フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

11月27日の事件。


あんなにすばらしいともてはやれた黒という色が、
イタリアでは、いま、とても悲しいことになっています。
ほんとうに残念なのですが、肌の色のことで、
イタリア・サッカー界で問題が起きているのです。

ゾロ選手を襲ったことば。


セリエAのメッシーナでプレイしている、
象牙海岸出身のゾロ選手は漆黒の肌をしています。
このことが、民族間の問題になってしまいました。
ぼくは先週、ここで、インテルが
イタリア人選手のひとりもいないフォーメーションで
試合をはじめた日のことを書きました。
インテルの、この決断が、
良くない傾向を呼んでしまったのでしょうか。
人種差別という、最悪の動きを。
事が起こってから3日間というもの、
各新聞やテレビはこの話題に終始しました。
イタリア人たちに突如、人種差別問題が
浮上してきたように思えます。

ここ数年、アフリカ人のイタリアへの移住が
とても増えているのは事実です。
かれらの多くは労働許可が得られず、
グッチやルイ・ヴィトンなど有名ブランドの
偽物にちがいないバッグを安く売るといった、
あやしい仕事をすることになったり、
ほんとうに良くない仕事の仲間入りをする人たちも、
少なくありません。
そのために、肌の色によって、
イタリアでは良く思われない場合が増えてしまっています。

でもサッカー選手にとっては、
まったく事情が異なると思われていました。
かれらは、望まれて、正規に入国している
人気者たちですから。

ところが、11月27日のインテル対メッシーナの試合中に、
インテルのティフォーゾたちが
対戦相手メッシーナのゾロ選手を、
肌が黒いという理由で侮辱したのです。

イタリアの条例では、こういう騒ぎは罰せられます。
この時も警察は、メッシーナの競技場で、
ゾロを侮辱したティフォーゾたちを
特定しようとしましたが、
テレビカメラを通してさえも、不可能でした。
かれらは、顔がわからないように、
仮面を着けていたのです。

そのとき、ゾロ選手は。


侮辱されたゾロがボールを地面から手にとり、
両腕でしっかりとかかえて
更衣室に続くゲートへ向かった時、
彼のチーム、メッシーナは
2対0で負けそうな状態でした。

ゾロは審判の方を向いて言いました。
「ぼくは、もうプレイしません。
 ぼくは人間ですが、
 まるで動物のように扱われています」と。

審判が驚いたまま立ちつくしていると、
対戦相手であるインテルの選手がふたり、
ゾロに近寄ってきました。
ピッチに残って試合を続けるように、
ゾロを説得したかったのです。

インテルの選手、アドリアーノとマルティンスは、
ゾロを抱きかかえるようにして、
自分たちのティフォーゾがゾロに対して
しでかした事を、あやまりました。

アドリアーノの肌はカフェラッテ色、
つまりゾロのより少し明るい色で、
アフリカのナイジェリア出身のマルティンスは、
ゾロとまったく同じように漆黒の肌色です。

「ぼくらも、試合のある日曜日ごとに侮辱されているよ。
 でも、だからこそ、ぼくらを猿のように扱う連中に
 負けるわけにはいかない。
 お願いだからゲームを続けてくれ、
 そうすれば、この文化の闘争を一緒に戦えるんだよ」
かれらはゾロを、こう言って説得したそうです。

そしてゾロは、この説得に応じ、
10分後には試合が再開されたのですが、試合後に、
だれもインテルの勝利については話さず、
このアフリカ人選手が目的をもって起こした
態度のことばかりが語られました。
全員が口をひらいて、なんだかのコメントをしました。
翌日には、ヨーロッパ最優秀選手に贈られる
バロン・ドーロ賞を、パリで受賞していた
ロナウディーニョまでが、
連帯感のこもった言葉を口にしました。

イタリアサッカーの条例は、
重大な人種差別が示された場合に審判が試合を中断し、
その行動が有罪とみなされたティフォーゾを持つチームは
「負け」とされることを、想定しています。

今回インテルは、罰則としての「負け」の判定は
受けませんでした。
しかし、インテルのティフォーゾたちは今後、
もっと礼儀正しく、たしなみのある態度をとるべきです。
そうでないと、この次には、たいへんに重大な罰則が
課せられる可能性もあります。

インテルは、
昨年度のUEFAチャンピオンズ・リーグ試合中に、
ティフォーゾが発煙筒をACミランのゴール・キーパーの
ディーダに、命中させる事件
を起こしました。
そのことに対するペナルティーで、
同選手権の今年度最初の4試合は
無観客で行いました


その発煙筒騒ぎにたいするの罰の後で、
さらに重大な罰則をうける悪夢が、
いまやインテルを待ち受けています。


訳者のひとこと
その後も、他の試合でも人種差別的な野次が
おこっているようです。

イタリアはヨーロッパ大陸から
アフリカやアジアに向けて突き出た格好で、
海にかこまれていますから、
海づたいの不法入国者も、たしかに多いのです。
イタリア自体も不景気がつづいていますし、
庶民はイライラしているのだと思いますが、
八つ当たりがとんでもない方向に向けられるのは、
怖いことだと思います。
フランスでも暴動があって間もないし‥‥

翻訳/イラスト=酒井うらら

2005-12-06-TUE

BACK
戻る