糸井 | お客さんに対しても、生徒さんに対しても、 サービスのてんこ盛りみたいなものを 売ってるんですね。 |
佐伯 | はい。 もう、やっぱり必死なところがあります。 |
糸井 | 「小チズ」育てを。 |
佐伯 | はい。前期、リウマチにかかって 手がうまく動かせない生徒が スクールにいました。 |
糸井 | 入学はされたんですか? |
佐伯 | はい。 受け入れた以上、私は、 みんなと同じように、 お客さまの顔の筋肉が上がるような方法を 考えなくてはいけません。 彼女の手が動く部分を教えてもらって、 特別にやり方を編み出しました。 彼女は、40歳を過ぎて 両親を抱えていたんです。 結婚しないで両親のために 仕事で独立したいといって入学しました。 だから、ご両親を安心させなくてはいけない。 |
糸井 | はい。 |
佐伯 | 私が手技を工夫して考えたことで、 彼女は感激して、 「がんばります」と言ってくれました。 |
糸井 | もう卒業なさったんですか? |
佐伯 | しました。 先のコースも取って、 立派に独立しました。 もう、がんばりが違いましたよ。 |
糸井 | 手が動かなくても。 |
佐伯 | そうです。 気持ちさえあれば、 いくらでも私は考えて 教えることができるんです。 「佐伯さんのスクールは お肌のきれいな人しか採らない」 と言われることもあるんですが、 人をきれいにしたいという人を 採るようにしているわけですから、 肌がきれいな人ばかりではありません。 ニキビがたくさんあった子だっています。 |
糸井 | それはほんとのことだから、 伝わりますよね。 |
佐伯 | はい。多汗症の人もいました。 「べたべたに汗かくんですけど無理ですか」 と言ってきました。 緊張したりドキッとしたときに 汗が出るというんです。 |
糸井 | うん、うん。 |
佐伯 | だったら施術中にドキッとしなくなればいいし、 保冷剤で冷やしながらやっていけば大丈夫。 このお客さまを ひとりできれいにさせていただこう、 まっすぐにそう思えば ドキッとしないでしょうし、 そういう訓練をすればいいんです。 「私もスクールに入れる!」と思ったら、 もうそれで彼女は大丈夫でした。 お客さまだって、 どういう方が来るかわかりません。 それにきちんと対応するためにも、 スタッフの側だって、 どんな人でも受け入れて 技術を教えてあげたいという 気持ちがあるんです。 |
糸井 | たくさんいる生徒さんのためにも、 ご本人が活動なさることが 関わってきますから、 やることはどんどん重くなりますね。 |
佐伯 | 卒業で送り出せば送り出すほど、 責任が出てきますよね。 ほんとうに、親ガメは大変です(笑)。 |
糸井 | チズさんの、てんこ盛りっぷりはすごいなぁ。 ぼくは、これからはきっと、 「あの人じゃなければ」ということが 仕事になると思っています。 |
佐伯 | はい。 |
糸井 | 「あの人でなければ」という要素って ほとんどが、昔で言う、 「大盛りにしといたからね」という サービスだと思うんです。 昔は「物」だったり「量」だったりしたけど、 いまは「考え」や「思い」の てんこ盛りですよね。 |
佐伯 | はい。ですから、お客様が、 「ああ、もうここまでしてくれるの!」と 喜んでくださるのが わたしたちはやっぱりいちばんうれしいです。 それは、時間かもしれない、内容かもしれない、 その方に合ったものを集中して さしあげるんです。 |
糸井 | それはいちいちの、 お客さんに合った計らいですから、 頭使いますよね。 |
佐伯 | そうですね。 基本的なところだけは、 はじめのカウンセリングでうかがいます。 「強めがお好みです」 「波の音はお嫌いです」 西洋人の方は 暗い部屋がお嫌いなことがありますし、 2時間半じっとしていられない人もいます。 そういうことを スタッフみんなで共有できるようにしています。 うちは、担当制度をとっていないので、 技術者が替わるたびに 説明しなくてはいけないなんて、 腹立ちますでしょ? |
糸井 | はあ、まぁ‥‥ あ、でも、ぼくの行ってる指圧院でも それ、やってますね。 カルテをもとにして話し合いしたりしてる。 チームでやれるよさというのは、 絶対にあるんですよね。 指名料のあるお店だと 「あいつより俺のほうがいいでしょ?」 というところも、あるんですよ。 自分の指名が仕事になる場合は、 「あいつはだめで俺はいい」を どう表現するかになっていっちゃうんです。 |
佐伯 | ああ、なるほど。 |
糸井 | すると、そのお店全体が ぎすぎすするんですよ。 |
佐伯 | そうなんですよね。 |
糸井 | 指名料っていうのも、 なかなか危ないものです。 |
佐伯 | 指名料を取っちゃうと、何が何でも 自分に指名がほしいので お客さまに無理をしちゃう。 (続きます!) |