ジブリの仕事のやりかた。
ハウルの動く城・公開直前の最新談話!


25
 いちばんだいじな物語。

糸井 鈴木さんの
中日への気持ちは、おもしろいなぁ。

あれだけみんなが熱狂している
宮崎駿さんのすごい近くにいながら、
宮崎さんには、
さんざん、メスをズタズタに入れるほど
冷静に見ていて……。

まぁ「宮崎、最高!」とだけいっていたら、
映画のプロデューサーはできないし、
冷徹に見られないかぎりは、
ほんとのお手伝いはできないでしょうけど。
鈴木 そうかもしれないですね。
ただ、ジャイアンツも
待てばよくなると思いますよ。
糸井 まぁ、物語をキープするためには、
「なんやかんやいっても、
 ジャイアンツファンである」
というところは、
ぼくも、正直、持っていたいんですけど。

「俺はジャイアンツファンなんか、
 もうイヤだ!」
といいたいときは
何回もあったんですから……
長嶋監督解任のときとか、
このあいだの原監督解任のときもそうです。

長嶋解任のときは、その足で、
いったん読売新聞をやめました。
それで冬場はキャンプのかわりに
高校サッカーを見にいくようになったんです。

正月は、高校サッカーの決勝を
さんざん見てたのしんで……
ジャイアンツのことなんか、
俺はもうぜんぶ忘れた、といっていたのに、
開幕戦のチケット販売に
徹夜して並んでいる自分を発見したんです。

渋谷のハチ公のうしろがわの、
モヤイ像のところの
赤木屋ってプレイガイドで……。

ただ、あの時に運がよかったのは、
長嶋監督の後任が藤田監督で、
実は、ジャイアンツの野球は、あれから、
もっと、おもしろくなっていったんです。

ただ、今はそういう期待は
ちょっとできないからなぁ。
ジャイアンツとは、別居状態です。

鈴木さんは、ドラゴンズから
気持ちが離れた時期って、ないんですよね?
鈴木 実は、一度だけ、ありました。

それは何かというと……
ぼくは、今、東京にいますよね。

なかなか、
名古屋の試合って見られないんです。
だから、新聞その他で読むか、
ラジオで聴くしかない。

そうすると、
ドラゴンズの試合を観戦するというのが、
テレビで見ることも含めて、
ほんとうに少ない機会しかなかったんです。

ところが、
CSテレビなんていうのができた。
ぼくは当時の
ディレクTVというところに契約しまして。

するとなんと、
ドラゴンズの試合が見ほうだいでしょう?

だから、見はじめたんです。
ショックでしたよねぇ……。
糸井 どこがですか?
鈴木 それまで、
東京では月に一回も見られない
ドラゴンズの試合を、見ようと思えば
毎日見られるようになりました。

土日もちゃんと見られる……
そうしたら、新聞に書いてある野球より、
ほんものの野球って、
つまらないことが多かったりするんです。
糸井 (笑)
鈴木 これが、どれだけつらかったか!

ぼくの毎日の日課が
なにかというと、毎晩、
とにかくドラゴンズが勝った日には、
早朝に中日スポーツが
家に来るまで待っているんです。

それでも我慢できないときには、
家の前が新聞屋さんなんですけど、
そこにとりにいくんですよ、
中日スポーツだけくれって。
糸井 (笑)
鈴木 すごい格好で、
新聞屋さんに行くんですけどね。
向こうもわかっているので
中日スポーツをくれる。

まぁ、大抵は
午前三時ぐらいには届くから
それをとりにいって、たのしみに読んで、
ちゃんと見てから眠るというのが、
ぼくにとって大切な日課だったんです……。

ところが、ディレクTVがはじまって、
いろんな試合を、いっぱい見はじめたでしょ?

そしたら、やっぱりひとつわかったことは……
東京で全国中継される試合、
あるいは全国中継される
ジャイアンツとの試合はがんばるけど、
それ以外は、あんまりがんばっていないという──。
糸井 バレちゃった!
鈴木 バレちゃったんですよ、これが!
糸井 あぁ……。
鈴木 新聞さえ読んでればね、
毎日、がんばってたの。


ラジオで聴いてれば、
すごい試合だったんです。

ところが……。
糸井 つまり、物語だったんだ?
それが、テレビでバレちゃった。
鈴木 見たら、わかっちゃったんですよ。

それで、CS放送の解説者って、
静かに解説するじゃないですか。

暗くて、イヤになっちゃったんです……
ぼくはとにかく、
ものごころついたときから、
中日スポーツを隅から隅まで、
しかもドラゴンズに関する記事は、
ほとんど二回から三回は読んでいたんです。
糸井 (笑)つまり、もはや、
『三銃士』とか『巌窟王』とかを
読むみたいに読んでたわけですよね?
鈴木 そうです。

ところが、
ディレクTVを見はじめてから、
というものの、その中日スポーツを、
最初のうちこそ、読んでいましたが、
見だししか見ない自分に気づいて……。

これは、ショックだったんです。
糸井 それは……
今年のジャイアンツ記事に対する、
自分の反応であります!
鈴木 ぼくにとって、それまで、
年に数回のドラゴンズ・ジャイアンツ戦を
テレビで見ることが、
いかに貴重だったのか、
それを思いしらされたんです。
糸井 あぁ、つまり、
ごちそうを食べる合間に、
素うどんを見ちゃったわけだ……。
鈴木 そうなんです。
それでぼくは一年後に
ディレクTVを解約するんです。

ところが解約はしたけれど
自分の中にずいぶん後遺症が残っていて……
やっぱり、簡単には癒えないんです。

中日スポーツが来てもやっぱり読めない……
その後遺症は、三年くらい続きました。
ほんとにつらかったですから。

ぼくにとっては、
中日スポーツが命だったんです。
それを読んでもおもしろくないとくれば、
もう……。

糸井 つまり、中日スポーツについては、
ウソのほうが好きだったってことですよね?
鈴木 おっしゃる通りです。
糸井 ほんとのことなんか、好きじゃない、と。
鈴木 そう。
ほんとに癒えるのには、
何年かかったんですかねぇ……
やっと癒えてきました。

今年の落合は、特に癒えましたよねぇ。
糸井 今年は、なんか、癒えてそうですね。
顔を見ていても。
鈴木 いやぁ……もうぜんぶね……
ぼくの中で、そういうものが、
すべて、もとに戻ったんです。

もう、今は、毎朝、
中日スポーツを読んでますね。
糸井 そうおっしゃるということは、
去年は、まだ後遺症が
あったってことですか?
鈴木 まぁ、あったでしょうね……
告白しますと、ありました。
糸井 中日以外のことについては、
ものすごくクールに見ている
鈴木さんが、そこまでいう……!
鈴木 (笑)すいません。

ぼく、中日の話になると、
こうなっちゃうんですよね。
  (明日に、つづきます)


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2004-11-02-TUE


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