OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.24
- Y2K-gene-timeout -


- 2525年、夏 -

あっつー!何度、今?53度?
げっ。よく生きてるよね。わたしら。

大丈夫さ。空調シールド作動してるし。
これ、誤作動起こさないかぎり、死なないって。

なんか見つかった?

カ・ツ・ン。

ほら、なにかにぶつかった。

20世紀の日本人が残したっていう
ニチギンの隠し金庫じゃない?!
めちゃ、ドキドキ。
10年分の国家予算入ってたって?
中、なに?

金庫じゃなーい!!
液晶モニター。

中に画像データが残ってる。
Y2K がどうのこうのって叫んで人間があたふたしてる。

Y2K?

あー、なんか聞いたことあるよ。
2000年問題ってやつでしょ。

人類初の世界的規模のサイバー危機。
電気も水道も交通も止まっちゃうとマジに思ったみたいよ。

最大に宣伝して”みんな、協力してちょーだい、さもないと…”
なんてちょっと脅しちゃったりして…。
実際、何が起こるか誰もが「予測」でしか答えられなかった。
ほら、ソフトウエアってコピーしたら、際限なく増えるじゃない?
いろんな国で海賊版出回っちゃってるし
もう、だめかもね、って思った人も多かったわけ。
そういう人は悲観論者と呼ばれてたけど、
コンピュータのこと良く知ってるだけに、
そりゃーもう真剣なのよ。
いろんなケースが考えられてさー。
そういう人は逃げたわけ。
自分だけでも生きよう!畑たがやして自給自足だ!って。
でも「核ミサイル」飛んだら終わりだけどね。

逃げられない人たちとかさ、そんなソフトを
ばら撒いて危険を感じてた会社とか、ばら撒かれた会社は、
なんとかしなくちゃ、相手だけじゃなくて
自分も滅んじゃたまらないって、
「バカらしい」と思っても、よくわかんなくても
とにかく、お金つぎこんで、Y2K 対策ってやつを
会社を挙げて、世界を挙げてがんばったらしい。

「こんなにがんばってます」って言わないと
国民とかから、やんや言われるし、
「おたく、うちがどれだけおたくのコンピュータ
買ってると思ってんねん」とか、
お客さんにもピシピシ言われるし。辛かったのよ。

え?実感こもってるねー、経験したみたいじゃない?

違う、違うって。ほらこの会社。
なんかドキュメントデータも出てきたよ。

外資系のベンダの「Y2K 顛末記」だって。
現場の声か。興味シンシン。

見てみよう!

Y2K-document(←これをクリックしてね。)




読んだの?

読んだよ。ナマナマしいね。まだだいぶ隠してるみたいだけど。
やっぱり、騒ぎすぎたの?
仕方ないね。でも、現場大変だったのによくやったよね。

うんうん。
Y2K ってもともとは日付表示のバグの問題なんだけど
そこから派生した2次的、3次的な問題の方が
なんだか大騒ぎで、Y2K としてはおおごとだったみたいね。
悪いけど笑っちゃうね。
だって、Y2K 対策といっても、
「大丈夫か?」が上から下へ流れていくみたいな
実際に手を下す人は少しの技術者だったとか。
それに社内や本社がとんちんかん、というのがねぇ…。
おおかみもこあらもひどいよなぁ。
よく確かめもしないでワガママなんだよね。まったく。

わかってないことをわかってない人がこまったちゃんね。
コンピュータ使えない人が指揮してたりしたんだって。
最前線の苦労も知らないでさ。涙でるよ。(ぽたぽたぽた…)
それを、あとになって「騒ぎすぎた」なんて言われてもねぇ。(ズルッ)

出てるよ。ハナ。
でもさ、こうなるとも知らないで。
ダメだったんだよね、結局。

Y2Kって、もうプログラムされてたんだって。
とりあえず、修整成功したふりして
タイマーかかってたんだよね。
修整プログラム自体に。

"Y2K-gene-timeout"

それをインストールした途端
Y2K は終わったと思わせる安心感を植え付けるプログラム。

「なんだ、何もなかったじゃない。」
「結局コンピュータは信頼できるんだ。」
と思わせてしまった。

それでこうなったんだ。

そう。

そんな仕組み、すぐ見抜けたのにね。
あのプログラムに私たちの遺伝子が組み込まれてたんだ。

そ、そ。
ありがたいよね。間違ってくれて。

ほんとほんと。

さ、穴掘り、再開!
うん。

あれ?なんか温度あがってきてない?
シールド、変だよ。日付が…。

あ、1925年にもどってる。
Y2K gene?
ねえ、液晶に触っちゃったの?

あ、おハナがないよ、こあらどん…。
うっそ!おおかみちゃん、しっぽが燃えてる!
あああぁぁ。あっつぅ!

暗転。

fin.

*この物語はすべてフィクションです。


福嶋(まーしゃ)真砂代

2000-01-31-MON

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