HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

カッパとウサギの コーヒーさがし

第6回 淹れます。
福田 沸いてますね。
山下 ええ、グラグラとお湯が沸いています。
福田 ぼくらの心も沸いています。
山下 落ち着きましょう。
福田 落ち着きましょう。
山下 落ち着きましたか?
福田 落ちすきましたよ。
山下 いまちょっと噛みましたけど、
大丈夫でしょうか。
福田 大丈夫です。
山下 「落ちすきました」って。
福田 落ち着きました。
山下 はい。
では火をとめましょう(コンロの火をとめる)。
‥‥とはいえ、この100度に沸いたお湯で、
コーヒーを淹れてはいけません。
福田 そうですね、熱すぎます。
お湯を落ち着かせましょう。
山下 熱い方がコーヒーをよく抽出できると
思っている方もいらっしゃるようで、
ぼくらも昔はそう思い込んでいたのですが、
熱すぎると苦みが強い味になっちゃうんです。
福田 ちょっとぬるいんじゃないか?
くらいがちょうどいいですよね。
山下 じゃあなんでわざわざ沸騰させたのかというと、
カルキを抜くためです。
福田 沸騰させると抜けるんですか? カルキ。
山下 ‥‥なんか、そんな気がします。
本で読んだこともあるし。
なにしろ、沸騰したやかんのお湯を直接そのまま
どばどばっと豆に注ぐのはよくない、と。
福田 それはあかんですね。
山下 ぬるくしないと。
福田 ぬるくすると、
とろんとした甘みを感じる味になります。
山下 どのくらいぬるくするかというと、
80度くらいです。
福田 あ、そうなんですか、80度。
ぼくはいっつも感覚でやってるので。
山下 ぼくは温度計で計ったりしてますよ。
75〜80度で淹れています。
福田 細かいことしてますねー。
山下 はい。そこまでやらなくてもいいと思います。
ではどうすればちょうどいい感じの
温度になるかというと‥‥
福田 やかんからポットにお湯を移します。
山下 その仕事は福田さん、お願いします。
あ、ヤケドするのでこのときは、
やかんにふたをしてくださいね。
福田 ほい(やかんにふたをする)。
じゃあ、いきまーす。
山下 このポットに移す作業で、温度が適度に下がって
お湯が落ち着くんですよね。
福田 ‥‥このくらいでしょうか。
山下 はい、ついでにカップにもお湯を入れて
あたためてあげましょう。
福田 ほい(ふたつのカップにお湯を入れる)。
山下 いいですねー、
ここまで何の問題もありません。
福田 順調です。
山下 ‥‥さ、ではこの、
カップに入れたお湯も
ポットに移しましょう。
福田 その仕事は山下さんがお願いします。
山下 わかりました。
山下 これでだいたい、ポットのお湯の温度は
80度くらいになっているはずです。
福田 ‥‥淹れますか。
記念すべき最初のコーヒーですね。
山下 ‥‥淹れましょう。
その仕事は福田さんがお願いします。
福田 や! そんな、ここはやっぱり山下さんが。
山下 いえ、最初は福田さんでお願いします。
福田 いやいや、どうぞどうぞ。
山下 いやいやいや。
福田 いやいやいやいや。
山下 ぼくはほら、豆をセットしますから‥‥あれ?
福田 どないしました?
山下 あれ? あれ?(きょろきょろしている)
こ、ここまで順調だったのに‥‥。
福田 なにかやらかしましたか。
山下 コーヒーサーバーを忘れました。
福田 あー、そういえば、ないですね。

これを忘れました。
山下 どうしましょう‥‥。
福田 じゃあ、これを使いましょうか。
山下 コップ。
福田 これも透明なガラスだし。
山下 なるほど。
これにこうやってドリッパーをセットして‥‥
わあ、できたできた。

(なんということでしょう、
 忘れ物の代用品にしようと決めたコップの、
 その写真を撮ることまでも、忘れていました。
 つまり、サーバーがわりのコップの上に
 ドリッパーを乗せて淹れることになったわけです)
山下 さ、こうしてぼくがセッティングしましたので、
ここはひとつ、福田さん、淹れてください。
福田 わ、わかりました‥‥。
(ポットを手に取る)
山下 福田さん。
福田 はい。
山下 集中。
福田 はい。
山下 ‥‥‥‥‥‥。
福田 ‥‥い、いきます。
山下 最初は、一滴ずつ。
福田 はい‥‥‥‥。
福田 そんな下からアップで撮らんでも‥‥
山下 集中。
福田 はい。
山下 いいですねえ‥‥。
真ん中にぽたぽたと、雨だれのように。
福田 ‥‥これは、いい豆みたいです。
山下 よく膨らんできてます。
ぼちぼち「蒸らし」ですね。
福田 はい(お湯をとめる)。
山下 あ、出ました。
蒸らすときに福田さんはそうやって、
ドリッパーの上にポットをのせるんですよね。
福田 この方がよく蒸せる気がします。
山下 福田式。
いや、カッパ式?
‥‥なるほど、そうか。
それはさしずめ、カッパのお皿ですね。
福田 そんなつもりではないです(笑)。
山下 でも頭にお皿をのせてるみたいじゃないですか。
まさに「カッパ式」を象徴する淹れ方です。
福田 20秒ほど蒸らしたら、
再びお湯を注ぎます。
山下 はい、また、集中。
福田 真ん中に、ぽたぽたと。
いきます‥‥。
山下 おお、むくむくと膨らみますねえ。
福田 いい豆です‥‥。
山下 この膨らみは豆の鮮度の証です。
ああー、またいい香りが‥‥。
福田 はい‥‥。
山下 挽いてある豆を買ってきた場合だと、
ちょっと時間が経つと
この膨らみが出なくなるんですよねえ。
福田 はい、ぺしゃんこのままだったり、
ぽこんと穴があいてしまったり‥‥。
山下 知らない方には、
ぜひこの「むくむく」を体験してもらいたいです。
福田 そうですね。
山下 なので「ミル」をオススメしたいと。
でも焙煎がよろしくないと、
自分で挽いても膨らまないこともありますよね。
福田 はい‥‥。
山下 あ、ぽたぽたと落ちてきました。
福田 きましたね。
山下 このあたりで少しだけ、
注ぐお湯の量を増やしましょう。
福田 早めの雨だれくらいで、
ぽたぽたぽたぽた‥‥。
山下 いいですねー。
福田 ぽたぽたぽたぽた‥‥。
あ、あかん!
山下 ちょっと急ぎましたね。
でも大丈夫、いい感じで泡の玉ができてます。
福田 もう少し、注ぐ量を増やします。
山下 はい、500円玉くらいの範囲で注いでいきます。
福田 ‥‥ぼちぼち、ふたり分なのでは?
山下 ですね。
さあ、ここが大切なポイントです。
ふたり分入ったら、
サッとドリッパーをはずしてください。
福田 はい(はずす)。
ドリッパーにまだお湯が残っていても、はずす。
山下 そうです、もったいないと思わずにはずします。
ぜんぶ落としきってしまうと、
えぐみとか、わるい味が入ってしまうんです。
福田 ポイントですね。
山下 そうしましたら、
サーバーの中に落ちたコーヒーを
軽くまぜます。
まぜなくてもいいように見えますけど、
案外むらがある状態ですので。
福田 ええと‥‥どないしましょ‥‥。
コップなので‥‥まぜる棒もないし‥‥
指でまぜます。
山下 な! だめですよ、指を入れちゃ。
なに考えてんですか(笑)。
福田 どないしましょ。
山下 落ち着きましょう!
福田 落ち着きましょう!
山下 まぜないからといって
味が大きく変わるものでもないですから、
こう、コップを、軽く揺するくらいでいいです。
きょうはもう、それでいいです。
福田 こ、こうですね。
山下 こぼさないように、
ゆらんゆらん、と。
福田 ゆらんゆらん。
山下 ゆらんゆらん、そんなもんでいいでしょう。
福田 ゆらんゆらん。
山下 もういいですよ。
福田 ゆらんゆらん‥‥あっ。
山下 もう‥‥ぜったいにこぼすと思った。
福田 すんません。
山下 飲みましょう!
福田 飲みましょう!
山下 カップに注いで‥‥。
福田 よいしょ‥‥。
山下 あー、いい色ですねえ。
福田 では。
山下 どうです?
福田 うん、おいしい。
山下 では、こちらも。
福田 めがねが曇ってます。
山下 よくあることです。
福田 で、味は?
山下 はい。
いいんじゃないでしょうか。
福田 いつもの味ですね。
山下 いつもの味です。
福田 落ち着きますね。
山下 落ち着きます、
ようやくほんとに落ち着きました。
福田 きょうは淹れられて、よかったです。
山下 ついにここまできましたね。
福田 やりましたね。
山下 やりました‥‥。
ふたり ‥‥‥‥(握手)。

  (つづきまーす)

2009-10-09-FRI


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