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─── イセキさんは、バイヤーというお仕事を
いつ頃からはじめられたのでしょう?
イセキ 雑貨やジュエリーの買い付けの仕事は、
京都の「恵文社一乗寺店」
というところで、はじめて経験しました。
23歳のときです。
─── 「恵文社」にいらしたんですね。
わたしたちも京都に行くときには
よく寄らせてもらっている個性的な本屋さんです。
イセキ そこでスタッフの募集があり、
応募をしましたら、採用してくださって。
それで、働きはじめることになりました。
─── やはりちいさいころから雑貨が好きで。
イセキ それが、そういうわけでもないんです。
─── え? あ、そうですか。
とくに雑貨好きではなかった。
イセキ もちろん嫌いではなかったです。 
でも、バイヤーというよりは
ずっと高校の古典の先生になりたくて、
大学では平安時代や室町時代の文学を専攻していました。
─── 古典の先生。
たしかに、かわいい雑貨とは関係がないような‥‥。
イセキ 4回生のとき思うところあってその道は諦めましたが、
けっきょく、教育関係の会社に就職しました。
「恵文社」はふたつめの勤め先です。
─── 買い付けのお仕事はすべて
「恵文社」で覚えたわけですね。
イセキ ええ。
仕入れも販売も初めてでした。
ですから、1年目は‥‥。
社長も同僚の皆さんも
かなり大目に見てくださっていたと思います。
─── 最初はたいへんだったんですね。
イセキ もともとは、書店の担当になりたくて
履歴書を持っていったんです。
そうしたら、面接のときに
「募集したいのは、ギャラリーと
 雑貨スペースのチーフなんです。それでもいいですか」
といわれて。
あ、でも、書店に併設された空間だから、
それもすごく面白そうだし、やってみたい、
という気持ちになりました。
─── なるほど。
そういうふうにスタートして、
どのくらいの時間がかかったのでしょう?
自信をもって「この仕事が好き」と思えるまでに。
イセキ それは、どのくらいだったか‥‥。
‥‥2年目の終わりごろだったでしょうか。
無我夢中でやっていたら、そのくらいでようやく
自分の好きなものの傾向が見えてきました。
─── それはどういう傾向ですか。
イセキ ファンシーすぎず、かわいい中にも
どこか渋さや、シックな部分があるとか、
ちょっと笑えたり、
作り手の工夫が感じられるもの。
─── ピンとくる「座標」がわかってきた。
イセキ ええ。
海外のギフトショーや蚤の市へ行かせてもらうたびに、
自分の好みがどのへんにあるかが少しずつ見えてきて、
それで、なんだかこう、
すごくたのしくなってきたんです。
─── 自分が売り手ではなく、
お客さんになっていく感じでしょうか。
イセキ そうですね、そうでした。
社長から方向性などについてよく意見をいただいたので、
それと、いち顧客としての感覚を軸に
店の品物の構成を考えるようにしていました。

─── そこから現在のイセキさんまで、
どのようにつながっていくのでしょう?
イセキ 20代後半に入って、そろそろ、
昔から憧れていたイギリスに住みたいな、と。
学生時代に訪れたことがあって、
それ以来、夢だったんです。
─── フリーランスになって、ロンドンに渡った。
イセキ はい。
そして、その翌年に、
アンティークやヴィンテージのジュエリーを販売する、
日本人向けのオンラインショップ
「tinycrown(タイニークラウン)」をはじめました。
─── ロンドンを拠点にして、
どういう場所に品物を探しに行くんでしょう?
イセキ 基本的には、蚤の市です。
蚤の市にもいろいろ種類があって、
たとえば、アール・ヌーヴォーの蚤の市とか、
ミッドセンチュリーの蚤の市とか。
時代ごとにターゲットを絞った蚤の市も開かれています。
そんな中でわたしは、
「アール・デコ」と名の付いている
蚤の市によく足を運びます。
─── その時代のものがお好きなんですね。
イセキ ええ。ロンドン市内でなくても、
南イングランドやスコットランドの近くの町に、
多数のディーラーが出店する場所があるんです。
そこはジュエリーだけじゃなくて、
家具とか食器とか彫刻とか、なんでもあり。
ですから、体力次第ですね(笑)。
─── はあー、やっぱり膨大なんですね。
「骨董の国」という感じです。
1回探しに出かけて、
どのくらいの数、見つかるものなのでしょう?
イセキ 数は、そうですね‥‥
パーッと見て、
大きな蚤の市だったら、だいたい10点くらいでしょうか。
─── 10個。
イセキ ないときは、3つとか4つとか。
─── 先ほどうかがった、
イセキさんがピンとくる
「座標」に合うものを探しているわけですよね。
イセキ はい。
あとは、わざわざイギリスから発信するのですから、
「あ、それ日本でも買える」と思われるものは、
やっぱりちょっと、わたしもたのしさが減るんですね。
ですから、できるだけ、
珍しいものを見つけたい気持ちもあります。
─── ‥‥なんだか、
「狩り」のお話をうかがっているようです。
イセキ ああ、ほんとうですね(笑)。
──── ジュエリー・ハンティング(笑)。
イセキ ええ(笑)。

─── あらためて、このお仕事は
どういうところがいちばんの魅力ですか?
イセキ うーん‥‥いっぱいありすぎて(笑)。
でも、そうですね、
その品物が作られた年代を割りだして、
作り手や当時の様子に思いを馳せることができるのは、
この仕事の魅力のひとつです。
─── そうやってたくさん見ていく中でも、
とくにお好きなのが、
先ほどおっしゃっていたアール・デコ。
イセキ そうです。
他の時代のジュエリーもそれなりに魅力がありますが
なぜアール・デコにいちばん惹かれるかというと、
現代のファッションでも
合わせやすいデザインがすごく多いんですね。
かわいいけど、ちょっとシックで、
品があってユーモアもあって。
─── イセキさんの好きな「座標」。
イセキ はい。
─── そこにぴったりのものを探しだしても、
それが売れれば自分から離れていくわけで。
‥‥ちょっと、儚いですね。
イセキ そうですね、儚いです。
─── 手放したくないものもありますか。
イセキ それをよく聞かれるのですが、
結局、自分で持っていても、
わたしひとりがつけるだけなので。
だったら、誰かによろこんでもらえたほうがうれしい。
─── なるほど。コレクション欲はない。
イセキ ないですね。
もちろん、すごく気に入ってるデザインのものが
売れて行くときの、こう、なんだろう、
ちょっと淋しい気持ちはあるんです。
でも、それを買ってくださった方から、
「うれしい」というメールをいただくと、
もう、そんな淋しさはどうでもよくなります。
─── イセキさんは、
「見つけたよーっ!」っていう人ですね。
イセキ そう(笑)、そうですね。
─── 「かわいいのが、あったよーっ!」って言う人(笑)。
イセキ はい(笑)。
─── 探すのは、おひとりで?
イセキ 基本的にひとりです。
すごく、意識を集中させて、
見落とさないよう、
気を張っている部分があるので。
─── ますますハンティングのお話のように‥‥。
イセキ あ、ほんとですね(笑)。
─── (笑)そうやって狩りに出たイセキさんが
探しだしたブローチたちを、
「ほぼ日」でひとつずつ
ご紹介いただけることになりました。
イセキ はい。
毎月テーマをひとつ決めて、
そのテーマのブローチを、見つけられた数だけ。
ですから、3つ4つお見せできることもあれば、
ひとつしかご紹介できない月もあるかもしれません。
─── そこは、狩りですからね(笑)。
イセキ はい。そうですね(笑)。

以上で、プロローグを終わります。
イセキさんのお人柄や、そのお仕事の魅力が、すこしでも伝わればうれしいです。

来週の月曜日、いよいよ本編がはじまります。

探して見つけたブローチを、イセキさんご自身が撮影し、文章を添えて、
ロンドンから送っていただくコンテンツです。

更新は不定期ですが、毎月どこかにひっそりと登場。
どうぞ、しずかにおたのしみに。
さて、記念すべき最初のテーマは‥‥?

(本編に続きます)

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2013-05-24-FRI

 

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