HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN 佐伯チズさんにはできるけど、 わたしにはできないという理由? 2


第2回 理由があります。
糸井 スタッフのみなさん、
お化粧をしてらっしゃらないですよね?
佐伯 はい、していません。
素肌感を見ていただきたくて。
糸井 そのおかげで、なんだかこっちは
「受け入れてくれるんだ」って
思っちゃうんですよ。
チズさんの指示されているところ、
いちいちすごいなぁと感心します。
そのあたりの快適さが、
とにかく「うれしい」んです。
佐伯 わたしがつねづね考えているのは、まず
「安心して行けるエステ」
ということです。
糸井 ああ、そこはとてもよくわかります。
佐伯 エステに行くのに
「何をされるかわからない」と
躊躇される場合があるとしたら、
そんなこと、あってはいけないでしょう。
糸井 チズさんのサロンは、
とくかく安心できる雰囲気があります。
もっと上手に色っぽくしたほうが
お客さんは来やすいかな? と
考えがちなんだけど、そうじゃない。
佐伯 心身ともリラックスして
きれいになってもらいたい、と考えているので、
わたしたちスタッフが
お客さまに媚びる必要はないと思うんです。
化粧品やチケットを売らなければいけない!
と思ったり、
また来てもらおうと躍起になると
媚びてしまうことになるかもしれない。
うちが技術料だけをいただくことにしているのも、
回数券式のチケットではなく
1回ずつの料金設定にしているのも、
「次、お気に召したらどうぞ」と
お客さまに選んでいただくことを
大切にしているからです。
糸井 お客もお店も、お互いにそのほうが
やりやすいですね。
佐伯 そうだと思います。
糸井 サロンのスタッフのみなさんも、
とてもきれいな方だった印象があります。
あごのラインも、もうパシーンとしてて‥‥
小魚のような‥‥稚鮎みたいになってる(笑)。
見事ですよ。
お手入れで気をつけていらっしゃることは
ありますか?
佐伯 そうですね。
髪型や身だしなみ、私生活にも
いろいろと気を配ることは
エステティシャンにとって
とても重要だと考えているんですよ。
トリートメント中はマスクをしますし。
糸井 お客さんに息がかかっちゃうから?
佐伯 はい。
歯磨きをいくらていねいにして
気をつけていても
お昼や前の夜に何を食べたか、
口臭として出てきてしまうものです。
トリートメント中はお客さまが
横になっていらっしゃるでしょう?
人間は、寝ころんだ状態のときに、
もっとも感じやすくなるんです。
匂いもよくわかるし、音も聞こえるし、
振動も感じやすくなります。
歩く音も響きますので、
スタッフはヒールのある靴を
履かないようにしています。
そして、なおわたしたちは
いちばん敏感な、神経の集中している
お顔の近くに座らせていただくことになります。
匂いという理由からも、
化粧はしないのが基本です。
糸井 ほおぉ。
佐伯 うちは、煙草を喫う人は採ってないんですが、
それは口臭ということだけでなく、
指からも匂いがしてしまうからです。
髪の毛にもいろんな匂いがうつりますでしょ?
ニンニク、ネギ、タマネギ、ニラを
食べるのは、休みの前日に。
糸井 すごいなぁ。
佐伯 だって、頭の上にいるんですからね。
糸井 はぁああ、すごいな。
生徒さんたちは、肌がきれいなだけでなく、
姿勢もいいですよね。
さすがだなぁと思っていたら、
チズさん、注意なさってましたよね、
「疲れるでしょ?」って。
佐伯 はい。姿勢が悪いと腰を悪くするんです。
また、姿勢が悪いと
うまく力が入らないので、
施術のときに正しく手が入っていかないんです。
ですから、座る姿勢は、とても大切です。
糸井 姿勢は、テクニックにも
影響してくるんですね。
しかも、お客さんが、見ていて気持ちがいいし。
佐伯 そうなんです。
お客さまは、ほんとうに
いろんなことを敏感に感じられます。
わたしたちはできるだけ、
神経をゆっくりと休めていただけるように、
ライティングや香り、
外気との温度差、それから音にも気を配ります。
糸井 部屋の香りはどうしてるんですか?
佐伯 京都から取り寄せたお香を
焚かせていただいています。
糸井 「和」のほうのお香なんですね。
佐伯 「和」のお香です。
お花は1輪だけ、ユリの花です。
わたしどもで使っているお香は
だいたい2時間ぐらいもちます。
それを、お客さまがおいでくださる
30分前からたいておくと、
施術が終わる頃には、
その残り香だけを感じていただき、
最後に、1輪だけ飾ってあるユリの香りを
たのしんでいただけます。
化粧品も、基本的には匂いのないものか、
天然のバラの香りを使う程度にしています。
そして、音は波の音。
お客さまが横になられる椅子は、
マッサージのような
ローリングマシンがついたものを使用しています。
糸井 ああ、あれ、
変わった椅子だなと思ってたんです。
佐伯 わたしたちのサロンの施術時間は2時間半です。
2時間半って、ふつう、
じっと寝てられないですよね。
ですから、背中でゆるやかにローリングが回って
からだが動けば大丈夫かな、と試してみたんです。
糸井 それぞれ、チズさんがひとつずつ
足し算するように考えていったんですね。
佐伯 はい。音楽も、
川のせせらぎ、虫の音、海猫の鳴き声、
いろいろ試しました。
そうして、波の音がいちばん
落ち着くとわかりました。
ずーっと聞いてても、たぶん大丈夫。
糸井 お部屋やガウンの色は、
なぜピンクにしたんですか?
佐伯 世界中の女性が
いちばん好きな色だからです。
ランキングの1位、2位がいつも
赤かピンクなんですよ。
糸井 なるほど。
佐伯 けれども、日本人は、
特に年を重ねると、
ピンク色の服を着る勇気がないと
おっしゃる方が多いんです。
それだったら、
こういうところに来ていただいたときに、
みなさんがかわいいとおっしゃるピンク、
憧れのピンクを着ていただけるように、と
思いまして。
お部屋は淡ーい、白に近い
ピンクにしています。
糸井 それぞれに個室ですよね?
佐伯 そうです。
各部屋にトイレを完備しています。
水をたくさん飲んでいただきますので、
途中でお手洗いに行きたくなっても
「どうぞ」とおすすめできるように。
糸井 ぜんぶ理由があって‥‥夢の世界ですね。
佐伯 ここにいらっしゃるときぐらい、
できるだけ快適にしていただきたいんです。

(続きます)

2010-01-05-TUE

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