怪・その29

「山奥の『オバケ』」

私の母が子供時代に体験した
60年位前の話です。

母は小学校3年生くらい、母の妹は1年生くらいで、
母は両親と妹と4人で、両親が所有する山に
薪を作る作業に付いて行ったそうです。

少し山奥で、幼い姉妹は、森の中での作業に
しばらくすれば飽きてしまいました。

2人で遊び始めた時、
母がふと野イチゴを見つけて喜び、
それからは2人で夢中になって
野イチゴを探し始めたそうです。

次第に両親から離れて
薄暗い茂みの方まで行ってしまいました。

先を歩いていた母が妹に

「ようこ、こっちにいっぱいあるよ!
 こっちに来い」

というと、
妹のすぐ後ろの茂みから

「よ〜こ〜こっちにいっぱいあるよ〜
 こっちにこ〜い」

としわがれた声がしたそうです。
驚いた母の妹は

「あんた誰?」

と茂みに向かって聞いたそうです。
すると
「おりゃぁオバケじゃ〜ケケケケケケ」

と甲高く笑って返ってきたので、
2人とも怖くなって、母が

「ようこ、帰るよ!」

と言って歩きだすと、声が

「帰るなぁ〜 帰るなぁ〜」

と。

2人は泣き出し、無視して逃げるように
その場を離れたそうですが

「おんぎゃあおんぎゃあ‥‥」

と、赤ん坊の声に変わったり、
とても恐ろしかったそうです。

茂みの向こうは崖で、人が隠れるところは無いし、
家族しか入らない山です。

“人”では無いのがわかった2人は
走って両親の所まで逃げました。

両親にその出来事を話すと
「それはセコだ」と言われたそうです。

セコとは、カッパの様なもので、
人の声色を真似たりイタズラをしてだましたり、
田舎では稀にある話だそうです。

今でも母と叔母は、たまに

「何だったのかなぁー
 気持ち悪かったよなぁ‥‥」

と、話をしています。

(h)

こわいね!
2013-09-02-MON