鈴木 |
人間は、ウソが好きで、
ほんとは、「ほんもの」なんて、
見たくないのではないでしょうか?
ちょっと固い話でいうと、
『木を植えた男』という
アニメーション映画があるんです。
カナダのフレデリック・バックさんという人が
監督なんですけど、
これはいろんな人が、大好きな映画なんですね。
もともとの原作にあたる物語は、
ジャン・ジョノという人が、
リーダーズ・ダイジェストに載せるための
感動的なノンフィクションを依頼されて
書いたものでした。
ところが、それは、ぜんぶ、作り話だった。
そのことが原因で
最終的に掲載がダメになるんです、
ウソだからということで……。
だけどぼくは、ウソであっても、
あれは非常におもしろい話だと思います。
感動できればいいじゃないか、と感じる。
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糸井 |
ええ。
ほんとだといわれてることも、
ある見方にしか過ぎないはずだから、
ウソとの違いって、
ほとんどないんですよね?
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鈴木 |
そうですよ。
だいたい、
ほんとのほうがつまんないですもん。
野球の話になりますけど、
ぼくは、大リーグにいく前から、
野茂が大好きだったんです。
清原と対戦すると、彼は
どまんなかに投げてホームランを打たれる。
ところが、他の人には打たれない。
しかし最後、もう一回、
おなじ球を投げていたんです。
かならず、やってました。
ぼくはそれを見たくて、
野茂が登板する試合って、
見られるときには、
かならず見ていたんですけど。
打たれることがわかってるのに投げる。
で、たいがいまた打たれるんだけど、
おなじ球を投げる。
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糸井 |
清原のほうでも、その球が来ると
知りつくして打つんですよね?
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鈴木 |
ええ。
知ってて、打つんですよ。
そういうのって、
なんか、好きなんですよねぇ。
両方の選手とも、好きだったですけど(笑)。
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糸井 |
つまり、野茂も清原も
「みんながたのしめること」
の、作者になるわけですよね?
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鈴木 |
そうです。
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糸井 |
もちろん、
勝負ごとで勝ち負けを譲っちゃうと、
勝つために努力しなくなるから
どうにもならなくなっちゃうんだけど、
勝つためにがんばるなかでさえも、
最大限、おもしろくするっていうのが、
プロ野球ですよね。
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鈴木 |
ほんとにそう思います。
ぼくが、今年、中日ドラゴンズが活躍すれば、
『ハウルの動く城』も
ヒットするかなぁと思ったりしているのとおなじ。
関係ないんですけど、そういうことも思うんです。
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糸井 |
(笑)まぁ、『ハウル』は、
どっちにしても、ヒットはするんでしょう。
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鈴木 |
そうですかね?
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糸井 |
今のは、
心配そうなフリをしているんですか?
『ハウルの動く城』は、
十一月二〇日から公開ですけど。
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鈴木 |
公開前はドキドキするんです。
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糸井 |
鈴木さん、いつもそうですよね?
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鈴木 |
ええ。
どんなにみんなに太鼓判を押されても、
行ってみたらお客さんが
三人しかいなかったらどうしよう……と。
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糸井 |
それ、鈴木さんは、
ほんとに思うみたいなんですよね。
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鈴木 |
ほんとに思うんです。必ずそうです。
なんか、想像力が
そこのところだけ長けてるんです。
とにかく、みんなの期待値が高くても、
いったら混んでるからやめようと、
いろんな人がそう思ったら、どうなるだろう?
……つい考えちゃうんです。
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糸井 |
イヤなことばっかり考える?
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鈴木 |
そうなんですよ。
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糸井 |
いいことは想像してないんですか?
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鈴木 |
いいことは想像してないですよね。
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糸井 |
いいことになっちゃったら、
泥縄式で次のことを考えるんですか?
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鈴木 |
というのか、
悪いことを考えていると、
大概、いいことになるんです。
だいたい、そうなんです。
気が小さいのかもしれないですけど、
悪いことを考えてると
よくなるということについては、
自分の中で方程式ができているんです。
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糸井 |
おおきいことをやった人って、
みんな、俺は気が小さいだとか、
石橋を叩いて壊すから泳いで渡るとか、
いいますよね?
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鈴木 |
でも、ほんとに来るかどうかは、
まだ、結果が出てないですもん。
お客さんが来てもらえるかどうかは
結果が出てない。
結果がわからないと、
やっぱり、不安になりますよねぇ。
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糸井 |
試写会は、
そういう予想の
手助けにはならないですか?
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鈴木 |
たしかに、
試写会も多くの人に見ていただいて、
よろこんではいただいてるんですけども、
やっぱりまだわからないと思っています。
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糸井 |
『千と千尋の神隠し』のときも思ったけど、
『ハウルの動く城』の試写会は、ぼくは、
もう何の話でもいいや、と思って見ていました。
「どうなるんだろう?」
とかじゃなくて、そのつど、どういう話だか、
忘れて見ているというか……。
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鈴木 |
それは、正解ですよね。
あの映画を見るときには。
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糸井 |
宮崎さんの個性って、そのつど、
「今日、手品見せてくれるって
いってたんじゃないの?
歌をうたいだした!」
とでもいうような──。
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鈴木 |
今までの宮崎も、
ずいぶん映画の文法から
はずれた作り方をしてきているとは
思うんですけども、今回ほど
はずれたことは、ないんです。
今回の映画も
約一時間五九分なんですけど、
一時間五〇分くらいまでは、
ストーリーボードというか、
絵コンテを描いていたんです。
ところが……
終わりが見えないんです。
宮さん(宮崎駿さん)は、
いつもそういう作り方なんですけど、
まあ、ぼくのところへ来て、
「どうしよう?」というんです。
「終わりが、わかんない」
「宮さん、
ふつうだったらこうですよ。ただ……」
いろんな話をしていると、
どう考えても、
あと三〇分ぐらいかかりそうだったんです。
そこから計算すると、
ほんとにこれはご迷惑をかけたんですけど、
どう考えたって、映画の公開に
まにあいそうにない……それで
公開延期になっちゃったんですけど、
話しているうちに「これだ!」というので、
やってみたら、約十分で、終わったんです。
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糸井 |
ぼくは、コピーという仕事で
ジブリの宮崎さんと鈴木さんの考えを
ほんのすこしだけ、
共有させていただいたんですが、
今回の『ハウルの動く城』の顛末も、
ずいぶんあとになってから、鈴木さんに、
もっとくわしくきいてみたいぐらいなんです。
『ハウル』を作る過程の、ジブリの
宮崎さんと鈴木さんたちの物語って、
ぼくが横で見ていても、
ハラハラするやら、ニヤニヤするやらで……
たのしかったですねぇ。
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鈴木 |
はい、たのしかったです。
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糸井 |
中日も勝ってたし、
愛知出身のイチローは打つし、鈴木さんは、
退屈なんかするはずはなかったでしょうね。
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鈴木 |
今年はやっぱり、たのしいですね、今のところ。
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(明日に、つづきます)
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