タモリさんはなれそうだ。

そういう先生のいる職員室で、
出がらしのお茶でも飲みながら、むだ話をしてみる。
そんな感じの対談ができました。

6月にタモリさんにお会いして鼎談をしたとき、
主題からこぼれていったオマケのような雑談から、
「偽善のススメ」とでも言うべき話をすくいとって、
こちらのコーナーで、数回ぶん、おすそわけします。


タモリ 最近、
「人間関係をうまくやるには、
 偽善以外にはないんじゃないか」
って思ってるんです。
糸井 村上春樹さんが、かつてエッセイで、
「僕は親切のことならよくわかる。
 愛は消えても親切は残る、
 と言ったのはカート・ヴォネガットだっけ」
と書いていたのと似た意味のことですか?

(※ほぼ日註:この発言は、村上春樹さんの
  『雨天炎天』(新潮文庫)に載っています)
タモリ あぁ、そうかも。
糸井 確かに
「ネクタイ締めてればオッケー」
みたいなところは、
タモリさん、じょうずですよね。
これほどネクタイを
じょうずに使っているタレントはいない。
タモリ そこらへんは、偽善がうまい。
糸井 様式は、やっぱり、人を助けますねぇ。
タモリ すべてが、様式ですから……。
糸井 つまり、偽善って、
形式的な「いい関係」ですよね。

銀行員のお姉さんの制服姿って、
ぼくらはもう大好きなんですけど、
こちらに向けて
「笑ってくれる」じゃないですか。
タモリ はい。
糸井 で、着替えて私服になると、
「こんな人だったのか!」と思うんですよ。
タモリ あれも、偽善なんです。
糸井 偽善ですよね?
タモリ 偽善って、徹底的にやると、
これまた、別のたのしみがあるんです。
糸井 ぜんぶが偽善だったら、
もう「いい人」ですもんね(笑)。
タモリ ええ。俺、最近、
「偽善のススメ」って言って、
ぜんぶのスタッフに伝えていて。
糸井 「もっと偽善しよう」と。
タモリ うん。
「偽善は善意」とさえ言ってるんですよ。
糸井 (笑)
タモリ 食べるマナーっていうのが
あるじゃないですか。
あれも、偽善の徹底した方法でしょう?
糸井 「今まで
 こうやってたほうが
 うまくいった」
ってことのエキスですよね。
タモリ そう、エキス。

食べるマナーを守ることで、人は、
徹底的に偽善を楽しんでるわけですよね。
特に西洋料理なんていうのは……。
糸井 それとか、日本でも、
箸先を2ミリしか汚さないとか(笑)。
タモリ それも偽善。
その偽善も、そうやって完全に楽しめば、
いい食事になる。
  (つづきます。)

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2004-07-06-TUE

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