糸井 |
今回の『ハウル』は、
お話を追わないのに
おもしろがれるっていう、
もう、とんでもないもので……。
三歳の子どもは、オッケーですよね?
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鈴木 |
子どもはよろこぶと思います。
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糸井 |
よろこぶでしょう!
おとなの俺も、
「考えるのは、もう、後にするわ」と思った。
ジブリ作品には、『もののけ姫』みたいに、
壮大なクエスチョンマークを
投げ出して終わるものもあったし、
なぞなぞを沢山しかけた
『千と千尋の神隠し』もあったけど、
今回の作品は、絶えず、
舞台の上で芸がおこなわれているような……。
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鈴木 |
ええ。
実は宮さんは、絵コンテを
一時間半ぶんくらい描いたときに、
ぼくに言ったんです。
「どういう映画にしようか?」って……(笑)。
まだ悩んでいた、その時点で。
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糸井 |
それも、おもしろいですよねぇ……。
テーマをくっきりだして、
それに合わせて映画を作るなんていうのは
もうおもしろくもなんともないわけで、
経営者みたいな発想になっちゃいますから。
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鈴木 |
宮崎駿っていう人は、
ちょっとおもしろいところがある人で、
『千と千尋の神隠し』のとき、
作品もよかったけれど、
宣伝がすごかったということを
ずいぶん、外の人たちから言われたんです。
そしたら……
そういうことが、気になる人なんですね。
それで、いろんな
ジブリの若い連中をつかまえては
「宣伝が良かったから
『千と千尋』はヒットしたのか?
おまえはどう思う?」
と、ひとりひとりにきく人なんですよ。
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糸井 |
(笑)こわいですね。
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鈴木 |
はい。
それをきかれたときに、若手が、
「いや……」
とためらうと、その日からね、
おぼえが悪くなったりするんですけれど(笑)。
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糸井 |
「当然、作品がよかったんだろう!」
といいたいわけですよね。
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鈴木 |
まあ、そういうことなんです。
だから彼が今回の映画を作るときの
ひとつの大きなテーマは、
「こう作れば、宣伝できないだろう!」
であって……。
だからぼく、宣伝をやめちゃったんです。
この方針は去年の暮れに決めたんですが、
もちろん、根拠もあるんです。
たとえば今年の
夏の映画を見ていてもそうですが、
宣伝費をいっぱいかけてがんばった作品ほど、
お客さんがきていないですよね。
これにはほんとは
いろいろな理由があるんですけど、
だったらまぁ、宣伝をしない、
という方法をとって、よかったなぁ、と……。
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糸井 |
つまり、上映して、
お客さんが見たこと自体を、宣伝にすると……。
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鈴木 |
おかげさまで、
木村拓哉さんにも出演をねがえたわけです。
キムタクが声優、公開は延期、
ベネツィア映画祭の騒ぎ……そういうことで、
『ハウルの動く城』のタイトルは、
報道のなかで、浸透していったわけです。
ところが、内容は誰もわからない。
当たり前ですよね。
ぼくらが宣伝資料を作っていないんですから。
ぼくは今回、作らないと決めたんですよ。
なぜか?
マスコミのかたがた、評論家のかたがたには、
映画を見て、
ほんとうに思ったことを書いてほしかったから。
これは、ぼくの願いなんです。
どうしてもプロの方というのは、
こちらが出す宣伝資料に書いてあることを
もとにしてしまうんですが、
そういうことを
やめてみたらどうなるだろう?
感想をリードしないとどうなるだろう?
すると、
いろいろなことが起きているんですよね。
「ほんとに資料はないのか?
どっかに、あるんだろう!
企画書はどうなってるの?」
いろいろなマスコミのかたがた、
評論家のかたがたから、
そういう問いあわせが殺到しているんです。
そういうことも、ちょっと、
やってみたかったんですけどね。
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糸井 |
鈴木さんには、
メールでちょっとお知らせしましたが、
木村拓哉くんの、
今回の仕事のよろこびようというのは、
すごかったです。
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鈴木 |
彼がよろこぶと同時に、
いろいろなかたの評判が、
ものすごくいいですよね。
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糸井 |
いいですか。
いや、ぼくは、
木村拓哉くんの才能やポテンシャルの
埋蔵量の大きさを、
もともと知っているつもりですが、
『ハウルの動く城』を見て、
あらためて思いました。
男までひきこむ力があるから、
女の子に人気があるんですよね。
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鈴木 |
声の出演をしていただいている
美輪明宏さんが、こないだ、できあがった
『ハウル』をあらためてじっくり見たんです。
見て、開口一番、
「キムタク最高!」
ここから、はじまったんです。
美輪さんのコメントがよかった。
「だって、あいつ、子持ちでしょ?
少年が青年にうつるときの
ある種のセクシーさを出してる……
なんで出せるの? あいつは」
こういう言いかたをしたんです。
「私も、おねがいしようかしら?」
みたいなことをいってましたけど(笑)。
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糸井 |
木村くんは、考え抜いて、
収録に出かけていったはずです。
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鈴木 |
木村さん本人としゃべって、
それはよくわかりました。
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糸井 |
子どもができてからの
気持ちだと思いますけど、
これは、子どもに残すんだと思って
出かけていってるでしょうから。
決意が違うんですよね。
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鈴木 |
すごいです。
そのストレスはすごいっていってました。
子どもと、奥さん。
とにかく彼は、
宮さんがある指示を出すと、
すぐ、それに対応できるんです。
いろんなものを用意してきているんです。
ぼくは、あるとき
彼とふたりきりになったときに、
「木村さん、あれは声に出して
何回も練習したんですか?」
ときいたら、
「一回も、声、出してませんよ、ぼく」
といいだしたんです。
「口のなかでやっていたんですか?」
ときいたら、うなずいたんです。
「声に出して、
しゃべっちゃって練習すると、
本番でダメになると思った」
と、そのことを強調していました。
だから口のなかでぶつぶつやっていた、
その練習はしましたと……。
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糸井 |
新鮮さがなくならないような練習。
木村くんは、普段着のふりをした
芝居をいっぱいしてきた人だから、
みんなは、それで今回はダメだろう、
っていうふうに、思ったんだろうけどね。
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鈴木 |
心配の向きが、けっこうありましたねぇ。
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糸井 |
でも、そうじゃないものを、
彼は抱えてますから、
出すに決まってるんだけど、
ハウルは見事でしたねぇ……。
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鈴木 |
もう、こんなに合うキャラクターは
なかったですよね。
ぼくが宮さんに推薦したという
経緯があったので、
ぼく自身、ドキドキだったんですけど。
ほんとうに、すばらしかったです。
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(月曜日に、つづきます)
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