糸井 |
今、鈴木さんと、ずっと一緒に
中日ドラゴンズと西武ライオンズの
日本シリーズを観戦してたけど……熱すぎる!
一般的にいえば、あのスタジオジブリの、
あの宮崎駿さんのプロデューサーですよ。
あれだけみんなが熱狂している作品には、
冷静にメスを入れる仕事をしている鈴木さん。
でも、これだけの中日への思いがあって……。
そういうのが、おもしろいなぁと思うんです。
鈴木さんは愛知県の出身だし、
ドラゴンズファンだっていうことは
前々から、知ってはいました。
たしか、中日スポーツを、
欠かさず読んでいるんですよね? |
鈴木 |
ぼくがものごころついたときから
毎日読んでる新聞は、中日スポーツなんです。
東京にきてからも
ずっと中日スポーツをとっていますから、
もういままでに通算で
何回読んだかわからないぐらい、ですね。
ドラゴンズが五〇周年記念で
出した本があって、
これが中日スポーツの記事を
集めたやつなんですけど……。
やっぱり、いいんですよ。
ヒマなときに見るんですけど、
いい本なんです。 |
糸井 |
(笑)今も、中日以外のことについては、
ものすごくクールに見ている鈴木さんが、
そこまで! という場面が何度もあって。
だから、今日は、時期も時期ですし、
中日についての話をききたかったんです。
こういう話、きく機会もないけど、
する機会もあんまりないじゃないですか。 |
鈴木 |
ありません。
わずかにあるっていうのは、
名古屋にいったときだけです。 |
糸井 |
名古屋に、
同じようなファンがいるんですか? |
鈴木 |
名古屋だと、
映画のキャンペーンその他で、
ラジオやテレビに出るじゃないですか。
そういうときにドラゴンズの話をするんです。 |
糸井 |
向こうも、水を向けるわけだ? |
鈴木 |
いや……
向こうが水を向けなくったって、
こちらからしゃべっちゃうんです。 |
糸井 |
(笑)人間っぽくて、いいなぁ。
ぼくは、そういうところに、
ものすごく興味があるんです。
今、お金持ちの人たちが、
球団を買いますよ、とかいうじゃないですか。
あの人たち、宣伝になるとか
いろんな理由をいってるけど、
きっと「そういうこと」が好きなんですよね。 |
鈴木 |
今、仙台で、ライブドアだ、楽天だ、
っていってるじゃないですか。
そのなかで、ぼくがひとつだけ
気に入らない話があるんです。
仙台は、あまりにも
球場ロッカーがひどいから直すと……
ぼくは、今のまま、はじめてほしいんです。
どうしようもない状態からはじまっていって、
強くなってくために、
ある日、球場をきれいにすると。
やっぱり、ドラマが欲しいですよね。 |
糸井 |
つまり、それはウソなんだけど……? |
鈴木 |
そう。ウソでもいい。
内緒で修繕したっていいんです。 |
糸井 |
それって、
外国のウィスキーの工場見学に似てる。
すごい昔ながらの樽で、
昔ながらの作りかたで、
昔のような服を着た人が見学順路で
「ホイッ、ホイッ」
と樽を運んでいたりするんだけど、
その工場はひとつまるごと、
人に見せるための工場だっていうんです。
……ほんとは奥に、近代的な工場がある。 |
鈴木 |
そういうのは、うれしいですよね!
いい話ですよ、それは。 |
糸井 |
いいですよねぇ。 |
鈴木 |
だから仙台のチームは、
最初からね、お膳立てして
きれいなところで集めてやるんじゃあ、
夢がないと思うんです。 |
糸井 |
夢があるっていうのは、
ボロのほうなんだ、と。 |
鈴木 |
そうです。ぼくはそう思います。 |
糸井 |
そのほうが、長く遊べるもんね。 |
鈴木 |
そう。遊べますよ。
それでチームが、徐々に強くなっていく……。 |
糸井 |
つまり、親に豪邸を建ててもらって、
新婚をはじめる、
みたいなことではいけないと。 |
鈴木 |
それじゃ、つまんないですもん。
しょんべんくさいぐらいで、
いいんじゃないですか? |
糸井 |
つまり、
これからのぜいたくって、
そういうことですよね? |
鈴木 |
みんなね、ほんとは、
ほんものなんか好きじゃないですよ。
やっぱり、ウソが好きですから。 |
糸井 |
芝居が好きですよね……。 |
鈴木 |
絶対にそうですよ。そう思います。 |
糸井 |
ほんものって、あわれなものですから。 |
鈴木 |
ええ……だって、つまんないですもの。 |
糸井 |
これは、すごく重要な部分ですよね? |
鈴木 |
ぼくですら、物語がありますから。
十チームぐらい集まって、
草野球をやったことがあるんです。
その第一試合で、
ぼくは一番バッターでした。
で、ぼくは、はじまる前に、
ピッチャーに頼みに行ったんです。
「野球だからたのしいほうがいいでしょ?
一球目、ストレート、どまんなか、頼む!」
そしたら、そいつがほんとにどまんなかに、
ゆるいボールを投げてくれたんです。
……フェンス、越えたんですよね。
やっぱり起こるんですよ、そういうことって。 |
糸井 |
ぼくも、喘息だった頃、
炎天下の草野球のチームに入って、
たまたま偶然、思いっきりふったら、
ほんとにフェンスを越えちゃったんです。
それ以降はまったく打てなかったんだけど、
そういうめぐりあわせ、
っていうようなことに対しては、
こう、祈りを捧げたいというか……(笑)。 |
鈴木 |
よくわかりますよ。
すごくよくわかります。
やっぱりみんな、
おもしろい物語を見たいですもの。 |
糸井 |
今の鈴木さんの仕事って、
そういうことですよね? |
鈴木 |
この夏、
いろいろな映画が公開されましたが、
スパイダーマン2で、
ぼくはショックを受けたんです。
当然テレビで宣伝しますが、
スポットの中で、スパイダーマンが
マスクを取っちゃうんです……。
ぼくは、これは、いけないよ!
といいたくなるんです。
それは、誰だってわかっていますよ。
それでも、マスクって、
取っちゃいけないと思うんです。
ウソでもいいから、
マスクは、していてほしい──。 |
糸井 |
そうですね。
しかも、
コマーシャルの中でやっちゃったんだ。 |
鈴木 |
これは、お客さん、
見にいかないですよ、
そういうことをやっちゃったら。 |
糸井 |
つまり、
楽屋オチみたいなことをしちゃったわけだ。 |
鈴木 |
そうなんです。
ただそれがヒントになって、
ぼくらが今度公開する
『ハウルの動く城』という作品では
ほとんど情報を出していません。
テレビでもなんでも
主人公のおばあちゃんの絵しか
出ていないでしょう?
いつものジブリの
若い女の子がひとつも出ない。
宮さんの描いてる絵だから、出せば
いつもとおんなじ顔なんでしょうけど、
だけど、見せない。
それが大事だと思ってるんです。 |
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(明日に、つづきます) |