糸井 |
たぶん、
現状肯定から作品を生み出したり、
近くのものからヒントを得たりすることも、
日本風なんですかね。 |
鈴木 |
そうでしょうね。 |
糸井 |
それも、いいもんですよね。
たとえば、いま自分の中で
「革命」
という言葉って、何にも響かないんです。
それこそ「冷蔵庫に革命が起こった」から
「日本は革命が必要だ」まで、どんな表現でも
「革命なんか起こしたら、
他のとても大切なことが、
10年遅れちゃうんじゃないか?」
という恐怖さえ感じるような表現なんです。
革命の焼け野原があったおかげで、
生きていること自体のおもしろさが
なくなっちゃうんじゃないかというか……
「革命」よりも、
現実的な「変化」のほうが、
ずっといいなぁと思います。 |
鈴木 |
わかります。
「革命」という言葉は、特に、
みんなで食べちゃったんですね。
かつて、その言葉が
光り輝いた時代があったけど……。 |
糸井 |
そうですね。
おもしろく感じた時期は、
たしかにあったんです。
でもいまは、早い話が、
「カイゼン」の延長線上に、
あのトヨタという
最高峰の企業が築きあげられた、
という時代に来ているわけですし。
やっぱり「近くのもの」が、
おもしろいんだと思う。
……今度発売される、
大塚康生さんの『動かす喜び』という
DVDを見たのですが、あの人は、
宮崎さんと高畑さんの先輩筋ですよね。
ジブリでは、どんな役割を
持っているかたなのですか? |
鈴木 |
具体的には、
新人教育をやってもらっています。
宮崎駿や高畑勲と、盟友として
ずっとやってきたうちのひとりで、
この3人のなかで、
いちばん年齢が上のかたです。
この世界に宮さんが入ったときに、
アニメーションのイロハを教えてくれたのは、
大塚さんなんです。
宮崎さんにしても高畑さんにしても、
大塚さんという人のことは、
共通してたいへん尊敬していまして。
宮崎と高畑にとっての
実質的なデビュー作と言える
『太陽の王子ホルス』を作るときに、
すべてのお膳立てをしてくれたのが
大塚さんですから。
高畑勲、宮崎駿が世に出るときの、
いちばんもとになった人だと思います。
大塚さんは、若い頃から
人に仕事やものごとを教えることが得意なんです。
アニメの制作には
絵コンテというものがつきものですが、
それを製本するときの
ホッチキスの留めかたとか、
高畑さんも宮さんも、
そういう細かいところをはじめとして、
すべて手ほどきを受けたのだそうでして……。
職場のムードメーカーでもあったようです。
みんながゴチャゴチャと
理屈を言っているときに、
それをすっとばして
なにかを言える人ですから。 |
糸井 |
大塚さん自身は、
誰からも教わってないんですか? |
鈴木 |
大塚さんは山口県のほうの出身で、
東京に来たときには、
厚生省の役人として
麻薬取締官をやっているんですね。
もともと絵が好きだったんだけど、
なかなか
そんな商売はないからということで
麻薬取締官になったというかたです。
アニメーションの世界に入ったのも
26歳ですから、
仕事をはじめた時期が、
一般的に言うと遅いんです。
ただ、もともと人が好きなのでしょうね。
実は英語や中国語も
堪能だという異色のかたです。
ところがそういう語学を、
誰から学んだかというと……。 |
糸井 |
女性、ですか? |
鈴木 |
まぁ、そういうことです。
つまり、
アニメーション界の中にあっては、
非常に外向的なかたなんです。
言葉がしゃべれるものだから、
若いころから、
気がつくと世界中を歩きまわってもいました。
もちろん彼も、
アニメーションの道を進みたいとは
思っていたのですが、
当時の東映動画という会社に、
後輩として
高畑勲と宮崎駿が入ってきたでしょう?
そのとき、おもしろいことに、
ご本人の言葉を借りると
「宮さんと高畑さんは
もう天才と秀才なんだから、
かなわないと思った」
と、カンタンに認めてしまうんですよ。
それで他に得意なものを
やっていこうという……。 |
糸井 |
見切りが、いいんですね。 |
鈴木 |
ええ。
だから、大塚さんは
アニメーションもやりつづけますが、
その一方でジープに
自分の生涯の半分をささげるんですね。
戦後、進駐軍のジープを見て
一目惚れしてしまって以降、
大塚さんはどんどん
ジープにのめりこんでいくんですが、
彼が何をやったかというと、
世界中でジープにくわしい人に
ひとりひとり会いに行って、
どちらがくわしいか、
勝負しにいったりするわけで……。
紹介状のひとつも持たないで、
知りたいジープのことを調べるためだけに、
アメリカのペンタゴンに直接でかけちゃう。
それでしかるべき資料に
行きあたってしまうという、
そういう男なんです。
ジープに関しては、
世界一だといばっている人でして……
いばっているだけではなくて、
どうも、実際にほんとなんですね。
世界中のジープマニアのなかでは
「オオツカ」と言えば
有名なんだと聞いたことがあります。
ぼくは彼が40代のころに
知りあったのですが、家に行くと、
もうとにかくホンモノのジープが
バーッと置いてありました。
駐車場がいっぱい借りてあって……。
乗せていただいたのですが、
大胆な生き方をした人で、
乱暴というのか、大胆というのか、
細心ではないというか、
まぁとにかく乱暴な運転なんです。
平気で畑のなかに入っていきますから。
「こんなことやったら、
怒られるじゃないですか!」
「……でも、気持ちがいいでしょう?」
それで、平気でいられるんですよ。 |
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(つづきます) |