マルディ・グラの和知さんの
「ていねいでおいしい野菜」
その3 温サラダは香りとスパイスで食べるのだ。

前回紹介した「野菜の出汁」について、
こんな質問をいただきましたよ。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

残った出汁って、保存できますか?
密閉容器に入れて冷蔵庫に入れれば
少しはもつかな‥‥と思うのですが、
やっぱり無添加なので、
もっても二、三日かな?
マルディ・グラさんでの保存法などを
教えていただけると嬉しいです。
(とみこさん)

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

ハイ、さっそく和知さんにたずねました。
和知さん、マルディ・グラでは、残った出汁や、
その「出汁がら」はどうしていますか?

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保存するなら冷凍がオススメです。
冷蔵庫なら、仰る通り二、三日です。
店では使い切りです。
贅沢ですが、
この出汁で魚介を茹でたりしても旨いです。

野菜自体は、
そのままポトフの野菜を食べるように、
マスタードと岩塩、
ブラックペッパーで食べてもよし。
ザクザク刻むか、
ピューレにしてスープで飲んでもよし。
カレーに入れてよし。
トマトソースに入れたりすると、
深みも出ますね。
フライパンで目玉焼きする時に一緒に入れて、
ベーコンか生ハムも入れて
トマトピューレとパプリカ(スパイス)の
バスク風とか。
あるいはポテサラに入れたり、
細かめに刻んで、
スパイスふりかけを足して冷や奴とか。
薬味(大葉など)を加えて
和え蕎麦にするとか。
自由自在です。

今思いつくのは、
それくらいかな。
(和知さん)

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

和知さんありがとうございまーす。
なるほどなるほど、無駄がなーい!

そういえばマルディ・グラでの取材の時、
和知さんが、残り野菜(切れ端とか)も
なるべく使うという姿勢に感激しました。
そういうのも、ごみばこじゃなくて、
出汁鍋にぽんぽん入れてた。
にんじんのむいた皮とか、
カブの葉っぱの要らないところとかも、
もったいないですもんね。いい出汁でるし!

で、その野菜の出汁ですが、
ぼくは瓶に入れて冷蔵庫で二日ほど保存し、
鶏肉を煮る(というか炊く)ときに使いました。
鶏と野菜の出汁が合わさっておいしかったですよ。
和知さんのいうように、魚介もよさそう。
アサリやハマグリと白身魚を
アクアパッツァにしたりね。
こんどやってみようっと。
「ピューレにして、スープで」っていうのもいいな。

▲これはカリフラワーとポテトとたまねぎを牛乳で茹でて、ミキサーでピューレにしたスープ。
 味は、混ぜるときにちょっと塩をするだけ。これを、出しがら野菜にしてもよさそうですよね。

ちなみに、和知さんといえば肉料理で有名、
ということは前にも書きましたけれど、
今回教えてくださっている野菜料理、
じつは歴史があります。

「もとはと言えば、
 長い事、僕の料理を召し上がっているお客様が居て、
 なんとか野菜を食べて貰おうと、
 考えた末に出した一つの方法なんですよ」

わー、なんてステキなエピソードなんだろう。
べつに、お客様が「こういうものを作ってくれ」
とおっしゃたわけじゃないらしいのです。
和知さんが、そのお客様の身体のことを心配して、
出している料理なんですって。
たしかにマルディ・グラ、肉がおいしいから
肉ばっかり食べたりしちゃうものなあ。
あ、そういえばぼくのテーブルにもよく野菜が出るな。
心配されてたんだなー。

☆イラスト 料理の音に耳を澄ませる和知さん

さて、今回もレシピに行きましょう!
まずは、和知さんのお返事にもあった
「スパイスふりかけ」です。
(前に画像だけ紹介しましたが、これです。)

▲カラフルでたのしい! しかも、カンタン。このまま、無味で、ぽりぽり食べられるおいしさ! 
 口の中に、いろんな香りが広がります。ちょっと無国籍な感じです。
 ちなみに、このスパイスふりかけに塩をまぜると、おいしい調味塩ができますよ。


【スパイスふりかけ】

[材料]
・生クルミ‥‥適量
・コリアンダーシード(ホール)‥‥適量
・白ごま‥‥適量
(以下は好みで加えても)
・生ヘーゼルナッツ‥‥適量
・フェンネルシード(ホール)‥‥適量
・ピマン・デスペレット(バスク産唐辛子)‥‥適量

[つくりかた]
1)材料をフライパンに入れ、中火で乾煎りします。
  (ピマン・デスペレットだけは煎らずに使います。)
2)香りが出てきたら、まな板に移します。
3)ヘーゼルナッツに薄皮がついていたら、
  手でもんでむいておきます。やけどに注意。
3)すり鉢でゴリゴリするか、包丁で粗く刻みます。
  包丁を使うときは、あとでまとめやすいように、
  まな板にオーブンシートをのせて刻みます。
  (ちょっと粗めのほうが食感がたのしめます。)
4)ピマン・デスペレットを加えて
  混ぜればできあがりです。

▲材料ずらり。基本はクルミ、コリアンダーシード、白ごまの3つです。ナッツ類については、
 和知さんは「煎り」ではなく、生ナッツを使ってました。ぼくも生ナッツ派です。ぽりぽり。

▲あまりなじみがないかもしれませんが、左のもみ殻みたいなのがフェンネルシード。
 噛むとちょっとミント的なさわやかな香気と、ほんのりしたあまさがあって、食後の口直しにいいかも。
 右のまるいのがコリアンダーシード。いわゆる香菜の「におい」はありません。
 おだやかで、苦味はなく(クセがなく)、柑橘系の香りを想像する人もいます。

▲香りが出るまで煎ります。そんなに長い時間じゃないです。

▲オーブンシート上で刻むとあとでまとめるのがラク!

さて、レシピのなかで入手しづらいのは
ピマン・デスペレット(piment d'espelette)かなあ。
スペインとフランスの国境をまたいでひろがる
バスク地方の名産の唐辛子ですが、
アジアや中南米の唐辛子みたいな辛さはなく、
ちょっと独特の香り(ドライトマトとか、
あるいは干し草みたいなとも言われます)がする。
たいてい瓶詰め、粗い粉末で売られていて、
フランスやスペインではわりと入手しやすいんですが、
日本で店頭に並んでるのを見たことは、
‥‥あんまりないかなあ。
都心のデパートにたまに
「どっひゃーっ!」っていう価格で
出ていることはあるのですが。
一味唐辛子(ちょびっと)で代用してもいいかな、
という案も出たのですが、辛いので、
なければないでいいと思います。

▲ピマン・デスペレット。おいしいんだけどねー!

では、このスパイスふりかけと、
前回の「カレーコーヒーオイル」を使った
にんじんサラダのレシピ、いきまーす。

▲ちょっと暗めですが、こんな感じ!


【にんじんのカレーコーヒーオイル温サラダ】

[材料]
・にんじん‥‥1本
・カレーコーヒーオイル‥‥大さじ1程度
・塩‥‥少々(ひとさし指にのる程度)
・バター‥‥20g程度(香りづけなので少なくても可)
・スパイスふりかけ‥‥適量

[つくりかた]
1)にんじんの皮をむき、細いせん切りにします。
2)フライパンを熱し、カレーコーヒーオイルを入れます。
3)にんじんを入れます。
4)塩をひとつまみして、
  ひとさし指の先にのる程度、入れます。
5)中火で、焦げないように混ぜながら、
  しんなりするまで炒めます。
6)しんなりしたらバターを入れて溶かします。
7)皿に盛り、ふりかけをかけてできあがりです。

▲塩はほんとにこれだけ!

▲しっしょく、試食~♪

▲ぱくりっ!

「にんじんの甘みで、食べられるでしょう?」

うみゃーい! おいしいおいしい!
和知さん、これ、すごいですね!
あれだけしか塩が入っていないとは思えない、
ゆたかな味がしますよ。
バターを使っていることもあって、
その香りと、もともとのカレーコーヒーオイルの香り、
そしてにんじんの糖分が加熱されて出た
カラメル香みたいなものがまじってます。
これ、ジャポンじゃなーい。おフランスざんすよ!
ワシャワシャ食べられます。ひとり1本いけます。
しかも、スパイスふりかけが、
ポリポリとした食感と、複雑な香りをプラス。
まいったああ!
☆イラスト 料理の音に耳を澄ませる和知さん

「じゃあもうひとつ、“焼き”系の、
 野菜料理をつくりましょう」

▲つづいては、こちら!


【カブの焼きサラダ、ケチャップとサルサ添え】

[材料]
・くるみオイル‥‥大さじ1程度
・カブ‥‥1コ(野辺地葉つきこカブを使用)
・塩‥‥粒の大きいものを少々
・ケチャップ‥‥適量(自家製)
・青唐辛子のサルサ‥‥適量(自家製)
 ・青唐辛子‥‥3本
 ・塩‥‥少々(ひとさし指にのる程度)
 ・白ワインビネガー‥‥小さじ1程度(好みで加減する)

[つくりかた]
1)青唐辛子のサルサをつくります。
  まず青唐辛子を刻みます。
  手につくとあとで痛かったりするので、
  ゴム手袋をするといいですよ。
  塩と白ワインビネガーをまぜればできあがり。
  全工程を一気にフードプロセッサーでやっても
  大丈夫です。
2)カブの葉をおとし、6等分します。
  根元の土をよく洗ってから水気を切ります。
3)フライパンを熱し、くるみオイルを入れます。
4)カブをこんがり、焼き目がつくように焼きます。
5)皿にならべて、1切れに4粒ほどの塩をのせ、
  ケチャップとサルサをそえてどうぞ。

▲これが和知サルサだ!

これはねー、まずサルサがポイントなんです。
いままで出てこなかった、ホットな辛み!
青唐辛子ですから、香りも鮮烈です。
そしてつくりかたがすごくシンプルなのもいい。
だって青唐と塩と酢だけですよ。

「タバスコの裏を見たら、
 それしか書いてないから、
 その成分と同じようなものを使って、
 ちょっと食感が残る程度の加減にしました。
 今回、日もちしないバージョンですが、
 日もちさせたいのであれば,塩を強くして、
 柚子胡椒みたいにするといいでしょうね」

ああ、そのまま食べると辛っ! うまっ!

☆イラスト 料理の音に耳を澄ませる和知さん

そして油もポイントですね。くるみオイルです。
このオイル、フライパンで熱するだけで、
えもいえぬいい香りがしてくるのです。
ナッツ香というか、ちょっと媚薬っぽいような?
媚薬って嗅いだことないですけど、
ぽわ~んとなるようなイメージね。

「くるみオイルって、
 わりと価格が高いので、胡麻油のように、
 香りがほしいときにちょっと使うんですよ。
 こんなふうに、香りに奥行きのあるオイルは、
 高価ではあっても、少量ずつ使えば、
 1回あたりで考えたら、
 そんなに気にするほどではないので」

そうですよね、摂取量にたいして満足度が高い。
つまりコストパフォーマンスが高いですよね

▲オシャレな瓶ざんす! くるみオイルはフランス語で「Huile de noix」(ユイルドノワ)っていうらしい
 ざんすよー。

あとこのカブ! すごくおいしい。

「そうですね、そもそもおいしいカブを使いました。
 青森の野辺地っていうところのカブで、
 10月くらいまで収穫されるんですが、
 ほら、皮がむけちゃうカブなんです。
 糖度が非常に高くておいしい。
 12~3度あるんじゃないかな。
 もちろん生で食べてもいいですが、
 焼くと、またちょっとおいしいんです」

▲なんと皮がむける! 生だったらこれもいいな。焼くときは皮ごとでしたけれど。

そしてさらなるポイントは、塩の使い方。
なんと、1かけに対し、
ほんのちょっと(4粒ずつ!)のせるんです。

「こういうときは、細かい塩じゃなくて、
 大粒の塩を使うといいですよ」

ああ、ほんとうにいい「あんばい」。
にんじんサラダもそうだったけど、
圧倒的に塩分がすくないですもんね。
そして野菜だけでこの満足度ってすごいなあ。
(ちょっとバター使ったけど。)
ベジタリアンになってもやっていけるんじゃないか。
‥‥ならないだろうなあ。

▲つくってみたよ。ヘーゼルナッツがなかったのでかわりにアーモンドやカシューナッツを入れてみました。

▲にんじんがなかったので小松菜をカレーコーヒーオイルで炒めて、味付けはにんじんと同じに。
 にんじんのあの甘さがないのが物足りないけど、これはこれでおいしかった! 
 和食器で見た目も和食っぽいけど、すごくあたらしい味でした。

ではまた次回! 和知さんのレシピ編、つづきまーす。

注意深く読んでいる読者のみなさまはお気づきでしょう。
このコンテンツには「2種類」の写真があることを。
今回、この下にアップした動画は
「スパイスふりかけ」なんですが
デザイナーの岩黒くんがパシャパシャと制作過程の
写真をとっているんですね。
コンテンツ的には、これで十分といえば十分なんですが、
そのあとに続く、やたら解像度の高い写真の数々。
これ、シェフ武井が自宅でライティングしながら
撮影したものなんです。
厨房での撮影は暗めの写真が多かったのが
彼の美意識(笑)には許せなかったのでしょうか。
スパイスを「ターク」のフライパンに並べてみたり、
素材が引き立つ器を考えてみたりと、
素人カメラマンとは思えない熱のいれっぷり。
そのあたりは「アンチエイジングインスタグラム」でも
楽しむことができますよ!

2014-10-02-THU