ジブリの仕事のやりかた。
宮崎駿・高畑勲・大塚康生の好奇心。


 宮崎駿と高畑勲の共通点。


糸井 設計図で管理をするものではなく、
もっと不定形なものを、
宮崎駿さんは、細部から作りあげる。

設計図を引くようなところについては、
「そういうことは、
 鈴木さんがやっておいてくれるから」
と、言うわけだけれど、
宮崎さんのやることも
鈴木さんのやることも、
やっぱり、両方、要るんだと思うんです。

設計図を作った
「鈴木さんのやったこと」を壊すことで、
ジブリの動物的な動きは
決まってくるのだから、宮崎駿作品の
「ひとりだからできること」
を理解しつつも、宮崎さんの
正反対の動きをする人が必要なわけで……。

アニメーション映画って、
絵画や小説と違って、
おおぜいの人を動かす仕事でもありますから。
鈴木 「長編アニメーション映画の
 すべてを支配して、ひとりで作る」
というやりかたを取る人間は、
おそらく世界でも、
宮崎駿が最初で最後だと思います。
糸井 「ぜんぶひとりでやりたいことを、
 しょうがないから
 みんなに手伝ってもらっている」
というかたちを取るからこそ、
宮崎さんは、ジブリのスタッフが
ヘッドフォンで音楽を聞きながら
仕事をやることをイヤがるのでしょうね。
耳栓をしていたら、宮崎さんの話を
いつでも聞くことができないから……。
鈴木 最近、ついに
ヘッドフォン問題について、
宮崎は決断したんです。

「あんなものを耳に当てていて、
 いい絵が描けるわけがない。
 若者の交流がなくなった。だから、
 午後6時まではヘッドフォン禁止!
 ……まぁ、6時からは、
 いろいろあるだろうから、
 ヘッドフォンをつけてもいい」
糸井 (笑)ついにアイデアが出たんですね。
宮崎さん、ヘッドフォンについては、
もう10年ぐらい、
イヤがっていたもんなぁ。
鈴木 ついに決断したんですよ。
ほんとは宮さん(宮崎駿さん)、
茶髪も禁止にしたかったみたいだけど、
それはぼくが抑えました。
糸井 「6時以降」
っていうのがいいですね(笑)。
ほんとは、
ぜんぶ禁止したかったんですよね?
鈴木 ほんとはそうでしょうね。
宮崎本人は気に入った音楽があると、
くりかえしくりかえし、
大きな音でかけているんです……
まぁ、まわりのみんなには
うるさい、というか、迷惑なんですけど(笑)。
糸井 街頭を走る選挙カーみたいなもので……
それにしても、全面禁止したいのに
「6時まではダメ」
というのは、さすがだなぁ。
鈴木 彼は、バランスを取りますから。
糸井 意外に、そういうところで
折衷案を出すんですよね。
鈴木 たぶん、宮崎駿の
タガがすべて外れてしまうと、
映画のお客さんも
よろこばないんですよね。

あのバランス感覚は、
いつもすごいと思うし、
それこそが宮崎アニメの
ヒットの秘密だとぼくは思っているんです。


あれだけヘンな人なのに、
最後には、いつもかならず
常識のあるものにしあげますから。
糸井 ギリギリで揺り戻すんだ。
鈴木 常識人の面も、あるんです。
高畑勲さんから聞いた
エピソードなんですけど、
昔、高畑さんと宮崎さんは、
東映動画という会社にいた頃に、
一緒に組合運動をやっていたんです。

そういうことを
「みんなのためにやる」
という時代だったんだけど、
宮さんはすぐに
「あいつとあいつとあいつとあいつは、
 ほんとは仲間に入れたくない!」
とか言い出していたそうです。
「ストライキをやっている時間を利用して、
 あいつは車の免許を取りにいった。許せない」
……そういうところは、まじめですからね。
糸井 「長編アニメーションを
 ひとりで作る監督」
って、他に、例はないんですか?

たとえば、『トイ・ストーリー』の
監督のジョン・ラセターさんのような人は、
宮崎さんのことをとても好きだし、
影響を受けているし
受けたいと思っているわけですよね。
そういう人とも、
宮崎さんはぜんぜん違うんですか?
鈴木 やっぱり、
アメリカ人は合理的ですよ。
ひとりで作ろうとは、思っていないですよね。
ふつう、あんな長編を
「ひとりで作ろう」なんて考えないですから。
宮崎駿のやりかたは希有な例で、今後、
世界でも出てこないと思うんですけどね。
糸井 日本のアニメ監督とも違うんですか?
鈴木 アニメーション監督といっても
ほんとにさまざまなんです。

たとえば、テレビアニメの
『巨人の星』を作った長浜忠夫さんという人は
「監督」として何をやったのかというと、
絵コンテは人に描かせるし、
絵の部分はぜんぶ人に任せていました。
何に力を入れたのかと言うと、シナリオと、
できあがったものに声を入れるときだけなんです。

そこでは、熱心に、
こうじゃない、ああじゃないとやるわけで……
ひとくちに監督と言っても、ずいぶん違っている。

宮崎駿と他の監督の違いは、
絵の部分にウワーッと関わっていくところです。
もちろん、『イノセンス』の押井守なんかも、
こういう世界にしたいということで、
参考になる絵だとかいろいろなものを
持ってきますけれど、基本的には、
絵の部分は他人に任せますからね……
そうするとやっぱり、重視するのは、
シナリオや音の部分ということになるんです。

押井守の場合は、できあがった映像を
コンピュータで加工して、そこで
ある色をつけるということをやっていますけど、
監督と言っても、
やっていることはそれぞれ違うんです。

日本のアニメーション界で言えば、
ぼくもいろんな人と
つきあってきていますけれど、
いちばん宮崎駿に近いことをやっているのは、
高畑勲さんですよね。

彼は絵は描けないけれども、
絵はぜんぶ自分が支配する監督なんです。
ぼくが見てきたいろんな監督のなかで、
そこまで絵の部分をやっているというのは、
このふたり以外にはいないんです。

やっぱり、このふたりが
一緒に作っているときが
最強のコンビだったんですよね……。
  (つづきます)

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2004-07-19-MON


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