佐伯 | うちは、ときどきお客さまからスタッフに チップをいただくことがあります。 そういうときも、チップはみんなで集めて、 みんなのものを買いなさい、 ということにしています。 そうしないと チップの競争になっちゃいますからね。 ほんとうは、お客さまに自由に 選んでもらうということが いちばん大事なところですから。 |
糸井 | なるほどねぇ。 |
佐伯 | 同じ技術でも、例えば 手の大きさで 受けていただく感じ方も違います。 おしゃべりする人がいいという方もいれば、 しゃべらない人がいい方もいる。 ひととおりやって、選んでくださっていいんです。 |
糸井 | お客さま同士で情報の交換があったり‥‥ それは、やっぱり理想ですよね。 |
佐伯 | そうですね。 |
糸井 | 客からしてみれば、お店全体が 自分のことをわかってくれてて、 スタッフの誰が担当してくれても 「こないだのこと」を知ったうえで やってくれるというのは、 すごく安心ですよ。 |
佐伯 | わたしは、化粧品業界にいましたでしょ。 化粧品は、たいていどこに行っても 同じ物を同じ値段で売ってます。 お客さまは、買う場所を どうやって選ぶかというと、 デパートなどの売り場そのものにつく人もいれば、 人につく人もいるんです。 なぜ人につくかというと、それは 何かメリットがあるからです。 「いつもサンプルをくれる」 「あの子はいつも言うこと聞いてくれる」 「お荷物預かってくれる」 そういうことになってお客さまと癒着してくると 必ずトラブルが起こるんです。 |
糸井 | うん、うん。 |
佐伯 | 会社が「わたしのお休みは○月△日です」 というカードを作らせて お客さまに配らせたりしてたんだけど、 わたし、大反対だったんですよ。 |
糸井 | なるほど、なるほど。 |
佐伯 | お客さまにお休みの日まで教えて、 「わたしがいるときに必ず来てください」 なんてことをやると、 「あの方は絶対わたしから離れない」 という傲慢さが出てきます。 |
糸井 | それは、すごい‥‥ 人間理解の物語ですね。 |
佐伯 | そうなんです。 サービス業というのは ほんとうにいろんなことが起こります。 先の先を考えておかないと とんでもないことになりますから、 それを全部徹底しておくのが お客さまに対する心配りだと思います。 |
糸井 | いいお店の従業員さんって、 だいたい大将のことが好きなんだよね。 ぼくの行ってる焼き肉屋さんの話なんですけどね。 |
佐伯 | はい。 |
糸井 | 「今日の肉、おいしいでしょう、 社長が味つけしたからね」 って、厨房の人が言うんです。 |
佐伯 | ああ、それはいいですね。 |
糸井 | 「社長がやると違うの?」 とたずねてみたら 「違うんですよぉ」 って、ふつうに、うれしそうに言うんです。 |
佐伯 | 言われるほうも、うれしいですよね。 |
糸井 | うれしい、うれしい。 「今日は社長がいないからサービスします」 と言われるより、ずっとうれしいです。 |
佐伯 | わかります。 そのお店は、みんなが同じ気持ちで お客さまに接することができてるんですね。 |
糸井 | はい。つまり、 いろんなものの「共有」ですね。 |
佐伯 | うちも、できるかぎりそこは やっていこうと思っています。 サロンに入ってもらうとき、 わたしの気持ちを同じように 考えてくれるんであればいい。 |
糸井 | ぼくも、勘のようなものだったんですけど、 競争させない会社にしたかったんです。 競争すると 技術が上がるんだって言われるんですけど、 上がるのは技術じゃなくて 何か違うところが上がるような気がして。 |
佐伯 | はい、そうですよね。 |
糸井 | 競争と共有って、 両サイドにあるような気がするなぁ。 「あいつ、だめだな」って思うやつまで 養えるお前が偉いじゃないか、 そういう発想のほうが うまくいくような気がして‥‥。 兄弟だって、そうですもんね。 |
佐伯 | はい。 |
糸井 | そんなんじゃだめだと 言われるかもしれないけど、 なんだか、そのほうが 全体の水準が上がると思うんです。 (続きます) |