マルディ・グラの和知さんの
「ていねいでおいしい野菜」
その1 まったく味つけをしないサラダ?!

こんにちは、武井です。
いきなりですが、このサラダ。おいしそうでしょう?
もっとアップで見せちゃおう。

ああ、よだれが‥‥!
トマト、赤玉ねぎ、ピーマン。
材料は以上です。
「それで、調味料は?」
いえ、以上なのです。
塩もオイルもビネガーも、入れておりません。
胡椒もマスタードもなんにも入っていない。
ただ切って和えただけです。

これ、「サルササラダ」という一品です。
トルコで、お肉料理のつけあわせに
出てきたサラダをヒントにしたものだそう。
香り、水気、歯ごたえ、苦味、酸味、あまみ、
いろいろ複雑な要素がからまるので、
お肉を食べながらの「箸休め」的なサラダにぴったり。
塩をしなくても、口の中をさっぱりさせるという意味では、
おおいに、アリ!
そしてこれほどカンタンなものはないかもしれません。

レシピを書くなら──。


【和知さんのサルササラダ】

[材料]

・ピーマン 1コ
・トマト 中1コ
・赤たまねぎ 1/4コ(好みで増やしても)

[つくりかた]

1)ピーマンは半分に切り、
  ヘタとタネを取って食べやすく切る。
2)トマトはヘタを取って、4分の1に切り、
  さらに食べやすい厚さに切る。
3)赤玉ねぎも薄めのスライスにする。
4)材料をすべて混ぜ合わせて、できあがり。

あ、ほんとに、カンタン‥‥。
つくったのは、銀座「マルディ・グラ」の
オーナーシェフである和知徹さん。
正統派フレンチの料理人です。
(プロフィールはこちらをどうぞ。)

この和知さんに、今回から、
「おいしい野菜の食べかた≒サラダのつくりかた」を
教わっていこうと思います。

ご縁のはじまりは、
昨年『調味料マニア』が書籍化され、
伊勢丹新宿店で店頭販売のイベントをしたときのこと。
通りかかった和知さんが
ぼくらの本を購入してくださった! ‥‥だけでなく、
「ボクも、調味料マニアなんですよーっ!」
と声をかけてくださったのでした。
プロの料理人が買ってくれるなんて!
と、ちょっとはずかしくもありましたが、
やっぱりうれしかったなあ。すごく。
しかもぼくとはほぼ同世代で、
丸顔というのも親しみポイント。
それからフェイスブックなどを通じて
いろいろとおいしいものの情報をやりとりしています。

▲和知さん、伊勢丹の松田さんと。丸顔三兄妹。

じつはそれまでにも何度かぼくは
「マルディ・グラ」に行ったことがありました。
でもなにしろ銀座のフレンチです、
そうそう気軽には行けません。
それでも、久しぶりにともだちに会うだとか、
「よし、肉を食べるぞ!」というとき、
かならず候補にあげるお店のひとつなのです。

‥‥と、ここで「肉?」と思われたかた、カンがいい!
そうなのです、和知さんといえば、
肉の神様に愛された男ランキング
(武井の勝手なランクづけ)殿堂入りの料理人。

肉の神様に愛された和知さん

和知さんのビストロ「マルディ・グラ」は、
肉好きの聖地、とすら呼ばれていて、
どちらかというと「わるいめし」の大先輩です。
ぼくも「マルディ・グラ」に行くときは、
肉を食べるぞモードになっているので、
野菜をもりもりください! ということにはなりませんし、
そもそも、メニューにもあまり載っていません。

▲マルディ・グラ名物「男のハンバーグ」。こういうのが和知さんの得意技。男の夢が詰まっております。
 そういえば和知さんは伊勢丹のイベントで「大人のお子様ランチ」を作ったこともありました。

でも! 和知さんの野菜料理、うまいのです。
最初に画像を載せた「サルササラダ」もそうですが、
お肉の付け合わせの野菜の使い方は絶妙。
お客さんのなかには
「野菜のおかわりもらえますか」と言っている人もいます。
メニューに野菜は少ないのですけれど、
めずらしく単品で載っている「香菜の爆弾」は、
香菜(コリアンダー)とエシャロットが、
もっさり、こんもりと、
一見ぶっきらぼうに盛られているサラダ。
これが食べてびっくり、
味がきりっと決まってるだけじゃなく、
なんだか謎めいたいい香りがします。
香菜好きにはたまらんです。
(ふつうアジアンテイストが強くなるんですが、
 これはフレンチでした、見事に。)
あまりにいい香りなので、
「これ、いったい調味料は?!」と訊いてみたところ、
(もちろんいくつかの調味料を組み合わせて
 その味や香りはうまれるのですが)
決めてのひとつは、「いちじくのビネガー」!
おもしろーい! そんなの使うんだ?!
(いちじくビネガーというものが
 あることすら知らなかった‥‥。)
肉料理にも言えることなんですが、
和知さんは調味料、スパイスやハーブの使いかたが、
抜群にうまい料理人なのです。

ハーブやスパイス

そういうわけで、サラダです。野菜です。
先日、お店に伺ったときに、このコンテンツの話をして、
和知さんにサラダを教わりたいのですとお願いしたところ、
二つ返事で引き受けてくださいました。
ぼくの血圧問題(減塩計画)も理解してくださって、
スパイスや野菜のうま味で、
塩分をカバーすることができますよ、と。
「美味しく食べて、身体に良い、
 そんな都合のいい料理‥‥あると思いますよ!」
そういえば和知さん、ぼくと同年代で、体型もかなり近い。
健康でなくちゃ料理人はつとまりませんから、
自身の食事にもかなり気をつかっているはずですものね。
基本の考え方を説明しましょう。
「野菜って、そもそもが苦手だと、
 あんまり食べたくないものだから、
 いっぱい調味料を使っちゃって、
 お医者さんから言われていることが
 元の木阿弥になるんですよね。
 結局塩分過多になったり、
 オイル過多になったりしてしまう‥‥」

と、和知さん。そうなのですよ。
市販のドレッシングにも、おいしいものはあるけれど、
ちょっと油が多かったり、
ノンオイルのものは飽きてきたり。
やっぱり自分でつくったほうがいいかなあ、と。

「野菜の調理法も、生・焼く・蒸す・茹でる・揚げる、
 など、いろいろあるので、
 まず調理法で変化をつける。
 そして、味つけでさらに楽しむ。
 今回、まず、いくつか基本の調味料を
 つくってみようと思っているんです。
 たとえば、これはマルディ・グラでもふだんから
 やっていることなんですが、
 マスタードをうまく使うといいんですよ」

マスタード! でもサラダには
あまり使わない調味料ですよ‥‥?!

「ディジョンのあまり辛くないマスタードで
 野菜を和えるだけでもおいしいんですよ。
 でもちょっと『つくるたのしみ』も味わいたいので、
 野菜の出汁をとって、加えます。
 出汁っていうと大げさなんですが、
 ちょっと炒めて、水で煮出します。
 その煮汁でマスタードを合わせると、
 もうオイルをそれ以上添加しなくても
 ドレッシングができるんですね」

▲野菜の出汁を取っているところ。くわしくは次回以降にお伝えします!

なるほど! サラダって、
ずっと「オイル+酢+塩」でつくってたけれど、
そうじゃなくても、いいんだ‥‥。

「出汁をとる野菜は、普段から家にあるようなもの、
 玉ねぎとニンジンとニンニクとセロリです。
 そして、タイムを使います。
 これをつくっておくと、
 生・焼く・蒸す・茹でる・揚げる、
 すべてに使えるオールマイティな
 ドレッシングができますよ。
 その出汁は、もちろん他の野菜を炊いたりもできるし、
 リゾットやパスタにも使えますしね。
 さらに、乾燥ポルチーニの戻し汁とか、
 フレイバービネガーを加えるのもいいですね。
 カレー粉を足すとかも、アリですよね」

なるほどー!
いま出たポイントを整理すると、

【ポイント1】

 野菜の調理法 生・焼・蒸・茹・揚など

【ポイント2】

 マスタード+野菜の出汁が基本のドレッシング


 さらに+うま味やフレイバー

ということになりますね。

「そうですそうです。そして、そこに第四の刺客、
 『スパイスふりかけ』を投入しましょう」

スパイスふりかけ?!

「ごま、ナッツ、コリアンダーシードなどを
 ミックスさせたものです。
 サラダにかけてもいいし、単体でもおいしい」

ごくっ。ナッツ好きでスパイス好きには、たまらない‥‥。

「さて、武井さん、お気付きと思いますが、
 ここまででほとんど塩分やオイルの話に
 なっていませんよね」

そうですね! ほっとんど、使ってない!
そもそも塩分は、
ディジョンのマスタードに入ってるから、
加える必要もないんでしょうね。

「そうですね。
 そして辛みやスパイスを上手に使うと、
 塩分とオイルをかなり抑えても、
 食べたときの満足度は高いんですよ。
 オイルがいけないわけじゃないので、
 さきほどフレイバービネガーといいましたが、
 それをフレイバーオイルにしてもいいわけです。
 香りの豊かなオイルを使うと、
 それだけでソースっぽさが出るので、
 塩分を落としても満足度は高いんですよ」

ああ、おっしゃることがすべて腑に落ちるし、
なにより、おいしそうです。

おいしそー、と、ぽわーんとヨダレを垂らす武井

ということで、和知さんが提案してくださった野菜料理、
これからレシピを紹介するのは、このようなラインナップ。

Wachi's Special


【調味料】
●スパイスふりかけ
●野菜の出汁
●マスタードドレッシング
●ケチャップ
●にんにくのスプレッド
●フレーバービネガー
●フレーバーオイル
●激辛サルサソース

【サラダ】
●サルササラダ
●赤水菜、小松菜、芥子菜のシーザーサラダ風
●野菜ドッグ
●芽キャベツの揚げサラダ
●炒めたせん切りにんじんのフレーバーオイルサラダ
●茹でズッキーニのナムル風
●かぶの焼きサラダ、ケチャップ添え
●(おまけ)蒸しハンバーグ

次回から、じっくり紹介しまーす。ケチャップをつくってみよう!

とはいうものの、今回、
冒頭の「サルササラダ」だけじゃ、
ちょっと物足りないですよね。
すぐつくってみたいというかたも
いらっしゃることと思います。
ので、インスタグラムでも
ちょこっと予告した、ケチャップの作り方を、
ご紹介いたします。

ケチャップ、というのは、
つまりは赤い野菜のソース。
じぶんでつくれるの? つくれるのです!
砂糖を使うレシピですが、自作なら加減できます。
お肉につけてもいいし、
蒸し野菜や焼き野菜とも相性がよい!
もちろんオムレツ,オムライス、チキンライス、
ナポリタン‥‥と、そのあたりはちょっと
「食べて痩せる」的には食べ過ぎ注意ですけれども。


【和知さんのケチャップ】

[材料]

・プチトマト‥‥1パック(またはトマト中2コ)
・赤パプリカ‥‥1コ
・塩‥‥1つまみ(人差し指にのる程度)
・白ワインビネガー‥‥小さじ1強
・きび砂糖‥‥大さじ1~2(最後のほうで味をみて調整)
・白ワイン‥‥300cc程度

[つくりかた]

1)プチトマトのヘタを取り半分に切ります。
2)赤パプリカのヘタと種を取り乱切りにします。
3)鍋に入れ弱火にかけます。
4)塩、きび砂糖、ビネガーを加え、
  白ワインを、ひたひたになるまで注ぎます。
5)30分ほど煮ます
  (焦げないよう、ときどきかきまぜます)。
6)味をみて、甘さが足りないようであれば
  きび砂糖を足します。水気がなくなり、
  パプリカがとろとろになったら火をとめます。
  硬いようであれば、水を足してさらに煮ます。
7)粗熱が取れたら、ミキサーやフードプロセッサーで
  ペースト状にしてできあがりです。

▲ほんとに塩はこれだけ!

 

これ、さっそく家でつくってみたんですよ。
ワインビネガーと白ワインを切らしていたので、
「開封済みの国産シードル(リンゴ酒。かなり甘め)」と
「もしかしてかなり前に開封したシェリー酒ビネガー」を
使いました。ある意味贅沢。
シードルがかなり甘いので、その分、きび砂糖を控えめに。
逆に、酸っぱいのが好きなので、ビネガーは多めに。
カンタンに、できました。
これがもう、おいしいったら!
オムレツが、すごくゴージャスな味になりました。
これ、「うんと甘いトマト」とかでつくったら
またおいしいんじゃないかなあ。
あと、赤ワインだとシブいのかなあ?
いろいろやってみたくなっちゃいました。
これからケチャップ買わない。自分でつくる!

▲倍量で作ったらこんなにできました。

和知さんのサラダ編、
来週の更新をおたのしみに!

マルディ・グラの和知さんと「ほぼ日」の武井。
ぼくにとって、「わるいめし」業界、
プロ部門、アマ部門の最高峰といえる二人。
最初は
「肉兄弟の二人がサラダ?
 肉をたくさん食べるためのつけあわせじゃないの(笑)」
くらいに思っていたんですが、
さすが和知さん!
武井さんがこの先の人生、
健康に肉を喰らい続けるためのサラダを
本気で考えてくださいました。
下の動画は「サルササラダができるまで」。
本当に何も加えてないんですよ。

2014-09-18-THU