糸井 |
鈴木さんの
中日への気持ちは、おもしろいなぁ。
あれだけみんなが熱狂している
宮崎駿さんのすごい近くにいながら、
宮崎さんには、
さんざん、メスをズタズタに入れるほど
冷静に見ていて……。
まぁ「宮崎、最高!」とだけいっていたら、
映画のプロデューサーはできないし、
冷徹に見られないかぎりは、
ほんとのお手伝いはできないでしょうけど。
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鈴木 |
そうかもしれないですね。
ただ、ジャイアンツも
待てばよくなると思いますよ。
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糸井 |
まぁ、物語をキープするためには、
「なんやかんやいっても、
ジャイアンツファンである」
というところは、
ぼくも、正直、持っていたいんですけど。
「俺はジャイアンツファンなんか、
もうイヤだ!」
といいたいときは
何回もあったんですから……
長嶋監督解任のときとか、
このあいだの原監督解任のときもそうです。
長嶋解任のときは、その足で、
いったん読売新聞をやめました。
それで冬場はキャンプのかわりに
高校サッカーを見にいくようになったんです。
正月は、高校サッカーの決勝を
さんざん見てたのしんで……
ジャイアンツのことなんか、
俺はもうぜんぶ忘れた、といっていたのに、
開幕戦のチケット販売に
徹夜して並んでいる自分を発見したんです。
渋谷のハチ公のうしろがわの、
モヤイ像のところの
赤木屋ってプレイガイドで……。
ただ、あの時に運がよかったのは、
長嶋監督の後任が藤田監督で、
実は、ジャイアンツの野球は、あれから、
もっと、おもしろくなっていったんです。
ただ、今はそういう期待は
ちょっとできないからなぁ。
ジャイアンツとは、別居状態です。
鈴木さんは、ドラゴンズから
気持ちが離れた時期って、ないんですよね?
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鈴木 |
実は、一度だけ、ありました。
それは何かというと……
ぼくは、今、東京にいますよね。
なかなか、
名古屋の試合って見られないんです。
だから、新聞その他で読むか、
ラジオで聴くしかない。
そうすると、
ドラゴンズの試合を観戦するというのが、
テレビで見ることも含めて、
ほんとうに少ない機会しかなかったんです。
ところが、
CSテレビなんていうのができた。
ぼくは当時の
ディレクTVというところに契約しまして。
するとなんと、
ドラゴンズの試合が見ほうだいでしょう?
だから、見はじめたんです。
ショックでしたよねぇ……。
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糸井 |
どこがですか?
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鈴木 |
それまで、
東京では月に一回も見られない
ドラゴンズの試合を、見ようと思えば
毎日見られるようになりました。
土日もちゃんと見られる……
そうしたら、新聞に書いてある野球より、
ほんものの野球って、
つまらないことが多かったりするんです。
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糸井 |
(笑)
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鈴木 |
これが、どれだけつらかったか!
ぼくの毎日の日課が
なにかというと、毎晩、
とにかくドラゴンズが勝った日には、
早朝に中日スポーツが
家に来るまで待っているんです。
それでも我慢できないときには、
家の前が新聞屋さんなんですけど、
そこにとりにいくんですよ、
中日スポーツだけくれって。
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糸井 |
(笑)
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鈴木 |
すごい格好で、
新聞屋さんに行くんですけどね。
向こうもわかっているので
中日スポーツをくれる。
まぁ、大抵は
午前三時ぐらいには届くから
それをとりにいって、たのしみに読んで、
ちゃんと見てから眠るというのが、
ぼくにとって大切な日課だったんです……。
ところが、ディレクTVがはじまって、
いろんな試合を、いっぱい見はじめたでしょ?
そしたら、やっぱりひとつわかったことは……
東京で全国中継される試合、
あるいは全国中継される
ジャイアンツとの試合はがんばるけど、
それ以外は、あんまりがんばっていないという──。
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糸井 |
バレちゃった!
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鈴木 |
バレちゃったんですよ、これが!
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糸井 |
あぁ……。
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鈴木 |
新聞さえ読んでればね、
毎日、がんばってたの。
ラジオで聴いてれば、
すごい試合だったんです。
ところが……。
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糸井 |
つまり、物語だったんだ?
それが、テレビでバレちゃった。
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鈴木 |
見たら、わかっちゃったんですよ。
それで、CS放送の解説者って、
静かに解説するじゃないですか。
暗くて、イヤになっちゃったんです……
ぼくはとにかく、
ものごころついたときから、
中日スポーツを隅から隅まで、
しかもドラゴンズに関する記事は、
ほとんど二回から三回は読んでいたんです。
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糸井 |
(笑)つまり、もはや、
『三銃士』とか『巌窟王』とかを
読むみたいに読んでたわけですよね?
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鈴木 |
そうです。
ところが、
ディレクTVを見はじめてから、
というものの、その中日スポーツを、
最初のうちこそ、読んでいましたが、
見だししか見ない自分に気づいて……。
これは、ショックだったんです。
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糸井 |
それは……
今年のジャイアンツ記事に対する、
自分の反応であります!
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鈴木 |
ぼくにとって、それまで、
年に数回のドラゴンズ・ジャイアンツ戦を
テレビで見ることが、
いかに貴重だったのか、
それを思いしらされたんです。
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糸井 |
あぁ、つまり、
ごちそうを食べる合間に、
素うどんを見ちゃったわけだ……。
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鈴木 |
そうなんです。
それでぼくは一年後に
ディレクTVを解約するんです。
ところが解約はしたけれど
自分の中にずいぶん後遺症が残っていて……
やっぱり、簡単には癒えないんです。
中日スポーツが来てもやっぱり読めない……
その後遺症は、三年くらい続きました。
ほんとにつらかったですから。
ぼくにとっては、
中日スポーツが命だったんです。
それを読んでもおもしろくないとくれば、
もう……。
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糸井 |
つまり、中日スポーツについては、
ウソのほうが好きだったってことですよね?
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鈴木 |
おっしゃる通りです。
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糸井 |
ほんとのことなんか、好きじゃない、と。
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鈴木 |
そう。
ほんとに癒えるのには、
何年かかったんですかねぇ……
やっと癒えてきました。
今年の落合は、特に癒えましたよねぇ。
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糸井 |
今年は、なんか、癒えてそうですね。
顔を見ていても。
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鈴木 |
いやぁ……もうぜんぶね……
ぼくの中で、そういうものが、
すべて、もとに戻ったんです。
もう、今は、毎朝、
中日スポーツを読んでますね。
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糸井 |
そうおっしゃるということは、
去年は、まだ後遺症が
あったってことですか?
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鈴木 |
まぁ、あったでしょうね……
告白しますと、ありました。
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糸井 |
中日以外のことについては、
ものすごくクールに見ている
鈴木さんが、そこまでいう……!
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鈴木 |
(笑)すいません。
ぼく、中日の話になると、
こうなっちゃうんですよね。
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(明日に、つづきます)
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