うららさんがミラノに留学した理由は、 行きたい学校がたまたまミラノにあったからですか? |
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ローマで結婚していた日本人女性に 勉強ならミラノよって言われたの。 |
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へえ。 | |
勉強ならミラノで、 ホームステイ先を紹介できるって。 ローマにまず来て、 ローマは1週間なり、10日なり、 見物させてあげるから、 そのあとミラノに行けばって言われたんです。 |
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へえ、それは何だろう、 ミラノは誘惑が少ないのかな(笑)。 |
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そう、それはあると思う。 | |
ミラノ男の気質ってあるんですか? | |
あ、聞きたい! | |
ミラノ男。ミラノってね、 まあ、男に限らないんだけど、 インテリであるということを競うところがある。 教養を競うというか。 |
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それは確かに勉強しに行くには いい町かもしれない。 |
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それで、しかも、 すごく冗談を言うのよね。 どんなにインテリな人も、 どんなに偉い人も冗談言うんだけど、 その冗談の種類によって、 インテリ度を計られちゃう、 みたいなところがあるから、 その冗談の腕を、日々これ磨いているの。 |
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え、たとえば格が高い冗談ていうのは‥‥ | |
まず、下(シモ)ではない。 たとえ下にしてもひじょうにハイカラに。 |
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(笑)。 | |
どうなんだろう、ハイカラな下ネタって! | |
ミラノが誇れることというのは さっき言ったように 過去の遺産でもないし、料理でもないから、 おそらくソフトに頼ったんだと思う、個人の。 それは推量ですけどね。 近くのトリノが、 作家、思想家の宝庫なんですが、 その影響をやっぱりミラノは受けているんだと思う。 |
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すごく面白いですね、 地域によって何かあるんですね。 |
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今はミラノにいいサッカーチームがあり、 ファッションがある。 |
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経済の中心はミラノ。 | |
たとえば日本だと地方から 東京や大阪など都市圏に 出てきたりするじゃないですか。 そういう感じで、 ミラノに出てくるみたいなことも多いんですか? |
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来ますよ、うん。 でも、来ても、下働きでするよりは 海外出ちゃったりすることも多いかな。 わたしの知る限りの印象として、だけれど。 |
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え、じゃあ、ミラノっ子はわりと保守的? | |
いや、どこもみんな、保守的ですね。 なかでは、ミラノは革新的ですけどね。 でも「革新的」のニュアンスが日本と違う。 何もかも捨てて新しくではなくて、 保守革新派というところかな。 |
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みんな、保守的。 | |
みんな、保守的で、 自分の生まれ故郷が大事ですよ。 だけどいろんな事情があるから、 いろんな場所へ行っていろんなことやる。 たとえば美術学校なんかでも、 主要都市に国立の美術学校あるんだけど、 たとえばミラノだったらスカラ座があるから、 舞台美術が有名とか、 今だったらやっぱりマルチメディア関係とか。 トスカーナの方は修復のコースが専門とか、 そういうのがあるから、 入学してから専門コースに移るときに、 私たちの頃は動けたのね。 ミラノで入学しても、 私は実はモザイクがやりたいかも、と思ったら そっちの方が得意な国立大学の2年に編入したり。 そういうふうに、いろんな個々の目的によって 故郷を離れるけど、 もう絶対どこの出身かって、 知り合ってまず最初に聞く。 |
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へー。 | |
仲良くできないとかってあるんですか? | |
それはないですよ。 でも、どこ? っていうので、 だいたい気質を知りたいかな。 |
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日本でも九州人はどう、 関西はこう、東北はこう、 みたいなニュアンスがあるものね。 |
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いやぁ、不思議な国だなあと思います。 | |
どの国にも不思議さはあるけれど、 イタリアはまた、興味深いですね。 |
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すっごく不思議な国よ。 | |
わたしはイタリアに留学をするときに イタリア人の作法じゃないけど、 こういうときはこういうことをやりますよ、 っていう話をしていて、 すごく衝撃的だったのが、 イタリアって路駐をするんですよ。 路駐をするんだけど、 前と後ろにぴったり車をね、 ほんとにもう隙間がほとんどないぐらいに 駐車するんですって。 でも、出たいときに出れないじゃない。 どういうふうに出るかっていうと、 まず、前をぶつけます。後ろをぶつけます。 そして間隔をひろげていって、 それから出るんです、って。 |
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そのためにバンパーが付いてるんだって 言うのよね。 |
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じゃもう、日本人のお父さんとかが ガソリンスタンドで洗うと傷が付くから 自分でていねいに車を洗うみたいのと‥‥ |
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もう、もう全然違うの。 | |
車は大好きなんだけどね、 でもそこはしょうがないのよ。 |
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そういえば、 イタリアの家具ってかっこいいけど、 ビスが合わないとか、 けっこうあるみたいだよ。 |
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格好重視ですもの。 ともかく格好重視ですね。 |
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妙におおらか! | |
不思議なのは、みんながみんなじゃなくって、 一方で、職人の技の、 すごいのとかありますよね。 「ほぼ日」で連載した アンリ・ベグリンさんの革工房も イタリアにありましたし。 |
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アクセサリー、金細工などにも、 イタリアの職人じゃなきゃできないっていう 加工があるんですよ。 |
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ガラスとかもそうですね。 | |
あと靴もそうだ。 | |
あ、靴。この間、聞いた話なんだけれど、 一般の人が履く普通の安い靴は、 今ね、みんな、中国製なんだって。 工業の空洞化がイタリアでも起きてて。 でも、イタリア人としては、悔しいじゃない? だからサラリーマンの間で 「裸足で行くか中国製の靴を履いて通勤するか」 悩んでる、ってイタリアのラジオが ジョークを言ってた。 |
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それもジョーク(笑)。 | |
ジョーク、ジョーク、もちろんジョーク。 | |
「ほぼ日手帳」を作る過程で、 イタリアのタンナー(染め師)さんから 出てくる革って、 色が全然違うんですよ。 |
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そうでしょうね、 色彩感覚はもうすごいもの。 |
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同じ赤でも、ちょっと深みがあったりとか。 環境や気候にも左右される仕事なので まったく同じものをデジタルに出せないにしても、 その職人さんの持ってる感性とかって、 すごいですよね。 それがどうしても他の国の職人では 出せないって聞いたことがあります。 |
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遺伝子と伝統とでしょうね。 | |
ファッションもだからそういうことでしょうね。 パリと並ぶコレクションで、 元気があるのはミラノとニューヨークですから。 |
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そうですね。 | |
で、独特だもんね、ミラノコレクションは。 | |
そういうのって子供のときから すごくそういうものに触れてるからとか? |
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そうですよ。まわり中、空気が全部ね、 スーパーマーケット行って並んでる パッケージから全部違うわけだものね。 |
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イタリアって「専門店」が残っていますよね。 ノートだったらノートを作ってる ノート屋さんていうのがって、 ペンだったらペン屋さんていう、 1個、1個のプロダクトに その専門店があるっていうのがすごく楽しくて。 |
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そうそうそう。 | |
で、絶対裏で、おじさんがこう、 作ったりとかしてて。 |
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へえー。 | |
そういうのをずーっと見てたりとかするのが 大好きでしたね。 (つづきます) |