糸井 |
鈴木さん、こんにちは! |
鈴木 |
こんにちは!
今回の糸井さんとの対談の
「スタジオジブリの仕事のやりかた」
というテーマを見て、ぼくはびっくりしまして。
ジブリでは、そんなに立派なことを、
やっていないですから……(笑)。 |
糸井 |
当事者はそう言うでしょうけど、
おそらく「やっていないんです」と
言っていたとしても、みんな、
ジブリならではの職人仕事のやりかたに、
興味を持っているとは思うんです。 |
鈴木 |
いやぁ、特に、
「人が育つこと」って、
いちばん困っているところ、なんですよね。 |
糸井 |
(笑)実は、どこの組織も、
それは、かなり痛いところだと思うんです……。 |
鈴木 |
「自分がやれる」ということと
「教えることができる」ということとは、
別の才能だったりしますからね。 |
糸井 |
たしかに、百点満点の才能ばかりが
集まるということは、
世の中ではありえないのに、その
「できないことがある」
ということは、才能のある人であるほど、
わかりにくいでしょうから。 |
鈴木 |
まぁ、宮崎駿には、
絶対にわからないことですよね。 |
糸井 |
宮崎さんは、やっぱり
「なんで、こんなことをできないんだ」
と思うのですか? |
鈴木 |
宮さん(宮崎駿さん)は、
そもそも、自分のことを
「努力家」だと思っていますからね……。
ただ、ぼくがいつも宮さんに言うのは
「宮さんは天才なんだけど、
みんなは、宮さんの言うようにはできないんだ」
という点です。そう言うと
「天才なんです」というところで、
彼はちょっと
ニコッとはするんですけどね(笑)。 |
糸井 |
(笑)悪い気はしない、と。 |
鈴木 |
ええ。
だけど、
「みんなはできない」というところを、
どうも理解できないみたいです。
「自分は努力をしている」
と思っているから。
たしかに、努力家でもあって、
観察者としてはほんとに徹底しています。
だけど、それだけではないでしょう。
ぼくはアニメーションの現場を、
もう、20年ぐらい見てきているわけです。
アメリカの制作者たちともつきあっていますが、
アメリカや日本ということを問わず、
宮崎駿とそれ以外の作り手の違いを、
最近つくづく感じるんです。
何が違うかというと、宮崎駿という人は、
本来は、長編映画を、
ひとりでぜんぶ作りたいんですね。
宮さんの場合には、
全体の構成だけではなくて、
どんなに細かい部分に至るまで、
ほんとはすべて、ひとりで作りたいんです。
ところがアメリカの制作者ならば
「長編というのはひとりでは作れない」
と非常に合理的に考えますよね。
ですから、アメリカでは、
まずはテーマを、主要な人たちで話しあうんです。 |
糸井 |
「チームで、考えを共有する」と。 |
鈴木 |
ええ。
「ひとりでは作れないから、
分担をしなければならない」
というのは、前提であるはずなんですよ。
ところが、宮崎駿の場合には、観念としては
「みんなで作りたい」という気持ちは
あるでしょうけれども、
端で見ていると、どうしても、
ひとりでぜんぶを支配して作りたいようで……。
映画をどう作るかというときの、
宮崎駿の最大の特徴は、
「細部からはじめるところ」なんです。
その細部というのは何かと言うと、彼は
「主人公の洋服、どうしよう?」
と考えだすんです。
まだ、何を作るのかさえわからないときに、
まずそこを考えているものだから、
他の人は
そんなときにはクチを出せないですよね。
細部なんてもんじゃないでしょう? |
糸井 |
(笑)まだ、その時点では
誰も知らない世界なんですから。 |
鈴木 |
いきなりぼくなんかにも、
「鈴木さん、今度のヒロインどうしよう?」
っていうんです。
何を聞きたいのかと言うと
ヘアスタイルなんですね。
宮さんの場合はカンタンなんですよ。
おさげにするか、おかっぱにするか、
長く描くか……だけど、
こっちはそんなことを言われたって、
わからないでしょう?
宮崎駿の中では、それは、
映画を作る上で、自分のなかの
とても大切なものなんです。
彼はそれをじーっと考えていて、
なにかの拍子に決めるんです。
そうすると、そこは結局、
誰にも手が出せないんですよ。
細部からはじめているから。 |
糸井 |
映画の品質保証が、
もうそこではじまっているわけですね。
99.999%の純度のものを生むとしても、
宮崎さんは「.999」のところを、
先に作ってしまうんだ。おもしろいなぁ。 |
鈴木 |
話はまだできていないにも関わらず、
その女の子のヘアスタイルは、
実は後々になって、
話にも関わってくるんです。
だからこそ、ほんとうに誰も手が出せないんです。 |
糸井 |
共同で作ろうとしたら、
そのやりかたは、困りますよね……。 |
鈴木 |
ぼくは、このことについては、悩みに悩みました。
まずは、
「宮さんはなんでそんな作り方するのかなぁ」と。
単純に
「みんなでテーマを話しあえばいいのになぁ」
とか思ってみたこともあります。 |
糸井 |
でも、宮崎さんからしたら
「なんでそんなことを、
みんなでやらなければいけないんだ?」
ということですよね。 |
鈴木 |
そうなんです。
それに、実際、
みんなで一緒に作りはじめても、
その時点では、ふつうの人にとっては、
わけのわからないことばかり言う。
例えば彼の得意な言葉には
「作品を作るということは、
脳味噌のフタを開けることなんだ」
というものがあるんですけれど……
それは、ぼくなんかは、
長く接している中で、
なるほどなぁとは思うんです。
ところが、若い連中がやってきて
「作品はどうやったら作れるんですか」
と聞いているときにも、
宮崎駿の答えはそれなんです。
言われたほうは、
真剣にそのまま聞いちゃうわけでしょう? |
糸井 |
その宮崎さんの言葉は、
ほんとに見事だけど、
たとえば18歳の子には困りますよね。 |
鈴木 |
困りますよ……。 |
|
(つづきます) |