ジブリの仕事のやりかた。
ハウルの動く城・公開直前の最新談話!


23
 声優・木村拓哉くんの底力。

糸井 今回の『ハウル』は、
お話を追わないのに
おもしろがれるっていう、
もう、とんでもないもので……。
三歳の子どもは、オッケーですよね?
鈴木 子どもはよろこぶと思います。
糸井 よろこぶでしょう!

おとなの俺も、
「考えるのは、もう、後にするわ」と思った。

ジブリ作品には、『もののけ姫』みたいに、
壮大なクエスチョンマークを
投げ出して終わるものもあったし、
なぞなぞを沢山しかけた
『千と千尋の神隠し』もあったけど、
今回の作品は、絶えず、
舞台の上で芸がおこなわれているような……。
鈴木 ええ。

実は宮さんは、絵コンテを
一時間半ぶんくらい描いたときに、
ぼくに言ったんです。
「どういう映画にしようか?」って……(笑)。
まだ悩んでいた、その時点で。
糸井 それも、おもしろいですよねぇ……。
テーマをくっきりだして、
それに合わせて映画を作るなんていうのは
もうおもしろくもなんともないわけで、
経営者みたいな発想になっちゃいますから。
鈴木 宮崎駿っていう人は、
ちょっとおもしろいところがある人で、
『千と千尋の神隠し』のとき、
作品もよかったけれど、
宣伝がすごかったということを
ずいぶん、外の人たちから言われたんです。

そしたら……
そういうことが、気になる人なんですね。

それで、いろんな
ジブリの若い連中をつかまえては
「宣伝が良かったから
 『千と千尋』はヒットしたのか?
 おまえはどう思う?」

と、ひとりひとりにきく人なんですよ。
糸井 (笑)こわいですね。
鈴木 はい。
それをきかれたときに、若手が、
「いや……」
とためらうと、その日からね、
おぼえが悪くなったりするんですけれど(笑)。
糸井 「当然、作品がよかったんだろう!」
といいたいわけですよね。
鈴木 まあ、そういうことなんです。

だから彼が今回の映画を作るときの
ひとつの大きなテーマは、
「こう作れば、宣伝できないだろう!」
であって……。

だからぼく、宣伝をやめちゃったんです。

この方針は去年の暮れに決めたんですが、
もちろん、根拠もあるんです。

たとえば今年の
夏の映画を見ていてもそうですが、
宣伝費をいっぱいかけてがんばった作品ほど、
お客さんがきていないですよね。

これにはほんとは
いろいろな理由があるんですけど、
だったらまぁ、宣伝をしない、
という方法をとって、よかったなぁ、と……。
糸井 つまり、上映して、
お客さんが見たこと自体を、宣伝にすると……。
鈴木 おかげさまで、
木村拓哉さんにも出演をねがえたわけです。

キムタクが声優、公開は延期、
ベネツィア映画祭の騒ぎ……そういうことで、
『ハウルの動く城』のタイトルは、
報道のなかで、浸透していったわけです。

ところが、内容は誰もわからない。

当たり前ですよね。
ぼくらが宣伝資料を作っていないんですから。
ぼくは今回、作らないと決めたんですよ。

なぜか?

マスコミのかたがた、評論家のかたがたには、
映画を見て、
ほんとうに思ったことを書いてほしかったから。
これは、ぼくの願いなんです。

どうしてもプロの方というのは、
こちらが出す宣伝資料に書いてあることを
もとにしてしまうんですが、
そういうことを
やめてみたらどうなるだろう?
感想をリードしないとどうなるだろう?

すると、
いろいろなことが起きているんですよね。

「ほんとに資料はないのか?
 どっかに、あるんだろう!
 企画書はどうなってるの?」

いろいろなマスコミのかたがた、
評論家のかたがたから、
そういう問いあわせが殺到しているんです。
そういうことも、ちょっと、
やってみたかったんですけどね。
糸井 鈴木さんには、
メールでちょっとお知らせしましたが、
木村拓哉くんの、
今回の仕事のよろこびようというのは、
すごかったです。
鈴木 彼がよろこぶと同時に、
いろいろなかたの評判が、
ものすごくいいですよね。
糸井 いいですか。

いや、ぼくは、
木村拓哉くんの才能やポテンシャルの
埋蔵量の大きさを、
もともと知っているつもりですが、
『ハウルの動く城』を見て、
あらためて思いました。

男までひきこむ力があるから、
女の子に人気があるんですよね。
鈴木 声の出演をしていただいている
美輪明宏さんが、こないだ、できあがった
『ハウル』をあらためてじっくり見たんです。

見て、開口一番、
「キムタク最高!」
ここから、はじまったんです。
美輪さんのコメントがよかった。

「だって、あいつ、子持ちでしょ?
 少年が青年にうつるときの
 ある種のセクシーさを出してる……
 なんで出せるの? あいつは」


こういう言いかたをしたんです。
「私も、おねがいしようかしら?」
みたいなことをいってましたけど(笑)。
糸井 木村くんは、考え抜いて、
収録に出かけていったはずです。
鈴木 木村さん本人としゃべって、
それはよくわかりました。
糸井 子どもができてからの
気持ちだと思いますけど、
これは、子どもに残すんだと思って
出かけていってるでしょうから。
決意が違うんですよね。
鈴木 すごいです。
そのストレスはすごいっていってました。
子どもと、奥さん。

とにかく彼は、
宮さんがある指示を出すと、
すぐ、それに対応できるんです。
いろんなものを用意してきているんです。

ぼくは、あるとき
彼とふたりきりになったときに、
「木村さん、あれは声に出して
 何回も練習したんですか?」
ときいたら、
「一回も、声、出してませんよ、ぼく」
といいだしたんです。

「口のなかでやっていたんですか?」
ときいたら、うなずいたんです。

「声に出して、
 しゃべっちゃって練習すると、
 本番でダメになると思った」


と、そのことを強調していました。
だから口のなかでぶつぶつやっていた、
その練習はしましたと……。
糸井 新鮮さがなくならないような練習。

木村くんは、普段着のふりをした
芝居をいっぱいしてきた人だから、
みんなは、それで今回はダメだろう、
っていうふうに、思ったんだろうけどね。
鈴木 心配の向きが、けっこうありましたねぇ。
糸井 でも、そうじゃないものを、
彼は抱えてますから、
出すに決まってるんだけど、
ハウルは見事でしたねぇ……。
鈴木 もう、こんなに合うキャラクターは
なかったですよね。

ぼくが宮さんに推薦したという
経緯があったので、
ぼく自身、ドキドキだったんですけど。
ほんとうに、すばらしかったです。
  (月曜日に、つづきます)


感想メールはこちらへ! 件名を「ジブリの仕事」にして、
postman@1101.comまで、
ぜひ感想をくださいね!
ディア・フレンド このページを
友だちに知らせる。

2004-10-29-FRI


戻る