彼らがマルディーニを愛さなかったのは、
ウルトラスと呼ばれる暴力的な傾向のある
ティフォーゾたちとの関係を、
マルディーニ自身が強めようとしなかったからです。
イタリアサッカーのチームの多くにおいて
ウルトラスの存在は容認されており、
金銭や試合のチケットなどの
経済的供与を受けている事実もあるのですが、
マルディーニは彼らと仲良くしようとはしませんでした。
パオロ・マルディーニは
ティフォーゾたちの賞賛に慢心したことはありません。
彼はただひたすらACミランだけでプレイし、
そのことで、チームへの完璧な献身の、
桁外れなお手本を築いたのです。
事実、彼は、
やはりACミランの選手だった父
チェーザレを見ながら育ち、
子供心に誓ったACミランへの忠誠心を
裏切ったことはありません。
その誠実さと優秀さにおいて、
まさにお手本といえる選手です。
彼の現役最後の試合となった
対ASローマ戦に負けただけでなく、
南カーブ席には酷い事が書かれた
プラカードが数枚現われ、
パオロ・マルディーニの繊細な人柄と、
並ぶ者のいないチャンピオンとしての
誇りを傷つけました。
彼がいつもの「ご挨拶」の
グラウンド一周ランニングをしながら、
南カーブ下にさしかかった時です、
そこに陣取ったウルトラスたちが、
ACミランの前の歴史的キャプテンである
フランコ・バレージを褒め讃えて
マルディーニを侮辱したのです。
その直後に、マルディーニは、
テレビやラジオの何本もマイクの前に進み、
手厳しいコメントを静かに語りました。
「ぼくは、
自分が彼らみたいではないことを、
誇りに思います」と。
ACミランが2対3でASローマに敗れた
この試合の後で批判されたのは、
マルディーニだけではありませんでした。
ベルルスコーニ会長も、
カルチョメルカートにひらめきが無い、
使える金額が少ない、そして、
たぶんカカがレアル・マドリードに
売られるのではないか、などについて、
非難を浴びました。
あまりに気分を害したベルルスコーニは
しまいには、自分へにしろ
マルディーニに対するものにしろ、
これらの批判に反応しようともしませんでした。
それから数日後に、
バルセロナのグアディオラ監督が、
UEFAチャンピオンズ・リーグの優勝カップを
パオロ・マルディーニに捧げると、
観衆の目前で明言した時、
ACミランサイドの人間の中には、
ウルトラスに対して
明確な態度を取らなかった事を、
後悔した人もいたはずです。
それにしても、
今やイタリアサッカーは、
まるで、最も暴力的なティフォーゾたちの
人質にとられたかのように見えます。
そこで犠牲になるのが
マルディーニのような人物なら、
これはこの選手に対する侮辱ではなく、
人というものに対する侮辱だと、
ぼくは思います。
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