ほぼ日刊イトイ新聞 フランコさんのイタリア通信。アーズリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

2009-12-08-TUE

トッティ、アズーリに復帰か?

「ぼくは、サッカー選手にとって実現可能な
 究極の目標であるW杯に、優勝しました。
 今後は、ぼくがぼくでいることを許してくれる
 ASローマに、自分をささげます」

フランチェスコ・トッティが、
ちょっと悲しさのこもる声でこう言い、
何の問題もなくアズーリを引退してから、
早くも3年以上の時が流れました。

その3年間というもの、
アズーリにもどるという話には全くならず、
アズーリの監督もリッピからドナドーニ、
またリッピへと替わりましたが、
このイタリア人監督たちも、
トッティの意志を尊重してきました。

そして今、何かが動こうとしています。
来年のW杯南アフリカ大会に
トッティが出場する可能性が出てきたのです。
ベルリンで2006年に勝ち取った
世界タイトルを守るために、
イタリア代表アズーリに
トッティが返り咲くかもしれないのです。

franco

トッティの考えを変えたものは?

2006年のW杯ドイツ大会優勝選手のうち、
トッティの他にもう一人、
もうアズーリのシャツを着ることは無いだろうと
言った選手がいます。
アレッサンドロ・ネスタです。
「事故に遭いすぎたし、
 ACミランのためだけにプレイしたいんだ」
彼はそう言って、アズーリからの引退を表明しました。

franco

ネスタはトッティと異なり、
その思いを今も変えていません。

しかし、いったい誰が
トッティの考えを変えさせたのでしょうか?

お金のためでないことは確かです。
ASローマは少し前に、
イタリア人の選手の給料としては新記録となる金額で、
彼との契約を更新しましたから。

どうせなら、
2回の優勝を果たした数少ない選手として、
歴史に名を残そうと思い直した?
──これも違うでしょう。
トッティはいつも大きな望みを抱いている選手ですが、
見栄っ張りではありません。

4年前のドイツ大会のとき、
テレビや新聞の多くが
トッティは酷いケガが完治していないとして、
彼の出場を危ぶみました。
これに反して、マルチェッロ・リッピは
彼を出場させたのです。
でも、トッティに大きな信頼を寄せてくれた
リッピに対する友情や尊敬する思いから、
引退宣言をくつがえすというのでもないでしょう。

franco

トッティのかげにイラリーあり?

ここで浮上して来るのが、
妻のイラリー・ブラージです。
こういう場合にしばしば起るように、
夫を動かす決定的な言葉は
妻が握っていたりするものなのです。

イラリーは "le iene" (ハイエナたち)という、
とても人気のあるテレビ番組の司会をしていますが、
しばしばこんな質問がなされます。
「もし貴女がリッピの立場にあったら、
 ご主人にアズーリに戻るように説得しますか?」
そんな時、イラリーは微笑みながら、
こう切り返すのです。
「トッティに何かをさせたり、
 考えを変えさせたりできる唯一の人物は、
 私です」と。

それは聴視者を笑わせるための
ジョークに思えます。
イタリア人たちに日々起きること、
多くの場合「そりゃ、そうだ」と
人々が了解する背景が、
イタリアにはありますからね。
つまり、ひとりの女性が完璧な妻になるためには、
母親のようになる必要もあるということです。
イタリア男たちは子どものまんま
大きくなったようなところがありますから、
愛情の他にも、いい子いい子されることや、
優しい命令などが必要なのです。

トッティはイラリーの言葉を、
まるで本当のママの言葉のように
聞いたにちがいありません。

franco

いずれにせよ考えを変えたトッティは、
アズーリにもどることも可能だと
暗にリッピに知らせる言動も見せています。
インタビューで
「W杯のために南アフリカへ行きたくないか?」
と聞かれるたびに、トッティは、
「W杯は究極です。
 たくさんのスクデットや
 UEFAチャンピオンズ・リーグ優勝よりも
 価値があります。
 リッピ監督がぼくを呼んでくれたら
 名誉なことです」と、
3年前ならぜったいに言わなかったであろうことを
言い始めました。

franco

ずっとトッティの復帰を待ち望んでいたリッピは、
まずアズーリ代表としてキャプテンの
カンナヴァーロに語らせました。
「トッティが戻ってくれれば、ぼくら全員が幸せだ」と。

その後で、リッピも口を開きました。
「トッティは完璧に桁外れに優れた選手です。
 彼が元気で、再びアズーリのユニフォームを
 受け入れてくれたら、それは素晴らしい事です。
 3月に私たちは、また話し合うつもりです。
 トッティのコンディションが整っていれば、
 10番のユニフォームは彼の物です。
 私は、そう願います」

さて、その暁には、
夫人のイラリー・ブラージにも
アズーリのユニフォームをお渡しするべきかと、
ぼくは思うのですが‥‥。


訳者のひとこと

トッティは来年で34歳ですか?

やはり10番を背負っていたロベルト・バッジョは、
事実上32歳でアズーリを引退し、
でも現役引退の37歳の時に、
スペイン代表との親善試合に名誉招待され、
これがアズーリとして最後の試合になりました。

トッティも、まだこれから何かやりそうですね。

うららさんイラスト

翻訳/イラスト=酒井うらら



まえへ
最新のページへ
つぎへ