糸井 プロジェクトの協力者のなかに
会ってない人がたくさんいるってことは
ネット上に
仮想の事務局をつくるってことですよね?
西條 ええ、言ってみれば。
糸井 でも、実際にモノが動いたり、
人が集まったり‥‥
ということは、必要になるじゃないですか。
西條 はい。
糸井 そのあたりのことも、
西條さんの
「構造構成主義」という学問の枠組みで
考えられているんですか?
西條 「原理」というものが便利なのは、
「情報さえ与えてやれば
 答えは導き出せる」という点なんです。
糸井 ほう。
西條 もちろん、ぼく自身は
物流の仕組みを構築するなんてことは
やったこともないです。

でも、物流の専門ではないとしても
構造構成主義の考えかたによる
原理に照らして、
ぼくらなりに対応できたと思います。

既存の方法に、囚われないやり方で。
糸井 でも、たとえば
「人が具体的に集まる場所」なんかは
当然‥‥。
西條 作ってないです。
糸井 え?
西條 7、8人でミーティングする場合には、
ぼくの研究室に集まってます。

ただ、全体ミーティングをする場合には
100人くらい集まるので、
大学の教室を借りて、やっていますけど。
糸井 へー‥‥。
西條 やっぱり、実際に人に会うと
信頼関係ができて、
いろいろ、やりやすくなりますから。
糸井 いや、あの、つまり
「選挙事務所」みたいなのはないんだ。
西條 ないです。

それに、ぼくたちのプロジェクトでは
モノを貯めこまないんです。

たとえば、県庁などに余ってる物資も
リストをもらったら、必要としている避難所と
マッチングして送ってもらうだけ。

以前、大量に物資が余ってるという記事が掲載された
大阪市についても
ぼくらのプロジェクトに
「何とかできないんですか」みたいな声が
たくさん届いたんです。

そこで、電話をしたら、
自宅を出てから学校へ着く間に、
すべての物資リストが送られてきてまして、
その日のうちに、
被災地に送ることができたんです。
糸井 行政の仕組みを、部品として使ったわけだ。
西條 すでにあるものは、わざわざ作る必要がないので。

さっきのケースも
ペットボトルの水が1万本、あったんですが
次の日には全部、なくなりました。

2百以上のIKEAの新品のベッドも
全部必要としている避難所に送ってもらいました。
糸井 はー‥‥。
西條 南三陸町では、
震災2ヶ月後で水道普及率1パーセントです。
3ヶ月経ってもわずか7パーセントなんです。

水は、どこでも必要とされている。

つまり、被災地支援においては
「まったくマッチングがなされてない」
ということが、最大の問題なんです。
糸井 それはモノだけじゃなく人も、ですね。
西條 はい、そのとおりです。

ミスマッチ、
もっと言うと情報の断絶が根本にある。

ですから、まずは、現地に入った部隊が
対応の窓口を作ってきて
支援する側と
「信頼できる関係性」を構築することが
とても重要になってきます。
糸井 うん、うん。
西條 物資がうまく行き渡らない問題も、そう。

どちらが悪いというわけではなくて、
受け取る側の東北の行政も
「いっぱいいっぱい」なんですよね。

だから、どうしても
「受け取れません」という対応になって、
そう言われちゃったら、
送る側も、送りようがなくなってしまう。
糸井 現場は、がんばってるんですよね。
西條 そう、現場が悪いわけではないんです。

県の倉庫がいっぱいになってしまったら、
もう、断るより方法がない。
糸井 ええ。
西條 そもそもが、それほどまでに大量の物流を
さばくような仕組みじゃなかったわけです。
糸井 つまり、有事対応の構造になっていないと。
西條 だから「必要ないときに大量に届く」みたいな
ミスマッチが、起こっちゃうんです。

そこでぼくらは、まず現地に窓口を作り、
インフラは既存のものを使って、
必要なものを直で送るという方法をとってます。
糸井 支援物資をAmazonで買って送れる
「たすけあおうNippon」という仕組みも
使ってみてますけど、
あれ、寄付する側としてはものすごい楽ですね。
西條 ええ、クリックひとつですからね。
糸井 カードで支払できますし。

寄付をする、
お金を動かすという流れのなかに
「銀行へ行って、現金をおろして」
というアクションが入ると
急に、動きが鈍くなっちゃいますからね。
西條 時間がないという人も、たくさんいます。

つまり、物資を買ってきて梱包して、
郵便局なりコンビニに出しに行く、という。

Amazonの仕組みを使えば
海外に住んでいる人も、支援できますし。
糸井 その‥‥「窓口を作る」って言いますけど、
被災地ごと、避難所ごとに、
やりかたを指導してくるんですか?
西條 いやいや、それは一切やっていません。
ぜんぶぼくらが、直接電話で聞いてるんです。
糸井 あー‥‥。
西條 必ずしも、避難所には
パソコンの技術やノウハウを持ってる人が
いるわけでなないですから。
糸井 なるほど。
西條 既存のマッチングシステムは、
ぼくらの活動以前にも、たくさんありました。

でも、なぜそれが肝心な主被災地で
機能しないのかというと、
パソコンを触れる人が
ほとんどいない地域だったりするわけです。
糸井 そうか、そうだよなぁ。
西條 パソコンを使うことができるのは
大部分が
若くて、内陸に住んでる人です。

壊滅した地域の人は、
たぶん、ほとんど使えなかったと思います。
糸井 ぼくは、素人なもんですから
現地に「パソコンを触れる若者」を何人か、
送り込むのが正解かなと
思ってたんだけど、そうじゃなくて‥‥。
西條 はい、もう直接に電話で聞いちゃって、
いま必要な物資をリスト化し、
こちらから
インターネットにアップしてるんです。
糸井 ‥‥胸のすくような答えだなぁ。
それ、当たり前に考えついたの?
西條 いや、あの、うちの父とか見ていれば
分かるんですよ。
パソコンなんて
どれだけ教えたってできないと思うし。
糸井 そうか。
西條 それに、個人が運べる物資なんて
あまりにも限られています。

ようやくガソリンも回り始めたわけだし、
宅配便も
かなり近くまで届くようになったんです。

だったら、電話とネットをつかって
パパっとやっちゃうほうが、
絶対はやくて、確実なわけですしね。
糸井 それって、
要するに「アイデア」じゃないですか。
西條 まぁ、そうですね。
糸井 西條さんは、そういう、
アイデアをどんどん出せるような訓練を
してきた人なんですか?
西條 いや、とくにそういう訓練は。

どうすればいいのかなあと考えたことは
もちろんなんですけど。
糸井 動きながら、具体的に考えてた、と。
西條 そうですね、
「どうすれば、物資を届けられるのか」

現地に入れば、
具体的な状況も分かりますから。

宅配便は、ここまでは来てるらしい、
郵便局はこんな感じだ‥‥とか。
糸井 そういう情報は、現地の人に聞くんですか?
西條 そうですね。

逆に言うと、
そんな情報、どこも管理してませんから
現地の人に聞かないとわからないんです。

道が通じているかどうかさえ、
実際に行ってみて、
初めてわかるという状況だったんです。
糸井 つまり、現状の把握については、
足で稼いでる、と。
西條 有事では、ネット情報だけでは難しいです。

役所も情報を把握できてませんし、
そもそも
拠点避難所に設置されていた唯一のパソコンの
設定がされてなかったこともありました。
糸井 はー‥‥。
西條 現地に行かないと分からないことが
たくさん、あるんです。
糸井 行って、人に話を聞く‥‥のか。
西條 それも、役所の人ではなくて、
そのへんを歩いてる人に聞く。
糸井 なるほど、なるほど。

で、そのようにやっていくなかから
支援の「方法」を
徐々に作りあげていったんですね。
西條 ぼくは、状況をコントロールしようとは
思っていなかったので、
「こういうやり方をすれば、
 こういうことができます」ということだけ、
示していたんです。
糸井 うん、うん。
西條 たとえば、ちいさな避難所や
家族で寄り添っている個人避難宅などに対して
どうやったら支援できるか。

その方法だけ呈示したら、あとは
動ける人に
チームの組みかたなんかも教えて。

できれば、ひとりでも地元の人を入れた方が
うまくいく、とか‥‥。
糸井 あとは勝手に動いてください、と。
西條 はい。
糸井 全体の状況を把握してる人というのが
いないままに、
いろんなプロジェクトが動いてるわけだ。
西條 そういう組織じゃないと、
有事に適切に対応するのは難しいですね。
自律的に考えながら
まとまった動きができる組織じゃないと。
糸井 うーん、なるほどなぁ‥‥。
西條 現地の状況はどうなっているのか。
被災者の支援のために
今、どういう方法を作ればよいのか。

分からなくなったら、
そのふたつの問に、立ち返るんです。
ふんばろう東日本では
そうした自律的に動くための考え方を
共有するようにしています。
糸井 ほう。
西條 現地の「状況把握」を間違ったら‥‥。
「方法」は、
とたんに使い物にならなくなります。

<つづきます>

2011-06-20-MON