カナ式ラテン生活。 スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。 |
【テレビ事情1・スペイン版ASAYANのすごさ】 スペインでは一昨年から、 オーディション番組『オペラシオン・トリウンフォ』が 爆発的な人気となっている。 現在は第2シリーズが終わったところだけど、 第1シリーズの最終回なんて 瞬間最高視聴率が80%を上回ったらしい。 もしスペインに銭湯があったなら、 月曜の夜10時からはガラガラになる勢いである。 『大ヒット作戦』とでも訳せるこの番組、 出場者はスペイン各地での予選に通過した 20代前半を中心とする男女。 彼らは特設のアカデミーで共同生活をしながら、 各方面のプロの指導のもとで課題曲に取り組む。 この様子は、毎日放送されている。 オーディションのシステムは、毎週ひとりずつ、 視聴者の電話投票の少ないひとが 落選していくというもの。 月曜の生放送の最後に、落選者の発表がある。 最後まで残った3人はプロデビューが約束され、 さらにそのうちひとりは ヨーロッパの歌の祭典『ユーロ・ビジョン』の スペイン代表の座を獲得する。 番組は、第1シリーズで圧倒的に歌の上手な女の子が 「ものすごいデブで内気で訛りのひどい泣き虫ちゃん」 だったというインパクトも手伝って、 毎週出される課題曲のCD(もちろん彼らが歌う)が 100万枚以上も売れたり、 最終的にはあまりの人気となったために 番組に出場した全員がそれぞれCDデビューして それらがヒットチャートの上位を占めてしまうという もんのすごい騒ぎになった。 現在は第2シリーズが終了し、 第3シリーズの地区予選がはじまるところだ。 そういえば第2シリーズの地区予選では あるスペイン人の女の子が 「日本の曲を歌っていいですか?」と言うや 宇多田ヒカルの曲を歌いだしたのにはびっくりした。 私の日本語曲CDも盗られるわけか。 ところで私はもともとオーディション番組が大好きで、 古くは『スター誕生』から『お笑いスタ誕』、 モーニング娘。の『ASAYAN』と見てきたのだけど、 今回、いくつかの大きな違いに驚いている。 まずひとつ、こちらでは出場者が軒並み踊れること。 そりゃまぁダンスのテストも経てきてるのだから 踊れて当然なのだけど、 ラテン系の兄ちゃん姉ちゃんの 腰が動くこと、動くこと。 これで素人だというんだもんなぁ、と、 モー娘。の最初の頃の カクカクした踊りを思い出しては唸ってしまう。 10代半ばから20代にかけて みんなディスコテカに行ってるのは知ってたけど、 なーるほーどねー。納得。 ちなみに、南のアンダルシア地方出身者の多くは フラメンコのたしなみもあるらしい。 歌とかリズムとか、ちょっとした手の動きとか。 ダンスというものにまったく縁遠い私は はぁぁ、と溜め息をつくばかり。 次に驚くのは、家族愛。 会場には両親や兄弟が駆けつけてくるし、 たまにアカデミー内から電話するときは 「ママ、淋しいよ。元気?会いたいよ」と泣くし、 落選が決まった出場者の家族がステージに現れると 司会者の存在も忘れて抱き合って泣くわ、 横に並んで座ってても手をぎゅっと握り締めてるわ、 司会者からコメントを求められた両親が 「愛しの息子よ、お前は間違いなく最高だったよ」と その息子の両側からサラウンドで声を上げては もう一度抱き合って頭を撫でるわチュウするわ。 たとえばもし、もしね、 うちの親だったらテレビに出ないだろうし、 出ても自分の子をしゃにむに誉めはしないだろう。 まぁ、そんなことはないのだけども。 男女愛にも、驚く。 アカデミーの中で、何組もカップルができた。 できたらすぐに公然の仲となってしまうので、 毎日の「アカデミー中継」番組なんかで ケンカしたり泣いたり仲直りしたりチュウしたり、 人目もはばからずにする。 でもって、スペイン人ってのがもともと 初対面でも頬に2回チュウしちゃうくらいだから、 課題曲でコンビを組んだ男女ともなると 私の目には恋人かと見紛うばかりの親密さとなる。 頬を撫でたり、抱き合ったり。 毎週、ダンナさんとふたりして、 「あかん、もし俺が親やったら 娘がこんなんしてんの見んの、ぜったい嫌や」 と、もだえてしまう。 まぁ、近所のベンチでも、 男のひとの上に女のひとが向かい合ってまたがって チュウチュウしてる国だからねー。 最後に、いちばん驚くのが、地域との密着度。 だいたい最初から「バルセロナ選出・アレックス」 みたいに、胸のプレートに出身地が書いてある。 で、折に触れては故郷の学校の先生だとか 同級生だとか会社の同僚だとかにも取材している。 なので、「○○出身の△△」というのは 見ている側も常に意識させられるようになっている。 ちなみに出場者が多いのは、 スペイン南部、フラメンコの故郷アンダルシア地方と バルセロナを中心とするカタルーニャ地方。 アーティストを多く輩出する土地だ。 それにしてもすごいのは、 各々の地域からの応援。 これはオーディションが煮詰まるほどすごくなり、 最終回の日にもなると、その町の広場やなんかに、 そこの出身者の顔がプリントされたTシャツを着て 手作り横断幕を携えた老若男女がどちゃーっと集まる。 町中には「○○に一票を!」「△△を救え!」などの 選挙顔負けの熱い、というか、うるさいポスターが べたべたと貼られる。 小さな町だけじゃなく、 スペイン第4の町セビージャでもこうだったらしい。 そんでもって、 町役場にまで電話コーナーが特設されてしまって、 地元出身者への投票が呼びかけられたりする。 もう、なにがなんやら。 ちなみに終わったばかりの第2シリーズの優勝者は、 バスク地方の町ビルバオ出身の女の子。 この子も美人じゃないしスタイルも悪かったけど、 キャラクターと歌唱力の伸びが人気を集めたらしい。 ところで、彼女の地元バスクは 残念ながらいまETAの問題を抱えているのだけど (『バスク問題について』参照)、 そのせいで「おそらく電話投票は政府が操作して バスクのひとの懐柔を図ったんだ」という噂が もっともらしく囁かれたのだった。 それほど番組が国民的関心事だったってことだし、 地域との密着度が高いということだろう。 このあたり、 サッカーのリーグ戦の盛り上がりに似てるかも。 ほんと、自分の田舎が文句なしに大好きで、 縁があるとなると身を入れて応援するのだよね。 あぁもうひとつ、 出場者の男性がよく泣くのには、いつも本当に驚く。 落選かそうじゃないかの発表でも泣くし、 友情にも家族愛にも恋愛にも泣く。なんにでも泣く。 番組にはいろんなスポンサーがいて お金の臭いも最近とみに鼻につくのだけど、 出場者やその関係者のストレートな感情表現は、 見ていて、本当に気持ちが良い。 私も本当は、 人前で泣いたり踊ったりチュウしたりしたいのかなぁ。 カナ
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2003-03-09-SUN
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