山下 | 糸井さん、 お店の最初のころから通ってたのに、 大坊さんとはずっと会話がなかったんですか。 |
糸井 | うん。 「あ、どうも」 「こんにちは」とか。 そんなもんですよね? |
大坊 | (笑) |
糸井 | こんなに大坊さんとお話するのは、 はじめてです。 |
山下 | 38年間、 「あ、どうも」 「こんにちは」 だけだったんですか? |
糸井 | そうですよ。 |
福田 | 草野球をいっしょにやるときもですか? |
山下 | あ、そうそう! そのお話。 大坊さん、 野球をいっしょにしてたそうで、20代のころ。 |
大坊 | はい、していました。 |
福田 | 野球場でお話はしないんですか。 |
糸井 | やることは野球ですからねぇ‥‥。 大坊さんのチーム、上手なのよ。 もちろん大坊さんも上手。 |
大坊 | いや、そんなに上手では‥‥。 |
糸井 | セカンドですよね。 |
大坊 | セカンドです。 |
糸井 | 小柄な人はセカンドなの。 |
山下 | へぇーー。 |
糸井 | ぼくはぜんぜんだめ。 すーぐ、突き指するし。 あと、日射病で気持ち悪くなった(笑)。 |
一同 | (笑) |
糸井 | でも、ホームラン打ったんですよ、多摩川で。
|
大坊 | 多摩川で。 サングラスをしていましたよね? |
糸井 | はい、サングラスしてました。 |
福田 | サングラスしてホームラン! かっこいいですね。 |
糸井 | そこだけを聞くとね(笑)。 |
山下 | 糸井さんのチームは どういう人たちのチームだったんですか? |
糸井 | 江島任さんのデザイン事務所の人たちと。 (※江島任さん/雑誌『装苑』や『ミセス』の エディトリアルデザインを経て、 『月刊プレイボーイ』や『四季食彩』の アートディレクションをされた方です) |
山下 | デザイナーさんたちのチーム。 |
糸井 | あるとき江島さんのところに行ったら、 「お前のユニフォームも作っておいたから」 って言われて(笑)。 |
大坊 | 糸井さんのほうのチームは、 「スピリッツ・オブ・ブルーマウンテン」 っていう名前でした。 |
糸井 | そうです、そうです。 |
福田 | ブルーマウンテン? |
山下 | コーヒー豆の銘柄ですね。 喫茶店のチームと対戦するから、 そういう名前にしたとか? |
糸井 | 青山のチームだからです。 |
山下 | え‥‥? ‥‥‥‥あ、ああー! そうかぁ。 |
福田 | 青山、青い山、ブルーマウンテン! |
糸井 | 山なんです、青山は。 海抜が高いんです。 |
大坊 | みんな、「スピリッツ」と呼んでいました。 |
糸井 | 大坊さんのチームは「ダイボーズ」ですね。 |
大坊 | 「ダイボーズ」です。 |
糸井 | よく対戦をしましたよね。 そのころはお互い、 ほかに対戦するチームがないから(笑)。 |
山下 | 「ダイボーズ」のメンバーは、 どんな方々なんですか? |
大坊 | 当時はお客さんが中心でした。 |
福田 | 腕に覚えのあるお客様が。 |
糸井 | 「ダイボーズ」はちゃんとしてるんだよ。 スピリッツはちゃんとしてない。 みんな、二日酔いとかでくるから。 それで、「盗塁禁止にしない?」とか言ってるの。 |
一同 | (笑) |
糸井 | ひどいんだよ。 |
大坊 | 「ダイボーズ」、 いまでも野球チームがありますよ。 |
糸井 | ダイボーズ? あるんですか。 |
大坊 | あります。 いまはお店のお客さん中心ではないですが。 |
糸井 | へぇーー、そうですかぁ、すごいなぁ。 |
大坊 | その野球チームをつくったころに、 野球部の連中がお店のカウンターにこう、 何人か集まって コーヒーを飲んだり ビールを飲んだりしているんです。 それで、私にこんなことを言うんですよ。 「大坊、お前は常連を大事にしない」って。 |
糸井 | おおー(笑)。 |
大坊 | 「我々がこうやっていつも来てやってるのに、 お前は俺たちに冷たい」って。 |
糸井 | いいですねぇ(笑)。 |
大坊 | 「冷たい」と言われましても‥‥。 私とすれば、なるべくその連中を 相手にしないようにしていました。 私は‥‥‥‥静かにしていたいんです。 |
一同 | (笑) |
大坊 | 口では言いませんでしたけども。 |
山下 | 一貫してますねぇ‥‥ やっぱり、すばらしくみずくさい(笑)。 |
一同 | (笑) |
糸井 | それは大坊さん、おみごとです(笑)。 そこですごく仲良くなりすぎちゃって、 だめになっちゃうお店は山ほどありますから。 |
山下 | いわゆる常連さんのお店。 |
糸井 | うん。 それはそれで良さはあるんだけどね。 やっぱり、入りづらくなりますから。 だから‥‥ああ! そうですよ、その判断。 大坊さんは経営者なんですよ(笑)。 |
大坊 | ‥‥そんなことを言われたのは初めてです(笑)。 |
糸井 | ぼくはいま、 複数の人と仕事をやってますけど、 もともとはひとりですから 経営者じゃなかったんです。 で、ちょっと勉強をするようになって、 「あ、そうか」って気づいたのは、 「市場って何?」ということ。 すごく大事なのはそれだけなんですね。 常連さんが市場のすべてだったなら、 常連さんを大事にするべきです。 でも、大坊さんはそうじゃない。 「大坊珈琲店」の市場はきっと、 コーヒーを飲んでホッとしたい人、ぜんぶです。 だったら、常連さんを大事にしすぎていたら、 それは経営者ではないですよね。 ‥‥というふうに考えれば、 大坊さんの冷たさは、 ものすごく正しい経営方針です。 |
大坊 | ‥‥経営者ですか。 |
糸井 | 経営者です。 |
大坊 | そうですか。 |
糸井 | まちがいないと思います。 (近くにいらっしゃる奥様に) 奥さん、ご主人はちゃんと経営者ですよ。 |
奥様 | ぜんぜん気づきませんでした(笑)。 ‥‥(大坊さんに)よかったね。 |
一同 | (笑) (最終回につづきます) |