糸井 |
宮崎さんの興味の広がりかたは、
やっぱり、好奇心でしょうかね?
「奇」を好む、という心……。 |
鈴木 |
彼の場合は
「当時、実際はこうだった」
ということよりも
「こうだったらいいな」
というものを作ることが好きなんです。
実際に、いろんなものを調べるけれど、
それだけではつまらないから、
と何かを加える。
荒川には
アジアの風景を持ってくるというように……。 |
糸井 |
イメージの発明家、みたいなものですね。
高畑さんも、
そういうところはけっこう似ていますよね。 |
鈴木 |
あの人も、好奇心のかたまりです。 |
糸井 |
そういう気持ちは、
宮崎さんを擁しているジブリの組織に、
家風のように、入りこんでいますか? |
鈴木 |
それは残念ながら、
彼らの個人としての持ちものです。 |
糸井 |
みんなに持っていてほしいですよね? |
鈴木 |
宮崎は、
スタッフにそれを要求していますよね。 |
糸井 |
ジブリでは、ことあるごとに
勉強会なんかしているみたいですけど、
そんなに簡単には、
宮崎さんのようにならないものですか? |
鈴木 |
ならないですねぇ……。 |
糸井 |
宮崎さんや高畑さんや鈴木さんの
考えのきっかけは、
やっぱり本が多いんですか? |
鈴木 |
本と、散歩の途中で
見た風景にあったものかなぁ。
これは共通点なのでしょうけど、
ジブリの周辺
半径1キロや2キロに何があるか、
いちばん知っているのは、
宮崎とぼくなんですよね。
他のスタッフは、
なかなかジブリから外に出ない。
なんでだろうなぁ、と思うんだけど。 |
糸井 |
「歩く」ということが
好奇心を磨く力っていうのは、
すごいですよねぇ。 |
鈴木 |
歩くことが好きなんです。
努力してるわけじゃないんですよね。 |
糸井 |
わかります。
つまり、本よりも読みやすくて、
濃い発見がありますよね。 |
鈴木 |
そうです。たのしいですから。
宮さんなんかも、
いまは一応『ハウル』の自分の絵の作業が
終わったところなんですが、
なにかをはじめるのかなと思ったら、
会社に来るのが遅くなったんです。
なんでかなぁと思ったら、
自宅からジブリまで、
歩いてきているんですよね……
片道、3時間。 |
糸井 |
うわぁ……。 |
鈴木 |
帰りも歩くんですよね。
足をくじくぐらい
がんばりすぎちゃうんですが、彼も、
歩くなかで見たものが好きなんですよね。
車や電車に乗っていては
見えないものが見えるから。 |
糸井 |
おもしろいですよねぇ。 |
鈴木 |
ぼくも最近、
ちょっと変えたことがあるんです。
恵比寿から小金井のジブリに
通っているわけだけど、
前は車で1時間だったのが、
最近車が増えて、
1時間20分ぐらいかかるようになってきた。
やはり車の運転ができるのって
1時間ぐらいまでなんです。
そこで会社とも相談をして、最近、
永福町に駐車場を借りることにしました。
小金井と永福町の間は車で行くけど、
永福町と恵比寿の間は、
遅くなったら車に乗りますけど、
なるべく電車に乗ってみたり、
興が向くと歩いたりしているんです。
今までとスタイルが変わると、
おもしろく見えてくるんですよね。
「あ、こんなところにも
こんなものがあるんだ」とか……。 |
糸井 |
やっぱり、歩いて見えるものって、
すごいですよ。
「近く」に
秘密がいっぱいあるんですよね。 |
鈴木 |
宮崎が絵コンテを描くときは、
結末がわからないなかで毎回悩むんですが、
その打開策も、
非常に身近なものだったりするんです。
『魔女の宅急便』の絵コンテで悩んだときは、
「鈴木さんの娘は13歳なのか。
いま、どうなっているの?」
と聞いてきたところからはじまりました。
『耳をすませば』の主人公の家の間取りも、
当時のうちの間取りなんです。
これも、宮さんが部屋に悩んでいるときに、
「うちはこうですよ」と言ったら
「それでいこうよ」ということになって……
彼はだいたい、
半径3メートル以内ですべてを決めるというか。 |
糸井 |
それって、
散歩で発見しているのと、同じことですよね。
宮崎さんは、基本的に、出てきたものは
みんなよしとするところがあるというか。
実は自分も
そういうタイプなのでよくわかるんですけど、
そんなに悪いものでなければ、
ひとつずつの発想って、
いいと思いたいじゃないですか。 |
鈴木 |
そうです。
だいたい、あとで、つじつまが合いますよ。 |
糸井 |
そうですよねぇ?
作品だって、
「この子どもでいいや」とか
「この社員でもいいや」とか、
そういうものの延長線ですから。 |
鈴木 |
ええ。
アイデアそのものは、
たいしたものではなくても、
どこかからポッと持ってきたものを、
いいものに
しあげさえすればいいんですもんね。 |
糸井 |
うん。
どこかにユートピアがあるわけではない。 |
鈴木 |
そうですよ。
特別なものがあるわけじゃないですもの。 |
糸井 |
これって、大きいテーマですよね。
もちろん、アイデアを
たくさん出すことは出すんだけど、
作品を作ることっていうのは、
基本的には、非常に現状肯定的ですから。 |
鈴木 |
ほんとに、現状肯定ですよね。
「現実はこうなっちゃっているから、
もうしょうがないじゃない」
っていう……(笑)。 |
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(つづきます) |