これから短期連載で
「Fukushima Food Safety Conference」の
企画に関わって感じたこと、
考えたことを書いていきます。
食をテーマにしたミラノ万博開催中の9月22日、
ミラノ中央駅の前にあるロンバルディア州庁舎のホールで
福島を題材に「食の安全」について
議論したカンフェランスです。
イタリアには原発アレルギーがあります。
1986年、チェルノブイリ原発事故では
生鮮食品が出荷停止になり、
食を愛するイタリア人にとって
トラウマとなった歴史があります。
チェルノブイリ事故の翌年、
イタリアでは8割の国民が原発にノーと投票した結果、
廃止されることになります。
その後、原発再開が検討されましたが、
福島の原発事故の数か月後に行われた国民投票で、
またもやノーの答えがでました。
よって福島の原発事故処理に対しても
懐疑的な人たちは少なくない。
ということは、福島産の食品についても
本音ベースでは躊躇する人が少なくない、
ということになります。
「検査をパスした食品のみが市場に出ているといっても、
データは改ざんされているのではないか?」と。
ただ、それは日常生活のなかであまり表立たない。
1万キロ離れた遠い場所の事故で、
福島産の食品が市場に目につかないからです。
ソーシャルメディアをみても、
福島が話題になるのは原発関係で
ネガティブな情報が流れた時だけ。多くの人は忘れています。
ぼくは昨年から東北食材をヨーロッパ市場に
紹介するプロジェクトに参加しています。
そこでイタリア人の福島の食に対する
躊躇を感じ取ることが何度かありました。
日本をそれなりに知って
和食ファンを自認する親日派さえにも
「データそのものを信じてよいか分からないから、
福島の食品を他人には勧められない」
と言われるとウーンと唸るわけです。
極端にネガティブなことを言う人に振りまわされるのは、
やりきれないなあと思い始めます。
一方、昨年10月に糸井重里さんと早野龍五さんの
『知ろうとすること。』を読んで、
福島の問題はこのように整理して
考えると良いのかと腑に落ちました。
放射線への正しい怖がり方、科学の日常生活での位置、
極端なメッセージに惑わされないための心構え、
コミュニケーションの仕方‥‥
ここには多くの知恵とヒントが書かれていました。
原発や放射線について、
インターネット上の情報に翻弄されていたぼくは、
震災後の3年間、イタリアの人の
「福島はどうなの?」という質問に
なかなか確信をもって答えられなかったのです。
極端には嘘があると感じながら、
はっきりとそれに抗弁できませんでした。
が、この本を読んで、
どう答えればよいかの指針が得られました。
『知ろうとすること。』こそが、
イタリアの人たちに話すべきことだ。そう思ったのです。
「Fukushima Food Safety Conference」
の主催は東北経済連合会です。
「東北の経済に利することを目的とする団体が主催するなら、
イベントの趣旨も通じやすいはずだ」と、
イタリア側の協力者たちから支持を得ました。
当初、すべてからニュートラルに見えるように
主催を○○実行委員会とするアイデアもでました。
しかし、開催企画の動機がはっきりする
公的立場に近い団体が声をあげている方が、
余計な疑いをもたれないと
コミュニケーションの専門家にアドバイスされたのです。
早野さんには、福島で放射線の被ばく調査を
独自にやられてきた結果を語っていただきました。
また、早野さんの指導のもとで
外部被ばくの国内外調査を実施した
福島高校の生徒さんも現状を発表してくれました。
イタリア側からはこの夏、
福島県にミラノ大学の数人の学生たちと一緒に訪れた先生、
生鮮食品流通企業のCEO、
食品安全検査を請け負う会社のコンサルタントなどが
パネリストとして参加してくれました。
その結果、「データの改ざんはないのか?」と
しつこく質問を繰り返していたイタリア人が
態度を変えたのを見たのです。
彼はフェイスブックで他の人の疑心暗鬼な言葉に
反論をはじめていました。
「早野さんの活動をみてからモノを言うべきだ」と。
ジャーナリストたちも、書かれた記事をみると
「原発処理にはまだ難しい問題が立ちはだかり
時間がかかるだろう」と強調のかたわら、
早野さんや高校生の発表内容に
真っ向から疑念を示すことはありませんでした。
もちろん、カンフェランス終了後に早野さんに
「甲状線がんや長崎や広島にあったような
予想される差別の問題はあるか?」
と質問してくる人はいました。
早野さんがデータを示しながら、
科学者らしい説明をすることで
相手も一呼吸おいて考える大切さを
感じ取った印象をぼくはもちました。
しかしながら、道は長いです。
それも同時に思いました。途方もなく、です。
キャンペーンのようなカタチで
福島の食の安全を説いても人は信用しません。
時間をかけて丁寧に語りかけるのがベストだからです。
イタリア国営放送でミラノ万博の
ドキュメンタリー映像を作っている
長澤愛さんという方がいます。
彼女は「福島の食品 個人的なこと?」というビデオを作り、
今年3月11日にサイトにアップしています。
これです。
日伊の専門家たちにインタビューした結果、
「福島の食品を食べるか、食べないか?」は
個人の嗜好レベルに落とし込む問題なのか?
と問うています。
ローマ大学の先生は、
「米がタイ製か日本製かは問題ではない。
数値が基準値に入っているかどうかの問題だけだ」
と語ります。
カンフェランス終了後、長澤さんの問いに対して
もう少し検証してみたいと思いました。
「こういうことがまだよく分かっていない、
このぼくは」と反省しながら。
また、どういうモチベーションであれば、
1万キロ離れた場所の問題を自分のことに置き換え、
それを他人とも共有できるのか。
繰り返しますが、キャンペーンとせず、です。
この8月、糸井さんに
「傍観者のようにイベントについて
書いてみてくれませんか」
というアドバイスを頂いていたのがきっかけで、
ぼくの頭の中ではカンフェランスが終わってから
「傍観者」がキーワードになってきました。
その結果、カンフェランスをオーガナイズした
いち当事者というよりも、
カンフェランスに関わってくれた人や参加してくれた人に
第三者的に取材してみようと思うに至りました。
糸井さんは、ぼくが当事者として書いたのでは
行き詰ると見越していらしたのだ、
と今更になって気づきました。
ミラノ大学で日本語を教えるティツィアーナ・カルピさんは、
この夏に福島県農業センターなどを学生たちと見学しました。
カンフェランスでは、その滞在経験を発表してくれました。
彼女が、こう語ります。
「やはり、事故後の日本政府の対応に不信感をもちました。
でも世の中には100%信じられることはないし、
100%信じられないこともないと思うのですよ。
しかも1つ1つ疑っていても何もスタートできない」
そして、
「それなら何を信じるか、
これを自分で決めたいと思いました」
と言葉を継ぎます。
「いつからですか?」とカルピさんに尋ねると、
「2014年です」との返事。時間の経過はどうしても必要です。
(つづきます)
2015-11-25-WED
ミラノで開催されたシンポジウムの報告会に
早野龍五さんと糸井重里が出演します。
『食の安全と正しい情報の伝え方 日伊共同シンポジウム報告会』 |
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日時 |
2015年12月9日(水) 午後6時30分~8時(予定) |
会場 |
内田洋行「ユビキタス協創広場CANVAS」 (東京都中央区新川2-4-7) |
主催 | 一般社団法人 東北経済連合会 |
受講料 | 無料(定員100人・申込先着順) |
くわしくはこちらからどうぞ。
「日伊共同シンポジウム報告会」開催概要ページ
10月末に閉幕したミラノ万博について、
ローカリゼーションの視点から
安西洋之さんが語るイベントが開催されます。
『ミラノ万博とローカリゼーション ~ミラノからの情報発信の意味を考える~』 |
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日時 |
2015年12月15日(火) 午後6時30分~8時30分(予定) |
会場 |
JIDAギャラリー (東京都港区六本木5-17-1 AXISビル4階) |
主催 |
公益社団法人 日本インダストリアルデザイナー協会 |
受講料 |
JIDA会員 2000円 一般 3000円 学生 1000円 (定員20人・事前の申込が必要です) |
くわしくはこちらからどうぞ。
「ミラノ万博とローカリゼーション」開催概要ページ