「フランコさんのイタリア通信」が本になります。 酒井うららさんと、 イタリアについてしゃべろう!


第6回 保守的? 専門的? 不思議?

シェフ うららさんがミラノに留学した理由は、
行きたい学校がたまたまミラノにあったからですか?
酒井うらら ローマで結婚していた日本人女性に
勉強ならミラノよって言われたの。
あややシェフ
キノシタなんこ
  やまかわ
へえ。
酒井うらら 勉強ならミラノで、
ホームステイ先を紹介できるって。
ローマにまず来て、
ローマは1週間なり、10日なり、
見物させてあげるから、
そのあとミラノに行けばって言われたんです。
シェフ へえ、それは何だろう、
ミラノは誘惑が少ないのかな(笑)。
酒井うらら そう、それはあると思う。
シェフ ミラノ男の気質ってあるんですか?
キノシタ あ、聞きたい!
酒井うらら ミラノ男。ミラノってね、
まあ、男に限らないんだけど、
インテリであるということを競うところがある。
教養を競うというか。
シェフ それは確かに勉強しに行くには
いい町かもしれない。
酒井うらら それで、しかも、
すごく冗談を言うのよね。
どんなにインテリな人も、
どんなに偉い人も冗談言うんだけど、
その冗談の種類によって、
インテリ度を計られちゃう、
みたいなところがあるから、
その冗談の腕を、日々これ磨いているの。
シェフ え、たとえば格が高い冗談ていうのは‥‥
酒井うらら まず、下(シモ)ではない。
たとえ下にしてもひじょうにハイカラに。
あややシェフ
キノシタなんこ
  やまかわ
(笑)。
あやや どうなんだろう、ハイカラな下ネタって!
酒井うらら ミラノが誇れることというのは
さっき言ったように
過去の遺産でもないし、料理でもないから、
おそらくソフトに頼ったんだと思う、個人の。
それは推量ですけどね。
近くのトリノが、
作家、思想家の宝庫なんですが、
その影響をやっぱりミラノは受けているんだと思う。
あやや すごく面白いですね、
地域によって何かあるんですね。
シェフ 今はミラノにいいサッカーチームがあり、
ファッションがある。
酒井うらら 経済の中心はミラノ。
あやや たとえば日本だと地方から
東京や大阪など都市圏に
出てきたりするじゃないですか。
そういう感じで、
ミラノに出てくるみたいなことも多いんですか?
酒井うらら 来ますよ、うん。
でも、来ても、下働きでするよりは
海外出ちゃったりすることも多いかな。
わたしの知る限りの印象として、だけれど。
シェフ え、じゃあ、ミラノっ子はわりと保守的?
酒井うらら いや、どこもみんな、保守的ですね。
なかでは、ミラノは革新的ですけどね。
でも「革新的」のニュアンスが日本と違う。
何もかも捨てて新しくではなくて、
保守革新派というところかな。
シェフ みんな、保守的。
酒井うらら みんな、保守的で、
自分の生まれ故郷が大事ですよ。
だけどいろんな事情があるから、
いろんな場所へ行っていろんなことやる。
たとえば美術学校なんかでも、
主要都市に国立の美術学校あるんだけど、
たとえばミラノだったらスカラ座があるから、
舞台美術が有名とか、
今だったらやっぱりマルチメディア関係とか。
トスカーナの方は修復のコースが専門とか、
そういうのがあるから、
入学してから専門コースに移るときに、
私たちの頃は動けたのね。
ミラノで入学しても、
私は実はモザイクがやりたいかも、と思ったら
そっちの方が得意な国立大学の2年に編入したり。
そういうふうに、いろんな個々の目的によって
故郷を離れるけど、
もう絶対どこの出身かって、
知り合ってまず最初に聞く。
シェフ へー。
あやや 仲良くできないとかってあるんですか?
酒井うらら それはないですよ。
でも、どこ? っていうので、
だいたい気質を知りたいかな。
シェフ 日本でも九州人はどう、
関西はこう、東北はこう、
みたいなニュアンスがあるものね。
あやや いやぁ、不思議な国だなあと思います。
シェフ どの国にも不思議さはあるけれど、
イタリアはまた、興味深いですね。
酒井うらら すっごく不思議な国よ。
なんこ わたしはイタリアに留学をするときに
イタリア人の作法じゃないけど、
こういうときはこういうことをやりますよ、
っていう話をしていて、
すごく衝撃的だったのが、
イタリアって路駐をするんですよ。
路駐をするんだけど、
前と後ろにぴったり車をね、
ほんとにもう隙間がほとんどないぐらいに
駐車するんですって。
でも、出たいときに出れないじゃない。
どういうふうに出るかっていうと、
まず、前をぶつけます。後ろをぶつけます。
そして間隔をひろげていって、
それから出るんです、って。
酒井うらら そのためにバンパーが付いてるんだって
言うのよね。
あやや じゃもう、日本人のお父さんとかが
ガソリンスタンドで洗うと傷が付くから
自分でていねいに車を洗うみたいのと‥‥
なんこ もう、もう全然違うの。
酒井うらら 車は大好きなんだけどね、
でもそこはしょうがないのよ。
シェフ そういえば、
イタリアの家具ってかっこいいけど、
ビスが合わないとか、
けっこうあるみたいだよ。
酒井うらら 格好重視ですもの。
ともかく格好重視ですね。
あやや 妙におおらか!
シェフ 不思議なのは、みんながみんなじゃなくって、
一方で、職人の技の、
すごいのとかありますよね。
「ほぼ日」で連載した
アンリ・ベグリンさんの革工房も
イタリアにありましたし。
酒井うらら アクセサリー、金細工などにも、
イタリアの職人じゃなきゃできないっていう
加工があるんですよ。
なんこ ガラスとかもそうですね。
シェフ あと靴もそうだ。
酒井うらら あ、靴。この間、聞いた話なんだけれど、
一般の人が履く普通の安い靴は、
今ね、みんな、中国製なんだって。
工業の空洞化がイタリアでも起きてて。
でも、イタリア人としては、悔しいじゃない?
だからサラリーマンの間で
「裸足で行くか中国製の靴を履いて通勤するか」
悩んでる、ってイタリアのラジオが
ジョークを言ってた。
シェフ それもジョーク(笑)。
酒井うらら ジョーク、ジョーク、もちろんジョーク。
あやや 「ほぼ日手帳」を作る過程で、
イタリアのタンナー(染め師)さんから
出てくる革って、
色が全然違うんですよ。
酒井うらら そうでしょうね、
色彩感覚はもうすごいもの。
あやや 同じ赤でも、ちょっと深みがあったりとか。
環境や気候にも左右される仕事なので
まったく同じものをデジタルに出せないにしても、
その職人さんの持ってる感性とかって、
すごいですよね。
それがどうしても他の国の職人では
出せないって聞いたことがあります。
酒井うらら 遺伝子と伝統とでしょうね。
シェフ ファッションもだからそういうことでしょうね。
パリと並ぶコレクションで、
元気があるのはミラノとニューヨークですから。
キノシタ そうですね。
シェフ で、独特だもんね、ミラノコレクションは。
あやや そういうのって子供のときから
すごくそういうものに触れてるからとか?
酒井うらら そうですよ。まわり中、空気が全部ね、
スーパーマーケット行って並んでる
パッケージから全部違うわけだものね。
なんこ イタリアって「専門店」が残っていますよね。
ノートだったらノートを作ってる
ノート屋さんていうのがって、
ペンだったらペン屋さんていう、
1個、1個のプロダクトに
その専門店があるっていうのがすごく楽しくて。
酒井うらら そうそうそう。
なんこ で、絶対裏で、おじさんがこう、
作ったりとかしてて。
シェフ へえー。
なんこ そういうのをずーっと見てたりとかするのが
大好きでしたね。

(つづきます)


2008-12-03-WED

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