冒険王、 横尾忠則。   横尾さんの展覧会で、横尾さんにお会いしました。 「‥‥あなたという人は!」と 何度も叫びそうになりました。すごいです。 さぁ、みなさん。ご本人といっしょに 横尾忠則さんのすばらしい冒険の記録を 見て回りましょう。
012 怖い鑑賞者。
 
糸井 もう構図のことは訊かないつもりですが、
それでも「何それ」と言いたくなりますね。
こういうことをよく思いつきますねぇ。
横尾 構図が好きだね、糸井さんは。
糸井 この絵は、Y字路も、お風呂も入って、
三島さんも入ってる(笑)。

横尾 いろいろ、入ってますよ。
全部入ってる。
糸井 深沢七郎さんも
ギター弾いてますね。

横尾 だって、石和だから。
ほぼ日 左奥に「種まく人」までいます。

横尾 だって、それも山梨だもん。
塚田 (学芸員の塚田さん)
「種まく人」は山梨県立美術館収蔵作品です。
横尾 ぼくは、無駄なものは
何ひとつ描いておりません。
無意識はありません。
一同 (笑)
糸井 三島さんって、いろんなふうに語られるけど、
みんなに好かれてますね。
横尾 結局、そうでしょう。
冷やかしてる人も含めて、
みんな好きなんですよ。
糸井 吉本隆明さんもそうだけど、
みんななんだか、
三島さんを丁寧に扱うんですよ。
横尾 ぼくも丁寧に扱われたいね。

糸井 川と船の絵は、シリーズで
いくつかありますね。
この絵は、3人の女性の描き方が
すべて違いますよ。
見事だなぁ。
いろんな描法を混ぜるというのは、
本当にたのしいですね。

横尾 この辺のやつ、ちょっと採点してよ。
塚田 お近くに寄って、ご覧ください。
糸井 どれどれ‥‥うはははははは、
「努力を要す」とか、
絵に書いてあります。
「よくできました」
「たいへんよくできました」



横尾 すでに、やってあるわけよ。
糸井 どちらかというと「努力を要す」だらけですね。
「努力を要す」だけでなく、
バッテンまでつけられてるところもありますよ。
横尾 もうね、他人に批評されたくなかったんです。
ここは、どう見ても
中途半端でしょう。
完成はしてないし、投げやりっぽいし、
何が言いたいのか、わかんない。
それが批判の対象になるから、
その前に自分でやっておきました。
まったく、人は余計なこと言うからね。
糸井 「うるさい」と。
横尾 わかってんだから。
自分で全部、
ちゃんと自分批評してるんだから。

糸井 あ、川のY字路もありますね。
‥‥このソフトクリーム、
先がちゃんと穴になってます。
ソフトクリームの看板の先が
穴だと知ってる人は、
そんなにいないでしょうけど、
横尾さんは、ご存知でしたね。

横尾 実際そうですからね。
ほぼ日 はじめて知りました。
糸井 釘で掛けられたりできるように
なってるんですよね。
横尾 穴が開いてると、イヤリングにもなるし、
ネックレスにもなるし。
塚田 そろそろ最後のほうの作品に
なってきましたよ。
横尾 この絵なんて、
どこもすごくないところが
すごいでしょう。
塚田 私は最初、これをアトリエで見たときに
誰の絵かわかりませんでした。
糸井 この、付着してる、
キラキラしたものは
何なんですかね。

横尾 ‥‥いま、糸井さんが「付着」って言ったけどさ、
この絵だと、ぼくは
そこが好きなんですよ。
糸井 ねぇ。だって、そうでしょう。
この絵だと、そうでしょう。
横尾 それがなきゃ、
この絵、なんてことないんですよ。
糸井 女の人は、もっと色とりどりに
付着してますね。
横尾 そういう役割の人なのよ。
糸井 これは、光とも言い切れないんだよなぁ、
気になりますね。
横尾 「付着してる」というところを指摘する
鑑賞者って、怖いよね。
こちらを見透かされてる感じがするんだよ。
ふつうだったら、疑問を持たないで
「そういうもんだ」と思って、見ると思うわけ。
「これ何だ?」と言い出すのは、
糸井さんと、ガキだけかも。
糸井 ガキは言いますね。
横尾 ガキに「この絵はどこがおもしろい?」
って訊いたら、たぶん、
いま糸井さんが言ったところに、
興味を持つと思うのね。
怖いなぁ、糸井さんは、ホントに。

糸井 これで、おしまいですね。
いやぁ〜楽しかった!
なんやかんや言って
とばし気味に見ましたけれども、
まともに見たら、すっごい時間かかりますね。
塚田 急いで見ても、1時間半ですから。
糸井 本当に、おもしろかったです。
世田谷美術館での会期はあと少しだけど、
みんなに見てほしいです。
ありがとうございました。
  (おしまい)


これで「冒険王、横尾忠則。」の連載は終わりです。
ご愛読、ありがとうございました。
ご感想などを、どうぞ
postman@1101.comまでお寄せください。
 
2008-06-09-MON
前へ 最新のページへ  
(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN