HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

カッパとウサギの コーヒーさがし

第4回 ドリッパーの話。
山下 ようやくドリッパーの話になるわけです。
福田 ええ、ええ、
ドリッパーね。

山下 ぼくらは基本的にいま、
ペーパードリップ式でコーヒーを淹れている、
ということは以前にもお話ししました。
福田 いろんな淹れ方があるけれど。
山下 サイフォン、水出し、ネルドリップに、
ペーパードリップ。
福田 いろいろ試して、
ペーパードリップに落ち着いた、と。
山下 いろいろ試しました。
サイフォンを買って割ったこと数回。
ネルドリップに挑戦して
めんどうになってやめちゃったこと数十回。
福田 ネルドリップというのは、
布をつかって淹れるやりかたです。
山下 おいしいんですよ。
ネルで上手にできると、どっしりとした
コーヒーが抽出できて。
福田 でもお手入れが、ね。
山下 そうなんです。
毎回、水で洗って、
洗った布を水に浸して保存しなくちゃならない。
福田 サイフォンもけっこう手間がかかります。
山下 はい。
ネルとかサイフォンのことを話し出したら、
これはこれでまた長くなるので
また別な機会にいたしましょう。
そこでペーパードリップです!

福田 ‥‥なんか山下さん、あせってませんか?
山下 いや、だってほら、
もうけっこう長いこと話してるじゃないですか。
福田さん、このあと約束があるんでしょ?
とある会社と大切な打ち合わせが。
福田 あっ! もうこんな時間。
山下 でしょお?
コーヒーを淹れる時間がなくなっちゃいます。
福田 せっかく道具をもってきたのに。
山下 続けます。
と、いうわけで、
コーヒーを淹れるのは毎日のことなので、
なるべく手軽な方がいい、と。
そこでぼくらが選んだのが、
ふたり ペーパードリップ!
山下 ‥‥なんでぼくといっしょに言ったんですか?
福田 あ、すんません、
なんか、ここはポイントかなと思って。
山下 いやいや、別にいいんです。
でも急にやるのでびっくりしましたよ。
福田 ふぉふぉふぉ(笑い声です)。
山下 声をそろえて言うのって、
なんか、コンビみたいじゃないですか。
福田 え? コンビじゃないんですか、わしら。
山下 ‥‥福田さんって、ときどき自分のことを
「わし」って言いますよね。
福田 あ、そうですね、
そういえばときどき言ってまいますね。
山下 関西では「わし」は一般的なんですか?
福田 はてっ、どうなんやろ?
山下 ‥‥‥‥‥‥。
福田 うーん。
山下 ‥‥‥‥‥‥。
福田 あっ! もうこんな時間。
山下 そんな時間。
福田 コーヒーの話を!
ぜひ、コーヒーの話を!
山下 わかりました、話を戻します。
コーヒーを淹れるのは毎日のことなので、
なるべく手軽な方がいい、と。
そこで、選んだのがぁ?

ペーパードリップ!!

‥‥今度はいっしょに言わないんですね。
福田 はい。
さらにペーパードリップにも種類があります。
山下 そ、そうですね、
メリタ、カリタ、コーノ式。
福田 ぼくたちは、コーノ式。
山下 そうなんですよ。
メリタもカリタも何度か使いましたが、
最後はコーノ式にたどりついているんです。
福田 それはやっぱり、好みの味に淹れられるから?
山下 そうですねえ‥‥
自分では、そうなんだと思っています。
いちばんネルドリップに近く、
しっかりと抽出できるのではないかと。
ゆっくり淹れると、
長い時間お湯をホールドして、
じっくりとエキスを出してくれる気がして。
そこがネルドリップっぽいのではないでしょうか。
福田 あとね、かっこいい。
「ツウ」っぽい感じがする。
本格的だと思ってもらえます。
おしゃれだ。

山下 ‥‥福田さんは、いつも正直ですばらしい。
そうなんです。
見た目が、いい。
雑誌で紹介されているのを最初に見て
一目でこれはいいと思ってしまいましたから。
福田 しょせんわしらは、かたちから。
山下 かたちから入る、
おおいにけっこうだと思います。
福田 はい。
山下 ともかく、カリタでもメリタでもコーノ式でも
ペーパードリップの良さは、
なんといっても手軽さではないかと
ぼくらは思っています。
福田 ササッとセットできるんです。
山下 ちょっと、セットしてみましょうか。
福田 ササッとお願いします。
山下 はい。
コーノ式は、
こういう円すい形のペーパーを使います。

山下 ペーパーの「マチ部分」、
わかります? 紙を合わせている部分です。
ここをぴたっと折ります。

山下 一度開いて、こうやってたたむと、
ちっちゃい三角形がちょこんと出てきます。

山下 これはやらなくても大丈夫なんですが、
ここをこんな具合に折ってあげると‥‥。

山下 ドリッパーにしっくりおさまる気がします。
‥‥こんな具合で、セッティングオーケー。

福田 オーケー。
‥‥ところで山下さんのドリッパーは、
かなり年季が入ってますねえ。

山下 なんですかね、黒ずんできたんですよ。
ちっちゃいヒビみたいなのも入ってきて。
‥‥そういう福田さんのは、
下のところが割れていますね。

福田 あ、そういう言い方をしますか!
山下 ごめんなさい(笑)。
福田 これは山下さんが割ったんです。
山下 あれはすまないことをしたと思っています。
福田 買ったばっかりやったのに。
山下 伊豆大島で割りました。
福田 もう3年以上前のことです。
山下 『Re:S』という雑誌で連載をはじめて、
それの最初の取材でしたよね。
福田 「ここで飲んでもいいですか?」
というタイトルの連載です。
山下 いろんなところでコーヒーを飲むんです。
それの最初が、伊豆大島に向かう
ちいさな飛行機の中で
コーヒーを飲むというものでした。

福田 あれは怖かった。
山下 パイロットさんに訊きましたよね。
「ここで飲んでもいいですか?」って。
福田 はい。
それで、せっかく大島まで行ったので、
大島の港でもコーヒーを淹れたんです。
山下 おしよせる波しぶきをあびながら。

福田 あれは豪快だった。

山下 灯台の下で、豆を挽いて淹れました。

福田 山下さんは釣りもしました。

山下 ぜんぜん釣れませんでした。
福田 そしてそれは、
飲み終わってからの事故でした‥‥。
山下 ええ。
飲み終わって片付けようとしたぼくの手から、
黄色いドリッパーがするりと落ちて‥‥。
福田 下はコンクリート。
山下 ぱっかーん。
福田 それがこれです。

山下 すまないことをしたと思っています。
福田 いや、いいんです。
むしろ、割っていただいてよかったです。
山下 ‥‥どういうことですか?
福田 こうやってカップにセットするとですね。

山下 ほうほう。
福田 カップの中が見えるでしょ?
これは、便利なんです。
カップにそのままセットして
コーヒーを淹れるときに、
「いまどれくらい落ちたかなあ」
というのが一目瞭然なんです。
山下 なるほどねえっ!
福田 こういう商品を提案したいくらいです。
コーノ式の会社に。
山下 このドリッパーをつくっている会社に。
福田 はい。
山下 行ってみたいですね。
やっぱり「こうのさん」が社長なんでしょうか。
福田 どうなんやろ?
山下 ねえ福田さん、ほんとに行ってみましょうよ。
福田 あっ! もうこんな時間。
山下 えっ! もうそんな時間。
福田 すみません、もうダメです、無理です。
すぐに行かないと
イラストレータ生命にかかわります。
山下 わかりました。
じゃあ、淹れるのはまた今度ということで。
どうぞ行ってください!
福田 すみません、
ほんまにすみません(どたばた片づける)。
山下 いえいえいえ、
こちらこそすみません、
すぐにカッパの話をしたりして。
福田 ほいじゃ、失礼しますー。
(ペタペタペタペタと荷物を抱えて去る)
山下 お疲れ様でしたー。
お皿を割らないようにー!
  (つづきまーす!)

2009-09-11-FRI

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