第3話を観て
永田 はい、こんにちは!
西本 たったいま、
3人で第3話を観おわりました!
糸井 みんな、イノシシのことばかり言うなよ!
永田 まだなんにも言ってないじゃないですか。
糸井 前略。イノシシの話はもういいだろ!
西本 まだしてませんって。
糸井 じゃあ、どういうイノシシならいいんだよ!
永田 うるさい、うるさい。
糸井 まぁ、最初に済ませておきましょうか。
西本 イノシシの話を。
糸井 そうそう。
永田 もう、あれは、わざとじゃないですかね。
この、「一億総つっこみ時代」に
ある種のサービスとして。
ほら、企画のプレゼンなんかでもさ、
わざと隙をつくったりするなんて言うじゃない?
西本 イノシシと将軍と肖像画については
どんどんつっこんでくれたまえ、と。
永田 そうそう(笑)。
糸井 というかね、あのイノシシは
どういうイノシシだったらよかったのかね。
永田 どういうイノシシと言われても‥‥。
糸井 だろう?
きみたちはさっきから、
「あのイノシシの動きは不自然だった」と言うが。
西本 言ってませんが。
永田 言ってませんが。
糸井 きみたちは、イノシシを見たことがあるのかね?
草むらから突進してくるイノシシを
その目で見たことがあるのかね?
西本 ありませんが。
永田 ありませんが。
糸井 じゃあ、不自然だと言う資格はないだろう!
西本 言ってませんが。
永田 言ってませんが。
糸井 しっかし、あれは不自然だったなぁ。
ふたり こらこらこらこら。
糸井 あと、あの場面で見過ごせないのは、
「リポビタンD」成分が入っていたことですね。
永田 そうそうそう、そっちのほうが印象深い。
糸井 うん、むしろ男子部的な注目としては
イノシシより、リポビタンDですよ。
西本 (ライフルの弾を投げながら)
ファイトーーー!
永田 (受け取った弾を込めて撃ちながら)
いっぱぁぁぁーーーつ!
糸井 あのリズムは明らかに
「ファイト、一発!」だよね。
永田 「ファイト、一発!」です。
西本 ワシのマークの大正製薬です。
永田 ラッパのマークの正露丸です。
糸井 逆にいえば、いかに日本人のなかに
「ファイト、一発!」のリズムが
しみこんでいるかということですね。
永田 ええ。あのシーンを観た7割くらいの人が
リポビタンDのCMを思い出したことでしょう。
西本 おそるべし、大正製薬。
糸井 大正製薬はいまから「ファイト、一発!」の
イノシシバージョンをつくるべきですね。
西本 あのイノシシを流用して。
永田 「イノシシを流用」(笑)。
糸井 というか、あのイノシシは、
生イノシシなんですか?
西本 「生イノシシ」(笑)。
永田 部分的には生なんじゃない?
糸井 「部分的には生」(笑)。
永田 CGっぽくはなかったですよねぇ。
糸井 つくりもののようにも見えるけど、
なんか、ほら、
ヘアデザインが荒れてたじゃない?
ふたり 「ヘアデザイン」(笑)。
糸井 だから生かなと思ったんだけど。
なにがいけないのかな?
動き? 大きさ? 距離感?
永田 ま、ともかく、総合的にいうと
「祟り神のオモチャ」みたいでしたね。
糸井 言い得て妙すぎますね、それは。
西本 で、あのイノシシが、
第1話のオープニングに出てた
雪山のイノシシなんでしょうね。
永田 ああ、1年後に同じ場所で
手負いのイノシシと再会。
糸井 じゃなくて、息子かもよ?
ここでバンとやられたイノシシは
じいさんイノシシで、
息子が鉄平イノシシで。
西本 あ、なるほど。
糸井 鉄平イノシシはなぜか
じいさんイノシシにそっくりで。
「おまえはじいさん譲りだね」
なんて言われて育ってるイノシシで。
永田 意味わかんない。
西本 ということは、あの草むらには
うり坊がいるわけですね!
糸井 そう。のちの鉄平イノシシ。
それが1年後の雪山でね、鉄平を見つけてね、
「‥‥あいつだ!」と。
永田 「‥‥いまだ!」と。
西本 「しかも柳葉はいないぞ」と。
糸井 「『ファイト!』はいないぞ」と。
西本 「『一発!』しかいないぞ」と。
永田 わははははははは。
ていうか、イノシシの話、引っ張りすぎ!
糸井 いや、このドラマ全体が、
イノシシとすごく縁が深いということですよ。
西本 鉄平の猪突猛進ぶりを表してるのかもしれません。
永田 あと、干支だしね。
西本 干支! そうだ!
糸井 いいとこ、つくなぁ。
じゃあ、それでいきましょう。
イノシシについて、男子部の結論としては‥‥。
西本 干支です!
永田 イノシシ年!
糸井 明けましておめでとうございます!
西本 また来週!
永田 たのむからドラマの話に入りましょう。
ええと、第3話は、どうでした?
西本 まあ、あいかわらず、欣也さんは悪くないと。
糸井 先週に引き続き。
永田 うん、欣也さんは今週も悪くなかったね。
糸井 ああ、そうですか。
おふたりはかなり欣也さんが好きみたいんですね。
西本 引き込まれちゃいますね。
永田 ちょっと憎みたいくらいなんですけどね。
糸井 「欣也、拓哉を殴る」のシーンはどうでしたか?
永田 踏み込んでましたね!
西本 うん、速かった!
糸井 トォン、パァン! とね。
西本 あれはさすがの鉄平もよけきれないね。
永田 ジャブだからね。
あそこの欣也さんは、
サウスポースタイルで構えてるのに左でいかない。
出してる右足でさらに踏み込んで、パァン!
西本 古武道の動きなんかにも近いかもしれません。
永田 ひねらない、ねじらない、ためない。
西本 ロッテの黒木のフォロスルーですね。
(ロッテの黒木投手の投球をまねながら)
永田 あるいは2002年の桑田さん。
(2002年の桑田投手の投球をまねながら)
糸井 それにくらべると、
山田優さんの平手打ちはまだまだですね。
西本 あれは、山本さんはわざとよけてないですね。
糸井 清原選手が内角球をよけずに当たって
ピッチャーをにらみながら
一塁へ歩くようなものですね。
永田 当たっても痛くないと判断して。
西本 あれを「当たった当たった、痛い痛い!」
と騒ぐと達川さんになります。
糸井 おおげさによけて後ろへひっくり返ると
西武時代の金森選手になりますね。
永田 古い! ていうか、
ビンタひとつで脱線しすぎ!
糸井 「欣也、拓哉を殴る」のシーンに戻りますけどね、
あそこで意外に重要なのは、
欣也さんが平手打ちをするまえに
鉄平が相子に暴力をふるってるところですよ。
いくら問題があるとはいえ、
さわやか鉄平が婦女子に手をあげたというのは
けっこう衝撃でしたね。
永田 そんなに暴力的だった?
西本 軽く振り払っただけに見えましたけど?
糸井 あっ、それは違いますよ。
あれが暴力に見えないとしたら、
きみたちに「鈴木京香さんは強い女だ」という
先入観があるからですよ。
たとえば、あれがもっと、弱々しい、
細い女優さんだと思ってみてごらんなさい。
あの役を、木之内みどりさんが
やっていると思ってごらんなさい。
西本 ちょっと古くないっスか。
永田 うん。ますますわかんなくなりますよ。
糸井 じゃ、小林麻美にしようか。
西本 ちょっと新しくなったけど。
糸井 まだ古いか。
永田 ていうか、いま、
「糸井重里にとって細い女性」
っていうのが垣間見られましたね。
西本 いえてる(笑)。
糸井重里にとって、
「細い女優」といえば、
木之内みどりか小林麻美!
糸井 うわぁ、なんだか妙に恥ずかしい(笑)。
永田 読んでいるみなさんも
「細い女優といえば誰?」というテーマで
いろいろ話し合ってみてください。
糸井 という話じゃなくて、だね、
あのシーンは今回重要なんですよ。
相子というのは、誰もが疎ましく思いながらも
それをはっきり表現できない女性だったわけでしょ。
それに対して、反射的だったとはいえ
主人公が手をあげるわけですから。
で、その鉄平を、さらに欣也さんが殴る。
いろんな人がちょっとずつ
一線を越えた場面だったんです。
永田 なるほど、なるほど。
糸井 この、「肉食」な感じね。
ゴージャスな家でワインを飲んで
「ございますわ」という世界を描けば描くほど、
ああいう「肉食」なところに
コクが出てきますよね。
西本 ほう、ほう。
糸井 だって、あの場面ね、
相子を振り払った鉄平に対してあの欣也さんが
「なにをする、てめぇ!」って言いましたからね。
「てめぇ」ですよ?
やっぱり、あの一族の
「上流の仮面」を一枚はぐだけで
肉をがつがつ食らうような
生々しい部分が現れるんですよ。
それが表現されると、奥行きが出ますよね。
永田 なるほど‥‥とは思うのですが、
あの、すいません、あの場面、
「なにをする、てめぇ!」なんて言ってました?
糸井 言ってましたよ。
そのすごみにぼくはしびれたんですよ。
西本 すいません、ぼくも聞き逃してました。
糸井 しっかりしてくださいよ。
永田 でも、糸井さん、2対1ですよ?
糸井 え、言ってない? いや、言ってたよ、
「なにをする、てめぇ!」って‥‥あれ?
西本 巻き戻して観りゃいいんですよ。
いま、録画を観たばっかりなんですから。

(巻き戻して確認)

北大路欣也 『なにをする、鉄平!』
糸井 ‥‥‥‥。
西本 「なにをする、鉄平!」ですね。
永田 「なにをする、てめぇ!」じゃなく。
糸井 ‥‥‥‥お先に失礼します。
ふたり こらこらこら。
糸井 まぁ、でも、ぼくの言いたいことは
わかります、よね?
永田 はい、わかります。
西本 あの一族の肉食な感じ、
生々しさがこのドラマの醍醐味です。
それは、間違いありません。
糸井 「てめぇ」とは言ってませんでしたが、
そういうことだと思うんですよ。
西本 それが、凝縮されていたのが
あの平手打ちの場面だったと。
糸井 そういうことですね。
永田 また別の細かい話になりますけど、
この場面は立ち位置が絶妙ですね。
手前から鉄平、大介、相子、その向こうにお母さん。
鉄平の右側に早苗、二子。
この「V字」が見事に人間関係を表してます。
糸井 ああ、そうですね。
こうして観なおしてみると、
関係がよくわかるように
意図して配置されてるのがよくわかりますね。
永田 はい。
で、じつはぼく、今回、ここで観たのが
ハイビジョンでの初鑑賞だったんですよ。
西本 お、ハイビジョン元年。
永田 そうなんですけどね、
やっぱり、こういう場面で
ハイビジョンの力を思い知らされたというか。
とくに、鉄平、大介、相子の
3人が手前から奥へ並んでいるときの
立体感がすごいというか。
糸井 でしょう?
滝だけじゃないでしょう?
西本 鉄道だけじゃないでしょう?
永田 うん。奥行きとか、すごい。
3人のうちの誰のどの部分に
ピントが合っているか、ということに
すごくつくり手の意図を感じるんですよ。
糸井 そうそうそう。
だから、つくるほうがたいへんだというのは
そういうところなんだよね。
永田 決めなきゃいけなくなりますからね。
どこに合わせるか。どこをぼかすか。
糸井 ひとまわり違うディレクションが
また必要になってくるんですよね。
でも、考えてみれば映画では
それはすでにやっているわけで。
西本 この場面にしても、
最終的な映像のできあがりを考えて、
ああいう立ち位置にしてるんでしょうし。
永田 たいへんだなぁ、それは、ほんとうに。
糸井 さらに話を広げると、おもしろいのは
銀平がこのV字に含まれてないことですよ。
西本 V字の緊迫がピークに達したところで
「ずいぶんな騒ぎですね」と現れる。
で、V字のどちら側の線にも加わらず。
永田 ああ、なるほど。
そう考えると、このシーンは味わい深いなぁ。
糸井 序盤でしたが、今回の山場でしたね。
西本 で、もうひとつの見せ場が
大阪の支店を集めて欣也さんがひと演説ぶつ、
あの場面になるのかな。
永田 うん、あそこは、おもしろかった。
なんといっても各支店長が
悩みの深い、いい顔をしてた。
西本 各支店のノルマアップはすごかったですね。
18億が25億に! 50億が60億に!
アップ分だけで高炉の足りない金額に
軽く達してしまいますよ。
永田 あれは総預金額の順位を上げるための
ノルマアップだから、
高炉の融資とは関係ないでしょ。
糸井 ぼくはあそこに関しては
ずっと考えているんですけど、
どういうマジックを使ったら
あんなに預金高を増やせるんですかね?
永田 え?
西本 え?
糸井 徹夜して心臓が止まるほどがんばると
お金が増えるという時のがんばり方って
具体的には何を意味するんですかね。
選挙運動みたいに行脚なの?
田植えの手伝い?
土下座をしてお願いすれば
「かわいいやつだ、預金してやろう」
ということになるっていうことなんでしょうかね。
永田 まぁ、要するに、そういうことじゃないですか。
西本 門前払いをされても何度も通えば、みたいな。
糸井 うーん、そうかぁ‥‥。
でも、どうがんばったからどう増えた、
というのを、現代人としては
もうちょっと観たかったなぁ。
西本 ビジネスのからくりというか、
欣也さんの経営者としての手腕みたいなものを。
糸井 そうそう。
永田 大阪万博があるから道路ができて、
道路をつくるために農地が国に買い上げられて、
農家に入った大金を預けてもらうために
銀行の人たちががんばる、じゃダメですか?
糸井 時代劇だとすれば、OKなんですけどね。
現代劇だと、なにか方法を知りたくなりますね。
永田 ということは、すんなりおもしろがれたぼくは
時代劇として観てるんだな。
うん、言われてみるとそうかもしれません。
糸井 どうもぼくは現代の目線が入るんですよ。
こと、経営やお金に関しては、とくに。
西本 現代目線というよりは「社長目線」なのかも。
糸井 そうなのかなぁ。
にしもっちゃんはどうなんですか。
時代劇? 現代劇?
西本 ええとですね、複雑です。
とくに、あの銀行の場面では
むちゃくちゃ複雑な気持ちです。
永田 複雑?
糸井 どういうことですか。
西本 基本的には永田さんと同じように
時代劇として楽しんでると思うんですけど、
あの支店長が死ぬところで
とんでもなく複雑な気持ちになりました。
というのは、ほら、ぼくの父親は銀行員で
けっこう早くに死んでしまいましたから。
永田 わぁ、おい、こら、ちょっと。
糸井 そういう、にしもっちゃんからすると、
「欣也さんは悪くない」とは
言えなくなるんじゃないですか?
西本 はい、言えません。
現代に引き戻されると、悪い人ですよ。
だから、矛盾しまくりなんですよ、自分の中で。
なんか、うちの親父の葬式のときも
あんな感じでしたし。
永田 わぁ、だから、そんな深い話を
こんなくだらない場所に持ち込むなよ。
西本 いや、これがちょっと似てるんだわ。
だから、ほんとのこというと、
欣也さんが悪くないとは言えない。
欣也さんは、3P以外も悪いかもしれない。
永田 重い事実と3Pをいっしょに語るなよ。
西本 いや、でも、ほんとに。
糸井 つまりね、おおざっぱにまとめるとね、
この『華麗なる一族』っていうのは
セミ時代劇であって、観る人の視線によって、
時代劇とも現代劇ともとらえられるわけですよ。
それが、このドラマのいちばんの特長であり、
おもしろいところであり、
つっこまれやすいところであり。
永田 そうですね。
だから、今回、現代劇よりで観た糸井さんは
お金のからくりみたいなところが気になって、
時代劇として観たぼくはまったく大丈夫で。
西本 両方が入り交じってしまったぼくは、
自分の中で矛盾してしまったと。
糸井 いや、たいへんな苦労だと思いますよ。
観る側の気持ちなんて
人によって違うのはもちろん、
そのときどきで変わりますからね。
つくる側が観る側に
「ここはこっち目線で観てください」
なんて言うわけにいきませんから。
永田 セットを昭和にすればいいっていうわけではなく。
糸井 複雑な構造を引き受けざるをえないんですね、
こういうセミ時代劇は。
まあ、でも、観る側の勝手な希望としては、
その入り交じる独特の感じでもって
楽しませてほしいですよね。せっかくですから。
あっちへ行ったりこっちへ来たりの
揺り戻しでわくわくしたいというか。
永田 あ、「入り交じる楽しみ」で思い出しました。
イーグルスですよ。
糸井 あ、あれは、まさにそうですね。
時代劇で知ってる曲が流れるという違和感。
永田 そうそうそうそう。
ピアノのメロディーが聞こえた瞬間に
「あれ? 知ってるぞ?」と。
糸井 「♪デーースペラーードー」
永田 「♪ホワイ・ドンチュー〜」
ふたり 「♪ほにゃほにゃほにゃ〜」
西本 ぜんぜん歌えてないじゃないですか。
糸井 あれは、鉄平のテーマなのかね。
くじけそうになったときに流れるというか。
西本 イーグルスはちょっと疎いんですが、
どういう曲なんですか。
永田 こう、アウトローな人に対して
メッセージを送るような歌ですよ。
西本 鉄平、のびのびやれよ、みたいな歌ですか。
糸井 いや、もうちょい哀しげな訴えなんだよ。
「♪デーースペラーードー」
永田 「♪ホワイ・ドンチュー〜」
ふたり 「♪ほにゃほにゃほにゃ〜」
西本 だから、まったく歌えてませんって。
永田 あの歌は邦題がよくないんだよな。
『ならず者』っていうんですよ。
おかげで、いろんなところであの曲が流れるたびに
ぼくの頭には「ならず者」っていう文字がバーンと‥‥。
糸井 邦題はともかくとして、
あそこの鉄平と芙佐子の場面には
ほかにもまだ語りたいことがありますよ。
ふたり どうぞ、どうぞ。
糸井 まず、傘。あの傘は、いい傘だね。
西本 あっ、それ思った!
うわー、自分だけだと思ったのに。
永田 ぜんぜん思わなかった‥‥。
いい傘? ものがいいってこと?
糸井 うん。いい傘だと思うよ。
水のはじきもよかったし。
万俵家の持つ傘、という感じがしたね。
和光じゃないかな?
西本 ええ、あれはよさそうな傘でした。
永田 あそこは『ならず者』で頭がいっぱいだったな。
糸井 そして、もうひとつ。
あの、稲森いずみさんが窓から
鉄平に声をかける場面がありましたよね。
あそこ、稲森さんが引っ込んだあとで、
しばらくガラス窓だけが映るんですよ。
永田 ん? それがなにか?
糸井 なんにもない窓を、しばし映すなんて、
度胸のいることだと思いませんか?
あれも、ハイビジョンのなせるワザですよ。
つまり、ハイビジョンの細やかな映像で、
「窓の向こうにすっと消える稲森いずみ」が
きちんと表現できるからこそ、その余韻でもって、
「なにも映ってない窓」を
もたせることができるんですよ。
西本 はっはぁ〜、なるほど。
糸井 意味だけを追っているドラマなんかじゃ
あんなカットは絶対に入らないですね。
「誰もいない窓」に時間を割くなんてね。
西本 その演出が成立するのも、
ハイビジョンの力があればこそだと。
糸井 そのとおりです。
だから、あの場面を永田くんの家のテレビで観たら、
きっと「あれ?」って感じると思いますよ。
西本 永田さんちのテレビだと、
「人のいない窓」はただの真っ黒ですね。
糸井 ええ。つるっと真っ平らです。
永田 人んちのテレビを
のっぺらぼうみたいに言わないでください。
西本 あと、あの場面でぼくが思ったのは
「鉄平、錆びるなよ」っていうセリフですね。
どうにもうまいこと言い過ぎな感じで
ちょっと気恥ずかしいというか
ぼくの心の中にいるダウンタウンの浜田さんが
「そんなんいらんねん」と言ってましたよ。
糸井 誰の心の中にも
浜ちゃんは住んでいるといいますからね。
西本 ええ。鉄平も関西の出身なんだから
「なにうまいこと言うとんねん!」
と返してほしかったですね、あそこで。
永田 なんでそこだけ関西弁なんだよ。
糸井 ということで、まあ、
総合的な感想になりますけれども、
今回のお話というのは、あれですね。
『新選組!』のときに
我々が使っていたことばで言うと‥‥。
ふたり 「道の回」
糸井 「道の回」ですよねぇ、やっぱり。
西本 ええ、完全に「道の回」でしたね。
永田 解説させていただきますと、
我々男子部は、テレビドラマの中で、
ひとつのエピソードをじっくり描く
動きの大きな回を「駅の回」、
いくつかの話の進行を伝えるような
つなぎの回を「道の回」と呼んでいるのです。
糸井 だから、極端にいえば、
この第3話は視聴率を落とすかもしれないですね。
西本 でも、来週はすごそうですね。
予告を観た感じでは、「駅の回」かなと。
永田 なんか、いろんな人が怒ってたもんなあ。
糸井 いろいろいやなことがありそうだねー。
永田 こういっちゃなんですけど、
やっぱり、このドラマって、
「不幸があればあるほどおもしろい」というか、
訪れる不幸が観る側の感情を揺さぶるような
ドラマだと思うんですよ。
糸井 そうですね。
あの「万俵家」という一族に、
いったいなにが起こるのかということですね。
永田 はい。だから、最初の3話を使って、
ベースとなる万俵家を
描いたんじゃないかなと思うんです。
つまり、来週から不幸がはじまるんだろうなぁと。
西本 終わってみれば、今回のお話というのは、
「20億円、なんとか集まりました」
というような回でしたからね。
糸井 だから、派手な映像と豪華キャストで
つい勘違いしそうになりますけど、
ここまでの3話というのは
意外に薄いともいえるんですよ。
ぼくが「もっと肉食な感じを観たい!」
と言ってるのも、それと同じことで。
永田 そうですね。来週からの展開が楽しみです。
糸井 あとは、なにかありますかね。
西本 すいません、
まことに個人的な印象になりますが、
長谷川京子さんのシャツがいつも白で
妙に透けているのが気になってます。
永田 どういう視点なんだ(笑)。
西本 なんか、妙にいやらしいんですよねぇ。
糸井 あ、それはまさに肉食の演出かもしれませんよ。
つまり、あの人が清潔感たっぷりだと
鉄平の肉食な部分が消えすぎちゃうじゃないですか。
永田 え、じゃあ、
妻の「ちょっと透けてるシャツ」で
鉄平の肉食っぽさを表現しているということ?
糸井 うん。ちょっと獣よりのバランスにするというか。
ほら、鉄平って、主人公だということもあって、
ほっとくと「真っ直ぐな若者」っていう
だけの人になっちゃうでしょ。
やっぱり万俵家の人なんだから、
獣を混ぜておかないとね。
それで、鉄平の妻のシャツは透けるわけですよ。
まぁ、正直、ほんとかどうだか知りませんが、
とりあえずそう観るとおもしろいじゃないですか。
永田 うん(笑)。
西本 鈴木京香さんと対比させるとまたおもしろいですよ。
愛人の相子は「胸元を開けた服」
という表現ができますが、
妻の長谷川さんはそういうわけにもいかないから
「白いシャツが透けている」と。
永田 そういう記号なんですね。
欣也さんの葉巻と同じようなものか。
糸井 そうそう、あれだけ葉巻らしい葉巻は
なかなかお目にかかれないですよ。
ジャイアント馬場以来ですよ。
永田 「ジャイアント馬場以来」(笑)。
西本 「ジャイアント馬場以来」(笑)。
糸井 まあ、このあたりにしておきましょうか。
なにかしゃべり忘れたことはない?
あれ、イノシシの話ってしたっけ?
西本 しました。
永田 さんざんしました。
(また来週)

2007-02-02-FRI