糸井 |
様式美っていうのは、
ぜんぶ偽善の集まりですよね。 |
タモリ |
偽善の集まりです。 |
糸井 |
つまり、社会ができたときから、
他人と自分というのは敵対関係である、
っていう可能性が、いつでもあるわけです。
だから、
「敵対していませんよ」という約束を、
ひとつずつ、作っていったわけですよね。
おんなじ約束を生きてる限りは大丈夫だ
ということが
マナーにつながっているわけですよね。 |
タモリ |
偽善を徹底しているかぎりは、
大丈夫なんです。
だから、銀行のお姉さんも、
制服のときは、すごいいい人ですよね。 |
糸井 |
(笑)いい人ですよ。 |
タモリ |
で、我々のほうも、
銀行に行ったときには、
「すごいいいお客さん」なんです。
だから、銀行のカウンター越しに、
偽善が充満してるわけですよ。 |
糸井 |
(笑)そうですね。 |
タモリ |
そう思って楽しめば、
もっと偽善をやろうって気持ちに
なってくるんですよね。 |
糸井 |
それを徹底的に追及したのが、
色町ですよね。 |
タモリ |
なるほど。 |
糸井 |
山本夏彦さんが
『恋に似たもの』って
タイトルをつけたけど、
あそこでは、
恋に似たものを商ってるんだと。 |
タモリ |
うんうん。 |
糸井 |
恋ではないけど、
とても恋に似たものであると。
最終的に、体まで使ってるわけだけど、
決して「恋」ではないんですね。 |
タモリ |
本能に近いものには、昔から、
いちばん偽善が表れてくるわけですよね(笑)。 |
糸井 |
コントロールがむずかしいですから。 |
タモリ |
食べるものとセックスについては、
すごい偽善がはびこっている。
セックスについては、
表には出てこないけど、
食べるものに関しての
偽善っていうのは大きい。
マナーという偽善がありますから。
ただ、じゃあ、それは偽善だから
俺はやらないっていう人がいたら、
「じゃああなたは、
食事の時にマナーを無視して、
フルコースを素手で食ってください」
って言われてできるかというと、
できないですよね。 |
糸井 |
できないですね。
絵画っていう様式でも、
美しさの基準って、
そう言えば誰が決められる権利が
あるわけじゃないですよね。
「これは美しいので、1億円分美しい」とか、
「5億円分美しい」とか、
それはみんなでやりあってるわけです。
でも、
国民投票があったわけでもなければ、
みんなが何をどう美しいかってことについて
話しあったわけじゃなくて。
自然にどこかで決まってんだよね。 |
タモリ |
うん、うん。 |
糸井 |
美意識も、
マナーの延長線上だと思うんですよ。 |
タモリ |
もう、そうですね。
マナーも美意識も偽善。 |
糸井 |
そうですよねぇ。 |
|
(つづきます。) |