Lesson1107
壊すデザイン
2024-08-07
「壊す」か? 「残す」か?
と聞かれたら何が浮かぶだろうか?
恋に悩む人は、
別れるか、いまの関係を続けるか、
かもしれない。
書く人なら、一度つくった文章構成を
壊すか、残すか、悩んでいるかもしれない。
先日、見学させていただいた
高校生のための哲学サマーキャンプでは、
教授が、“ストラクチャー=文章構造を、
何度も「壊して」つくり直すことだ”と、
将来、哲学オリンピックに出るかもしれない
高校生にアドバイスしていた。
「壊す」か? 「残す」か?
私が浮かぶのは、
ふるさとの同級生たちの関心事、
「親の家」
だ。同級生たちの中には、
すでにご両親とも他界された人もいる。
子どもたちがみな都会に出てしまっている場合、
「空き家になった親の家をどうするか?」
は、いま、過疎化・高齢化が進む地域で
とても切実な問題だ。
ある友人は「残す」選択をした。
親が建ててくれた家を残したかったと。
だから驚くような安値でしか売れなかったけど、
それでも家のカタチを残せてよかったと。
「壊す」選択をした人も、もちろんいる。
実際、私の故郷の実家のご近所でも、
ご両親が亡くなられ、
お子さんはみな都会に出ており、
家を壊し「さら地」にする選択をした。
「さら地」は、ずっと、さら地のままだ。
田舎なので、新しく家を建てる人もいない。
再利用もない。
私は、帰省のたびに「さら地」を見て心が痛む。
私がこの町に引っ越してきた小学校の時、
まわりの家々も新しく、ご近所さんも若く、
私とおなじくらいの子どもがたくさんいた。
それが、子どもが次々巣立って都会へ行き、
高齢化し、ひとり減り、ふたり減り…、
「これから将来、こんな空き地が
増えていくばかりなのだろうか?」
そんな折、私は、
東京大学で「建築史」を研究されている先生に、
偶然にも質問する機会を得た。
建築×歴史! 私は胸が躍った。
この先生は、
近代・現代のアジアの建物をたくさん見てきた人だ。
なぜ建てられ、どんな使い方をされ、どうなったか、
をいっぱい研究してこられた人だ。
私は質問した。
「そんなふうに長きにわたって、
人と建物の歴史を見てこられた先生に、
いまの過疎地の親の家問題はどう見えるか?
どう考えたらいいか?
壊すか? 残すか?」
先生からかえってきた答えを、
ひと言で要約するとしたら、それは、
「壊すデザイン」
そこを考えてみるといいのではないかと。
「だれが壊すか?」
「いつ壊すか?」
「どのように壊すか?」
これを聴いて意外だった。
その日、先生は、建物の継承、つまり「残す」こと
についても面白い事例で話をしてくださっていて、
親の家についても、継承へのヒントをくれるかと。
けど、そここそが、私の「先入観」だった!
当初、私にとって
「壊す」ことは「諦め」「終わり」に他ならなかった。
「残す」ことこそが「継承」であり、親孝行だと。
「壊す」ことと「残す」ことは、
私にとって対立して相容れないものだった。
けど、そうじゃなかった。
「だれが壊すか?」
それをいちばん大切に思っている人だ、
と先生は言った。
先生は、建物の解体や、リノベーション、
復元の事例も数多く研究してこられた。
例えば家の庭に梅の木があるとして、
家を壊さねば、となった時、
その梅の木をいちばん大切に思っている人が、
切るんだと。そしてどこかに挿し木するなり考えると。
壊すデザインを聴きながら、
私は、あってほしくはないが「未来」に、
壊す選択をするとしたら、とイメージしてみた。
壊すのは、その家をいちばん愛している人。
「いつ壊すか?」
「どのように壊すか?」
その家に、
愛着や想い出や実体験がある人が、
みんな集まって、
その人の子や孫など、
できたら次の世代やその次の世代にも
来てもらって、
みんなの記念に残る日に、
ひとり、ひとり、家にありがとうを言って、
引き継くものは引き継いで、
(たとえば欄間をもらって帰って、
インテリアにするなど)
この家での思い出を語り合って、
子どもに話して聞かせて、
ひとりひとりの記憶に、
いつまでも、いつまでも、
印象的に残る形で
終わりを迎えるという道もある。
壊すことと、残すことは、
かならずしも対立するものじゃない。
残せるにこしたことはないと私は思うけど、
汚い朽ちたカタチで残りつづけることが、
かえって家の尊厳を傷つけ、
想い出を汚す場合だってある。
「壊すことで残す」道もある。
人々の記憶の中に残る。
家の部分や、庭の草木を持ち帰って、
再生する中で、
それぞれの生活の中で継承されるものもある。
その家が、なぜ、どのように建てられ、
どう生きてきたかを、人の心に焼き付ける道もある。
「ほんとに潔く壊したなあ!」
高校生のための哲学サマーキャンプで、
私は、高校生が、せっかくつくった
ストラクチャー(文章構造)を、潔く壊して、
まったく新しいストラクチャーに創りなおすのを、
まのあたりにした。
勇気が出た。
「壊すことは終わりじゃない、諦めでもない」
どうしても壊さなきゃいけない状況がきたら、
悲しく辛いけど、愛を持ってしっかり壊そう、
「壊すことで、つながる未来もある」
と私は思う。
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私のような人は多いと思います。
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この本が出来上がったとき、おもわず本におじぎをし、
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「自分らしい選択をしたい」とき、
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「おとなの小論文教室。」で
7年にわたり読者と響きあうようにして書かれた連載から
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あなたの表現がここからはじまる!
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「依頼文」や「おわび状」も、就活の自己PRも
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ワンコインで手にする「通じ合う歓び」のコミュニケーション術!
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『理解という名の愛が欲しいーおとなの小論文教室。II』
河出書房新社
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内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの痛みと歓びを問いかける、
心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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