怪・その22
「親しくしていた戦友」
30年ぐらい前の話です。
私の両親は東北の地方都市の郊外に住んでいました。
夜は寝るまで鍵もかけずに、
来客は勝手に玄関を開けて入ってきて声をかけるという
のどかな時代でした。
ある夜、両親が二人でテレビを見ているときに、
玄関をカラカラ開ける音がしました。
でもいつまでたっても声がしません。
不思議に思って見に行くと、
引き戸の玄関は閉まったままで誰もいませんでした。
おかしなことがあるねと言いながら
その夜は戸締りをして眠りました。
次の朝、お父さんの親しくしていた戦友が
亡くなったという知らせがありました。
戦後、地元に帰ってからも
仲良くして会っていた人でした。
息を引き取った時間が、
玄関のあく音のした時間ということです。
最後にサヨナラを言いに来てくれたんだ。
本当にそういうことがあるのだと驚きました。
(トラとタマ)